錆びて折れ曲がった鉄骨に、放置されたまま動かなくなった重機械。

足元に薄く積もる埃に、破れた天井から差し込む自然光しか照明を持たない薄闇。

産業の発展と経済の盛衰の波に呑まれてかどうかは知らないが、幾年も前から放置されている港湾の廃工場。その様相が僕の目の前に広がる。

両手に刀を携えたまま、僕は周囲に気を配る。

気配はない。しかし、ないというよりは察知できないと言った方が正しいだろう。

何故なら僕に対して攻撃意思を持った人間がここにいることを、僕は知っているからだ。

気配を探り乍ら、意識の半分で周囲の地形の把握を始める。重機器がある程度の規則性を持って並んでおり、視界は悪い。追加的な情報としては機器の幾つかは老朽によって崩れ落ち、その箇所だけは例外的に視界が開けている。

しかし抜けて床に積もった天井や捻じ曲がった梁が、気まぐれに空間を占領していて自由な動きを阻害される。

いつも通り、これだと僅かに僕が不利かもしれないな。そう考えながら刀を目の前の機械に突き刺す。素早く魔銃を抜き放ち、その勢いのまま真横に発砲。流れるような所作でホルスターにしまい、機械から抜いた刀を背後に放つ。魔弾と斬撃が同時に目的物を弾き飛ばす。

それは薄いブレードだった。

右手で銃と刀を操る傍ら左手で掴んでおいた外套を、右の刀を振り切ると同時に翻す。

眼前に展開した魔術の炎を魔術強化繊維が弾く。防戦一方かよ。

そう思っているうちにも僕の身体に力場が働く。まるで重力のような作用力。初動の衝撃はたいしたことない。無抵抗に飛ばされるうち加速がつき、壁に叩きつけられそうになるが体勢を制御して着地。一緒に飛んできて壁に突き立っていく鉄片を事も無げに躱す。

壁に両足を付いた姿勢のまま跳躍し、重機器を蹴りながら移動する。

しかし本物の彼女は見当たらない。態とらしく顕れた彼女に発砲。当然のように幻影で弾を浪費する。

とはいえ僕も闇雲に動き回っていたわけではない。

頭の中の周辺図上にに彼女の攻撃範囲から逆算した居場所がドーナツ状に浮かび上がり、僕が直接確認した場所が消える。更に地形情報から可能性として低い場所を除けば・・向こうの機材の影か、あちらの巨大な装置の影だろう。


パチパチと、火にくべた枝がが鳴く。

その横で僕たちはオレンジに染まりながら、龍を捌いていた。

「脂身は除けよ?臭いから」

「リベルの口の中に捨てれば、食糧問題に光明が・・!」

「ささねぇよ。くだらねぇこといってないで早く捌け」

「ふふふ、これが・・私の本気・・・!」

「あ゛、てめぇ、丸ごと肉削ぎ落としてんじゃねぇよ!」

「どうせ全部は食べきれないわ」

肉片を捌きながら放たれた言葉に僕は龍の遺体を振り返る。

「・・まぁ、そうだがよ」

脂身を取り除き終わった肉片を削った木の枝に刺し、火にかける。

ジュウと音がし煙と肉の焼けるにおいがあたりに漂い始めた。

定期的に焼ける面を調整しながら、テキトーに言葉を吐き捨てる。

「ときにエリエス、生物を殺すってのはどういうことだと思う?」

エスがこちらを振り向く。こいつ何言ってるんだという彼女の気持ちを、そのジト目が素晴しく表現しているが、華麗に黙殺。

「…生きるために必要なこと。少なくとも私たちの食文化で言えばね」

「回答が安易過ぎる」

僕はそういって串に刺さった肉を別の串でほぐしてみる。まだだ。

「仕方ないでしょう。私の、そして貴方のスタンスでは、生物を殺すことに善悪などないのだから」

「遊戯として殺してもか?」

「道徳的に戒められる行為であったとしても、完全な意味での善悪はないと考えるわ。満たされる欲求が食欲でないだけ」

炎のオレンジ色と夜の闇の間の紫を見つめたまま僕は言葉を返す。

「僕以外の賛同は得られないぞ?それは人間が生きるために何をやってもいいのだと言っているのと変わらない。それどころか、別に目的が生存でなくとも何をしても構わないと豪語しているようなものだ」

「分っているのでしょうけど、少し違うわ。善悪とやっていいこといけないこと、やるべきことそうでないことは違うもの」

「つまり生物を殺す行為は中庸であって、道徳的にはやるべきではないということか?」

「道徳的にどうかという問題はやはり状況によるのだと思うわ。いえ、これは少し難しい問題ね」

でも今は、と言ってエリエスが言葉を繋ぐ。

「こう考えておきましょう。人の背中を押してよろけさせる悪戯は罪でないけれど、屋上の端でやればそれは罪だわ」

「しかしそれは悪意の介在の問題じゃないのか?そしてやはり、善悪の問題で論じていない」

「悪意の介在は目的の問題に直すことが出来るはずよ。つまり、殺意によって動けば罪で、享楽で殺せば不道徳なのよ。そして善悪で論じていないのは貴方の質問を待ってるからよ」

そう言ってエスがこちらを見る。その視線がエスの方をぼんやりと眺めていた僕の視線と絡むが、気色悪いので直ぐに逸らし払う。

火が通ったらしい肉を齧る。堅っ。

「…人を殺すのはどういうことだ?そもそも悪なのか?」

「圧倒的に不道徳で、あってはならないことよ」

「しかし君はそう思っていない。そうだろ?」

「貴方もね。ニーチェがなんて言ったか知ってる?」

僕は記憶を探るように視線を彷徨わせる。

「ツァラトゥストラはかくかたりき?」

「…それって著書名でしょ」

「神は死んだ。我々が殺したのだ。神を殺した以上、我々は神のごとき存在にならねばならないのか?」

「それも有名だけど…こっちよ。『重罰になる可能性も考慮に入れて、どうしても殺したければ、やむをえない』なぜ人を殺してはいけないのかに対する答えよ」

「ああ、なんだそれか」

「なんだって、流れ的にこれ以外の選択肢があったわけ?貴方の答え、野球で例えるとボールどころか自軍のファーストの頭蓋骨陥没させたくらいの超暴投なんだけど」

「まぁ、そういうこともままある」

「あってたまるか」

僕は堅い肉を必死に噛み千切りながら言う。

「それで、僕たちはそれに賛成なわけ?」

「賛成ではないけれど、基本的にこの議論は平行線なのよ」

「成る程。でも結果から言うと僕らのスタンスはそれに近い、と?」

「そうね。私たちは人殺しを責める気は毛頭ないわ」

「じゃあ人殺しをどうするの?」

「退場してもらうだけよ、邪魔だから。人を殺す人間はいつ私を殺すか分らないわ。殺人鬼だらけの世界は殺人鬼にとっても都合が悪い。そのことを優しく学んで頂けると思うわ」

「でも問題は何も解決してないよな」

僕が投げ捨てた言葉に、エスが肉に齧りながら答える。

「それが私たちのやり方なのだから仕方ないと思うけど。要するに」

「安易な答えなら出さない方がましだ」

ってことだろ?そう言って僕は立ち上がり、伸びをする。

見上げた夜空の下、しかしどこか遠いところで野獣の哭するのが聞こえた。

その鳴き声は何かを伝えるように長く続いたが、それは僕の単なる感傷がそう感じさせただけかもしれない。

寝床の準備をしなきゃならないな。

そんなことを考えながら、僕は焚き木を離れた。



教科書の効果がいまいち分らないですね。まぁ効果なくてもいいのですが。

一応気まぐれでクラスレベル3からメモったので、ちょうど10レベアップで記録してみます。

プリーストって案外満遍なく上がるんですかね。教科書無しでデータとってないので効果がないのかよく分りませんが、見た感じ乱数の範囲ですよね。

誰か素のデータと取ったら見せて欲しいです。

まぁ計算しようと思ったら少しは出来るんですが。


プリースト

 LV.3  →  LV.13(+10)


語学 37   41(+4)

理数 40   41(+1)

体育 44   48(+4)

音楽 45   47(+2)

美術 40   42(+2)

家庭 29   38(+9)