世に、ギャップのある人ほど魅力的って言います。
プライベートではとことんダメ男なのに、仕事はかなりのやり手、とか。
女もそう。普段は地味なのに、ふとした仕草が妙に女っぽかったりしたら、おっ..と思ったり。

それにしても、昨日出会ったあの彼女の、華麗なるギャップ度にはかなわないかもしれません。
きっと運命だったのでしょう、私がたくさんのお店が連なっている中でさほど迷うことなく、月島の路地裏にある「もん吉」というもんじゃ焼き屋の扉を開けたのは。

「いらっしゃいませーっ」
明るく活気のある店内は、ほぼ満席。芸能人の色紙も壁のいたるところに飾られています。
なかなかの有名店らしい。私たちは、多数のメニューから、2種類のもんじゃを注文してみることに。
程なくして、もんじゃのタネを持って、そう、彼女がやってきたのです。
アルバイトの彼女、歳の頃20代前半だろうか、金髪のメッシュを入れた黒髪を気怠く後ろで一つにまとめ、ほのかに元ヤン的な雰囲気。顔はごく普通で、どちらかというと小太り体型。Tシャツが、かなり肉感的なボディをあらわにしています。

「こちらで焼きますか?」
「あ、お願いします」
「じゃ油ひいてください」
ぶっきらぼうに言われます。とりあえず、言われるがまま、油を鉄板に落としました。
そして、そこからそのアルバイトの彼女の舞台は始まったのです。

色白の両手、しっとり湿り気のある質感の指先。なかなか爪も綺麗に手入れしている。右手の薬指には華奢なリング発見。長年つき合っている男の影。
そのしなやかな両手は迷わずもんじゃのタネの入ったお椀をつかんだかと思うと、一気に具材を鉄板へ落し入れました。そして間髪入れず、彼女は自分流であろう握り方でへらを握り、上下左右、手慣れた手つきで一目散に、それはそれは勢いよく、肉野菜を砕き出したのです。

カンカンカンカン、カンカンカンカン、


無機質な、一定のリズム。
強く、激しく、奏でる。
そして、なぜだかとても、艶っぽく!

なるほど。これが、彼女の鼓動なんだと、その時ハッと思わされたのです。

あっという間に微塵となった食材たちは、粉の粘りで一塊に。
彼女のフィニッシュが近づいていました。一日何十回繰り返しているであろう、その行為。彼女の思うまま刻み刻まれ食べごろになったもんじゃ。最後にその巧みな右手で、食材の周りをスルーっと一回転、へらで沿わせ、もんじゃを丸い形に整え、化粧を施します。
その仕草はまるで、昔、遊女がひゅるりと着物の裾をひるがえし、未練なく一晩の男のもとを去るような、華麗なまでの締めのふるまいのよう。

「お見事!」
思わず私は叫びました。

あでやかな月島の夜。
さびれた路地裏のもんじゃ焼き屋で、思わぬ女の艶に出会うというギャップ。
普段よりビールが進んだのは、言うまでもありません。

密かに気になっていました。
でも、これまで誰も頼む人を見た事がなかったのです。おそらくそのネーミングから声に出してオーダーするにはちょっと恥ずかしいというのもあるのでしょうか。
その名も、パラダイス(楽園)というカクテル。
「それを飲むとパラダイスに行った気分になります」とか、「まさにパラダイスのような」とかいう説明が、よくメニューに書かれていたり。ですがひねくれた私はそれを読むたび思うのです。あなたの知ってるパラダイスって、どんなよ?私の知ってるパラダイスとは同じではないはず、と。

ややこしい女でごめんなさい。
でも、先日、思い直したのです。
もしこのカクテルが、パラダイスの世界共通言語だとしたら。
そしてその味を知らないのだとしたら。
大げさだけど、生きてて損とはまさにこのこと!

ということでまず自分で作ってみることに。
ドライジン、アプリコットブランデー、オレンジジュースを入れ、シェイク。ショートグラスに注ぐ。
新鮮なフルーツの香りが、南国風。なるほど遊暑地のイメージ。
一口いただく。、、、うん、甘くて華やかな感じで、美味しい。

これが、世にいう、パラダイス。
だとしたら、案外そこには誰でも気軽に遊びに行けるのかも。

・・・なーんだ。
その普通度に、テンションが落ちた。そんな誰もが到達出来るところ、私にとってはパラダイスでもなんでもなかったからです。自分で作っておきながら腑に落ちず、しかもこれがそのネーミングをとる程のものだとしたら、なんとも残念極まりない感じがしたのです。

マスター、これってパラダイス?と、試しに一口飲んでもらう。
すると、やはり。安心した答え。
「パラダイスって、難しいんだよね」

そして、今度はマスターがシェイカーを振る。
カクテルは、たとえ入れるお酒の分量が同じだとしても、作る人によって全く違う出来になるんです。美味しいカクテルは、技術はもちろん、色んな意味で厚みのあるバーテンダーにしか作れないものだから。

マスターが作ったパラダイスを、一口いただいてみる。

・・・さっすが。
確実に、私の作ったものとは比にならないほど、上質。美味しい。

なのに次の瞬間、
「んー、ちょっと違った」
自分で作ったそのパラダイス、一口飲んでマスターはそう言い放ったのです。

マスターの中では、これでも納得いかなかったんだ、、、

やっぱり、「パラダイス」は共通言語ではないのですね。
だからこそ、そこにすぐにたどり着ける人とそうでない人がいる。

正直に言うと、私もまだたどり着けない側ですから。


今更ながら私、ZESTにはまってしまったのです。

西麻布で、深夜(というかほぼ早朝)に小腹が減り、一緒にいた友人と、なんか食べよなんか食べよ、とお互い懇願するように言い合い、店を探す時間も惜しいほどの空腹により、いいよねいいよね、と確かめあうように目の前のZESTに入ったあの日。

学生時代以来、ご無沙汰のZESTだった。
同じ系列のボエムは、昼の会社が近いこともあって今でもかなりの頻度で利用しているが、ZESTって、、、ちょっとアメリカンな感じとか、カロリー高そうだし、味もおおざっぱな気がするし、なんだかしばらくそんなステージでもないよねぇってことで、正直気にすることもない存在だったのだが。

なんと恐るべしグローバルダイニング(この系の会社名ね)。
まさに目から鱗だった。
私を魅了したのは他でもない、ZESTで、こんなに美味しくバーボンがいただけるんだってこと。
ハーパー、フォアローゼス、メーカーズマーク、、、おいているのは定番もの。だけど、ソーダ割りなんかにして、チーズとアボガドとサワークリームがのったナチョスとか、何種もの野菜がふんだんに食べられるコブサラダとか、そういうアメリカンな食べ物と、発生地が同じだから当たり前だけど、これらのバーボンが非常に合うではないか!それに、お互いを惹き立てあえるようなレシピを考え、提供出来る、そのZESTの飽くなき探究心、開発力、センスは、かなりの賞賛に値するのではないか!

なので私、今更ながらって失礼ですけど、ZESTにはまっているのです。
もちろん、バーで飲むバーボンとは違うけど、食事と一緒に飲む時のバーボンだったら、全然ZESTのバーボンでいい!低価格、そして高サービスなのだし。

ましてや深夜(というか早朝)までやっているってのが、なにより働く女の、強ーい味方なのですから。