こんなものにも、こんなに種類があるのね!
事の次第は、ある友人が、R型エンジンの純正オイルレベルゲージが欲しいという話から始まりました。
入手した「R型用の純正オイルレベルゲージ」が使えないということで、聞いてみたところ、差し込み部分のパイプ口径が小さくて入らないというのです。
これは、部品の構成が途中から変更になっているからです。
画像で見れば一目瞭然です。
G型 R型初期 恐らくH型も、ただのパイプがブロックに差し込まれているこの形状です。
概ね1966年くらいまでに製造されたものはこちらのようです。
そして、改変され、
R型後期 U20型 H20型 SD22型 では、差込部分の口径を広げた形状のパイプに変更されました。
こちらは、その後のL型 A型 J型なども同様形状になっています。
では、パイプ部分のサイズを測ってみます。
まずは、黒いブロックから。R型前期と呼ばれるクランク支持が3ベアリングのタイプです。
茶色く錆びていますが、黒塗装です。
外径9.5mm、つまり3/8インチということ。
そうです、このブロックはインチ規格。ボルト類もみんなインチなのでした。
次に青いブロックです。
10mmです。メートル規格のブロックです。
こちらは、R型後期です。クランク支持は5ベアリングになっています。
これを踏まえたうえで、今回のお題の「オイルレベルゲージ」について考察していきます。
ここに4本の「オイルレベルゲージ」があります。
上から、ⒶⒷⒸⒹとします。
Ⓐ G型用として入手したもの。
Ⓑ R型用として入手したもの。
Ⓒ 小生の5ベアリングブロックに刺さっていたもの。
Ⓓ 小生の3ベアリングブロックに刺さっていたもの。
となります。
結論から先に述べますと、
Ⓐ G型 R型初期用
Ⓑ U20型 R型後期用
Ⓒ R型後期 H20型 SD22型用 主に商用車系
Ⓓ J13用
でした。
形状や刻印等により検証していきます。
・取っ手
取っ手の形状からは、何用かなどは見当もつきませんが、ⒶⒷは、ほぼ同じ形態なので同一車種であろうと推測できます。
油面測定部
それぞれに特徴がありますが、ゲージ差し込み位置を一定としたときに、油面計測部の位置がⒹだけ異なります。
小生が3ベアリングブロック使用時に"なんかオイルが少ないと感じていた”のは、このせいだったようです。
何せJ13エンジン用だったわけですから違って当然です。でも、油量が多い方でよかったのかもしれませんね。
そしてこのJ13用を裏返すと数字が刻んであります。
Ⓐには刻まれていませんでしたが、ⒷⒸⒹにはそれぞれの数字が刻まれています。
これは、部品番号です。
1965年発行のSP311の部品カタログには、オイルレベルゲージの部品番号は下記のように記載されています。
2段目の部品番号にはⒷと同じ「12201」数字が確認できます。そして、U.S.A.とも。
つまり、Ⓑは1965年(昭和40)時点では、この番号の部品は北米仕様用だったといえるでしょう。
そして、ここには記しませんが、1968年(昭和43)のSR311 SP311の部品カタログには共通に記載されていました。
従ってⒷは、「U20型 R型後期用」ということがわかります。
因みに「122」はフェアレディ1500(SP310)の部品型式番号です。
なので、同じG型エンジンを積むセドリック(30,31)とは区別されていると思われますので、H型共々形状が違うと思われます。
サンプルがないので全くの推測ですが、ⒹのP410用に差込み部形状が似ているのかもしれません。
上記に基づいて他の数字も調べてみると、Ⓒは、部品型式番号が「740」ですから、ニッサンジュニア (41)から採用されたものであると推測できるので、搭載エンジンの「R型 H20型 SD22型用」と思われます。形式こそ異なりますが、ブロックの基本はほぼ同一ですので、こちらは商用車用として設定されたものではないかと推測しています。なので、使用上は全く問題ありません。むしろ以降のエンジンのオイルレベルゲージの作りが似ていますので、これが起源かもしれませんね。
「41型」は「40型」ジュニアのマイナーチェンジ版で1965年(昭和40)10月に発売されています。ちょうど、日産各車のインチ規格からメートル規格への移行がこのあたりの年式から行われています。
続いて、Ⓓには部品型式番号が「106」とあるので、ブルーバード(P410)用であることがわかるので、搭載エンジンの「J13型」用であることがわかりました。「02」と続くので2回改変があったのかもしれません。
Ⓐについては何も数字が入っていません。ただ、間違いなく「G型 R型初期用」ということはわかっていますので、部品番号としては「12200」に該当するものです。入手先では他のR型初期のブロックにも同じものが刺さっていましたので間違いないでしょう。
従いまして、上記の結論が紐づけられるのです。
因みに、「部品型式」は、1970年代初期までの部品カタログには記載されているのでそれを参照し調べています。
・差込み部分
左からⒶⒷⒸⒹ
Ⓐ プレス部品、組立工数など手の込んだ構成で趣のある部品ですが、コストがかかっていそうです。
Ⓑ Oリング装着のみのシンプルな構成です。
Ⓒ Oリング装着ですが、ゲージ部分をリベット留めとしているので、取っ手とゲージは、それぞれ各エンジン用の部品として組合せを変えるだけでバリエーションが豊富になりそうです。実際に、各車種用に「部品番号違い」が多数あります。
Ⓓ ゴムコーティングされています。ゴムがやせたり欠けたりすると難がありそうです。
ⒷⒸは、Oリングの交換で機能回復しますが、Ⓓは全交換になりますでしょうか。
最後に、「G型 R型初期用」のクローズアップを見てみることにします。
・傘部分
とても複雑な構造になっています。
裏には、ゴムシートが入っています。
・軸部分
単なる丸棒ではなくて、微細な曲げ加工など手が込んでいて、機能美さえ感じ取ることができそうです。
普段あまり気にもしていなかった「オイルレベルゲージにも」高度成長時代の技術者の何かを感じたようにも思いました。
以下は、参考のために、この記事記載の「エンジン型式」の簡単な紹介をしておきます。
排気量は通り名での表記で正確な排気量ではありませんので、あしからず。
・G型 1500cc OHV 4気筒エンジン。
初代セドリック、ジュニア等の商用車に搭載されたのち、フェアレディにもSUキャブ装着で搭載される。
このエンジンブロックが基本となり、以降の系列エンジンの元となっている。
日産のエンジンは一般的に、L16,L20,A12,A14のように型式+排気量上2桁表記が基本と知られていますが、
それ以前のエンジンは一見同一系統には見えないものとなっていますので注意が必要です。
1965年(昭和40)位より順次改変されているようです。
・H型 G型を1900ccにしたもの。セドリックと、ジュニア、キャブオール等の商用車に搭載される。
・R型 G型を1600ccにしたもの。フェアレディに搭載される。のちに商用車やフォークリフトにも搭載される。
・H20型 H型を2000ccにしたもの。搭載車種もH型同様。のちにフォークリフト用としてH25型もあり。
・U20型 R型を2000ccにし、OHCエンジンとしたもの。5ベアリング化。フェアレディ専用エンジン。
・SD22型 H型を2200ccのディーゼルエンジンとしたもの。同系として、SD20型、SD23型、SD25型エンジンがある。
その他、ブロックを6気筒化したものがあります。
・K型 H型を6気筒化し、2800ccにしたもの。セドリックスペシャルに搭載。
・H30型 H20型を6気筒化し、3000ccにしたもの。プレジデント、C80トラックに搭載。
・SD33型 SD23型を6気筒化し、3300ccにしたもの。
C80トラック、サファリ、シビリアン、他に米国のインターナショナル、スカウトや、ジープCJ-10にも供給されていた。