scene13
「マケイン……?」
「はい」
「まだ、帰らないの?」
「………」
マケインが微笑したまま瞬に近づいてくる。瞬は胸騒ぎをおぼえた。とっさに踵(きびす)をかえすが、背後から両肩を掴まれ、そのまま引き倒されてしまった。
「何をするんだよ!」
マケインが口元に人差し指を立て、「しっ!」と不気味に囁いた。
両手首を掴まれた。
血走った双眸が見下ろしてくる。
引きつった口辺が、さらに瞬の恐怖心を煽(あお)った。
「嫌だ、離せよ!」
声を上げるが、すぐさま大きな手のひらに顔の半分を塞(ふさ)がれてしまった。マケインが馬乗りになってくる。瞬の抵抗など無きに等しい。一九十センチの巨体だ。瞬を抑え込むことなど何の苦労もないだろう。
息ができない……!
瞬は渾身(こんしん)の力を込めてマケインの指に爪を立てるが、いっこうに緩(ゆる)む気配がない。鼻と口を塞(ふさ)がれてしまった。もがけばもがくほど、命を縮めていくようだった。このままでは、あと三分と持たない。
死ぬのか、こんなところで……?
道着の紐をほどかれ、無造作に袴をたくし上げられた。マケインの手が袴の中を這いあがってくるのを感じながら意識が遠のいていく。
助けて……篠塚さん……。
帯に手がかかったようだ。もう限界だった。
マケインの手に掛かっていた瞬の手が音を立てて床に落ちる。異常に気づいたのかマケインの動きがぴたりと止まった。
「何をしているんだ!」
巨体がびくりと波打ち、瞬の口を塞いでいた手が外された。風の抜けるような音をさせ、瞬が激しく呼吸を繰り返す。篠塚が、マケインの体を凄まじい勢いで後方へと投げ倒した。
「瞬!」
「息……が……」
篠塚が、すばやく立ち上がり更衣室を出ていった。
追いつかない、苦しい……。
呼吸が上手くできなかった。酸素が足りない。何度呼吸をくりかえしても肺が満たされない。
篠塚が戻ってくるなり瞬を抱き起こす。シュっという音とともに口元に勢いよく風が送りこまれてきた。
酸素スプレー……?
口を大きくあけて思いきり酸素を採(と)り込む。呼吸を繰り返しているうちに、徐々に体の緊張がほぐれてきた。