そう判断すると同時に氷雪比翼を広げ跳躍。
羽のように音もなく巨大な装置の上に着地。再度跳び、装置の裏側へ回り込む。いた。
二挺拳銃を構え発砲。初弾と次弾が彼女の構えたプレートに弾かれるが、三弾目でこちらの銃弾がプレートを弾き飛ばす。4,5,6ともう一方のプレートで凌がれたところで、彼女のフラワシが氷を吐く!
僕は氷雪比翼の出力を上げ相殺、空中でくるりと体を回転させ、ブーツから銃弾を放つ。しかし、彼女の眼前に出現した分厚い氷の壁によって弾かれる。彼女のフラワシが鉄のフラワシの能力によって発現させる権能だ。
彼女はそのまま飛び上がって宙を舞い、碧羅と瞑麗による攻撃を仕掛けてくる。
交錯する空中戦。彼女の碧羅を持ち替えた刀で打ち落とし、向かってくる瞑麗を銃弾で弾き逸らす。同時に放った魔術をフォースフィールドで掻き消され、ブーツから放つ銃弾をフラワシの能力で防がれる。
埒が明かないので、僕は刀構えて突撃。当然応戦するよう彼女は武器を構え、フラワシの発生せる氷の片鱗が空間に発生する。だが、僕と彼女が激突する前に彼女は下向きのベクトルに引きずられ、バランスを崩す。コントロールが上手く行かず、彼女はそのまま地面へと落ちてゆく。普段なら体勢を立て直す程度はできたかもしれないが、意識を全てこちらに集中させていたのでは対応できないだろう。僕も比翼をしまい地面に着地、這い蹲る彼女の鼻先に刀を突きつける。
「今回は僕の勝ちだな。まぁお互いに手の内が割れている以上こんな勝負の勝ち負けに意味なんてないんだろうが」
「・・・速く刀を退けなさい。不快だわ」
「まぁ待て。このままその首を掻ききったら僕に何か不都合があるのかと考えるのに忙しい。寧ろ、不都合を必死に探している」
言うと同時に僕は後方へ跳躍する。直前まで僕のいた位置に、穢れた空気が充満する。
「あぶねぇ!それは今回使用不可だと決めただろうが」
「知ってた?演習はもう終わってるの」
「小学生にしたってもう少しましないいわけ考えるぞ?」
「やあやあ、紳士淑女のお二方。こんな廃工場で逢引かい?いいね、俗物じみてていい」
僕とエリエスが声のした方向に素早く振り返り、それぞれの武器を構える。
そこには暗い蒼色の髪に瞳、磁器のような肌に紅い唇の少年がいた。着ているものまで濃蒼のスーツであり、今しがた陽が沈んだばかりの宵闇から滲み出したかのようだ。
「ん?なにさ、不躾に。そんな物騒なものしまいなよ。当たったら痛いし、それに君たちの目的を達成しようとするには、てんで役不足だ」
「なにか用?」
そうエリエスが零す。つまらなそうに。
「いいね、お決まりの台詞ってやつでしょう?いや、最近こっちに来たばかりだからこっちの勝手は分からないんだけど。僕のいたところでは、そういうのありきたりって言うんだよ」
「質問の答えになってねぇぞ」
僕が吐き捨て、同時に銃を放ち少年の髪の毛を数本持っていく。くだらね。
「はぁ、まぁ馬鹿には分かんないか。さくっと本題に入ると僕は人間と契約を結びにきたんだよ」
「はい、そうですか。それはそれは態々遠いかどうかよく分からないところからお越しくださいました。貴方様の契約が成立するよう我々一同心から願っております。それではお体にはくれぐれもお気をつけて」
僕は別れの挨拶とばかりに手を掲げて立ち去ろうとする。
「君は言葉が理解できないのかい?この辺の人間は識字率が高いと思ってたんだけれど会話できない人間がいるとは。待って、人間さん」
「僕は今言葉をまともに話すことが出来ない最大級の馬鹿を目の当たりにして驚いているんだが、もしかしてもしかすると人間っていうのは僕のことか?」
「君と、そこの女の子のことだけど。人間に人間以外の呼び方があるとでも?」
「あるに決まってんだろ、低能。しゃあねぇな、別に勿体ぶるような名前でもねぇし教えてやるよ。僕はリゼネリという。因みに僕の隣にいる粗大ゴミじみた生ゴミはエリエスという。勘違いするなよ?僕に生ゴミに名前をつけて喜ぶ趣味はねぇからな?」
「今、隣のリゼネリという空気の塊から何故か私の名前が聞こえた気がするけど、多分空耳。私はエリエスというわ。まぁ見たところあんまり宜しくしたくない人種のようだけれど、一応儀礼的にいっておくわね。さようなら」
「リゼネリに、エリエスだね。なかなか斬新な自己紹介だけれど、人間ってこんなものかい?」
「言っておくが僕らはまだまだ優しい方だ。僕ら程度で驚くようなら、人間社会では生きていけないので早めの里帰りをお勧めする」
「いや、大丈夫大丈夫。僕らは普段コミュニケーションなんてとらないから、少し新鮮だっただけだよ」
僕は舌打ちをして苛立ちを紛らわせながら、しかたなく話を続ける。
「ああ、そうですか。それはまた凄まじい引き篭もり種族で。どちら様でしょう?」
「んー。君らの言うところの魔鎧ってやつかな。いや悪魔と言った方が正しいのかも」
「魔鎧と悪魔じゃあ立場が逆だろ。頭沸いてんのか?」
「別に逆である必要はないと思うけど。ねぇ、エリエスさん」
話を振られたエリエスが嫌そうに会話に参加する。
「可能性として考えられるのは、悪魔の魂が魔鎧に使われた、とか?」
「まぁ及第点ってとこにしておこうかな。魔鎧に使われた魂が悪魔としての僕なら、作ったのも僕。つまり逆の立場以前に同一の立場ってことさ」
蒼いスーツの少年が種明かしとばかりに言い放つ。
しかし興味がないので驚いてやる労力が惜しい。
「さいですか。で、その悪魔鎧さんが僕と契約したいと。何故僕なんだ?」
「あはははは。選ばれたことに理由が要るかい?というか選ばれた存在だとでも思ってるのか?僕が君たちに声をかけるのになにか条件じみたことがあったとすれば、そうだなぁ。1.魔鎧と契約していない。2.既にパートナーがいて契約者としてそれなりの知識経験がある。・・・これくらい?」
「成る程、要するに誰でも良かったと。まぁでもそうだな、魔鎧とも契約したいと思ってたところだ。僕とエリエスの超前衛的入社試験に耐えられたら契約してやろう。取り敢えず遺書が必要だが、どうする?」
「まぁ、必要ないと思うよ。さくっと受験させてもらおう」
少年は泰然と言った。どうせ僕らには何もできないとでも言うように。
というか死亡承諾書書いてもらわないと僕が面倒なんだが。まぁいいか。どうせその辺りはあやふやな種族だろうし。口頭の承諾も得たし。最悪サイコメトリでもやらせれば証拠になるだろう。
「おーけー。じゃあそこに立って。面倒だから、続けていくぜ?」
「分かりました、面接官さん」
彼はそうおどけて言った。
「最後の言葉にしちゃ、物悲しいな。まぁ奇跡的に受かれば名前でも聞いてやるよ、少年」
そう言って僕は少年の眉間と心臓を正確に二発ずつ打ち抜いた。
直後、エリエスのブレードが少年の首を跳ね飛ばす。
首は胴から零れ、自らの身体を見上げるように地に転がった。