ビヨンド・ユートピア 脱北 | akaneの鑑賞記録

akaneの鑑賞記録

歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

 

 

 

脱北を試みる家族の死と隣り合わせの旅に密着したドキュメンタリー。

これまで1000人以上の脱北者を支援してきた韓国のキム・ソンウン牧師は、幼児2人と老婆を含む5人家族の脱北を手伝うことに。キム牧師による指揮の下、各地に身を潜める50人以上のブローカーが連携し、中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して亡命先の韓国を目指す、移動距離1万2000キロメートルにもおよぶ決死の脱出作戦が展開される。

撮影は制作陣のほか地下ネットワークの人々によって行われ、一部の詳細は関係者の安全のため伏せられている。世界に北朝鮮の実態と祖国への思いを伝え続ける脱北者の人権活動家イ・ヒョンソをはじめ、数多くの脱北者やその支援者たちも登場。「シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声」のマドレーヌ・ギャビンが監督を務めた。2023年サンダンス映画祭にてシークレット作品として上映され、USドキュメンタリー部門の観客賞を受賞。

 

 

 



ずっと見たいと思っていて、なかなか時間が合わなかった作品、やっと見ることができました。

脱北を取り上げた映画などは色々ありますが、これは完全ドキュメンタリーで、映像は全て本物です。

 

 


キム・ソンウン牧師は、ご自身の奥様(北朝鮮出身)と中国で知り合い、彼女を脱北させて結婚した経験から、多くの人々の脱北を支援してするようになりました。

 

 


北朝鮮と韓国の国境には、200万個以上の地雷が埋められ、警備も厳しいため越境は不可能。
必然的に、まず北上して中国に入り、ベトナム、ラオスと南下してタイに入国して保護してもらうルートになります。
気の遠くなるような長い道のりです。

 

 

中国と北朝鮮の国境に流れる鴨緑江。

 

 

 

泳いで渡ったり、川が凍り付く冬は北朝鮮から歩いて中国に渡ることも多いのですが、中国では一人っ子政策の失敗から、男性の数が増えすぎ、結婚する女性が非常に不足しているため、人身売買も横行しています。

中国との国境は年々警備が厳しくなっており、ベトナムとラオスも共産主義国なので、タイに入国するまでは一切気を抜けません。
 

 


各地に身をひそめている数多くのブローカーとの連携が必要ですが、なにもかも全てが「お金」。
まさに「地獄の沙汰も金次第」です。
ブローカーたちは脱北者たちを「お金」としか見ていません。
各地の警察や軍の人物にワイロを渡して便宜をはかってもらうのですが、脱北者を密告することで報奨金も出ますし、どっちに転ぶか、本当に運次第。
 

 


スケジュールを勝手に変えたり、車が用意されていなかったり、約束通りに動いてくれないこともあるため、キム牧師自身が脱北に同行することもあります。
かつて、凍った川で転んで首の骨を折るなど、満身創痍の体でサポートしていますが、当然、当局から目を付けられており、もはや自由に出入国できない状況にあります。

 

 


この映画ではもちろん顔も名前も公表していますが、抹殺されたりしないのでしょうか。
公表していることで却って安全なのかしら?と心配になりました。
 

 


1組は、4~5歳ぐらいと小学校低学年ぐらいの2人の女の子とその両親、80歳を超えたおばあちゃんの5人家族。
中国までは渡ったけれど、そこで立ち往生してしまったと連絡が入ります。

幼女とおばあちゃんを含む家族なので、いわゆる花嫁として人身売買できないことが幸いだったのかもしれません。

 


野宿をしながら険しい山を越え、深夜に密林のジャングルを進み、本当に命がけの逃亡劇。

 

 

 

 

 

 

幼い子供とおばあちゃんが、よく耐えられたなと驚嘆します。

 

 

 

 

 

なんとかタイまでたどり着いたら、その後は警察に保護してもらい、韓国に送られます。

 

「もう大丈夫。思ったことを何でも言っていいよ」となっても、

 

 

 

 

おばあちゃんと子供たちからは、金 正恩を讃える言葉しか出てきません。
それほど深く「洗脳」されているのです。
7か月ほど保護施設で過ごしたあと、普通に韓国内のアパートに入居した時には、すっかり落ち着いて「もっと早く出れば良かった」と自然にコメントができるようになっていて安心しました。
 

 

 

 

 


無事に脱北できた一家とは対象的に、もう1人登場するのは、息子の脱北が失敗してしまった母親です。

 


母親だけが子供を残して10年前に脱北していて、17歳になった息子を韓国に迎え入れたいと奔走しましたが、ブローカーがスケジュールを守らなかったため失敗、息子は収容所に送られてしまい、もう救い出す術もない、という結末になってしまいました。




脱北を試みて捕まった人は、一生出られない収容所に送られ、その家族も追放されるそうです。

「追放」といっても、何もない険しい山中に着の身着のまま置き去りにされるので、姥捨て山と同じ。
ここで死ね、ということです。
 

 

 


逃亡中の映像のほか、脱北に成功して様々な活動をしている人々のインタビューも挟まれます。
そこで語られる北朝鮮の生活の凄まじさに戦慄しました。
100年前とほとんど変わらないのではないでしょうか。
水や電気はロクに使えません。
農作物を育てる肥料は、今も人糞。
各家で溜めて袋に詰め、会社や学校に持っていくのだそうです!!(それを農家に分配する)



金一族はまるでイエス・キリストのような救世主として教えられているので、本物の聖書を持つことも犯罪です。

 

 


新聞もテレビも国営1社のみ、外の世界を知ることもないので、世界中みんな、自分たちを同じ生活をしていると信じて疑いません。

韓国のドラマを見ただけで、大勢の人の目の前で銃殺される若者。
「悪いことをしたら殺される」そういう処刑現場を幼いころから見せつけられるのです。


こんな怖ろしい国が存在していることが本当に恐怖です。
北朝鮮だけでなく、日本は中国、ロシアにも取り囲まれていること、韓国と北朝鮮の関係が悪化していることなど、改めて見回すと不安材料は山積みです。
 

 

 


しかしながら日本も、かつての大戦時に日本軍が何をしたかを正しく教育しません。
過去の行いを「良い悪い」で言い争うのではなく、事実を認識し、同じことを繰り返してはいけないと教えていかなければならないのに、私たち日本人は何も知らずのほほんとしています。
マスコミの報道もどんどん偏向していますし、テレビしか見ないお年寄りなどは、完全に洗脳されていると思います。

 

 


移民が増えすぎた欧米では、移民に対する嫌悪や圧力が高まっています。
店舗や市民を襲い、強奪や破壊行為が横行していますが、それを批判することもできません。

 


どんどん世界情勢が不穏になってきていますね。
この先10年、20年という単位で、平和が保たれるのかどうか、本当に不安です。


ドキュメンタリーではありますが、ダラダラと映像を流すのではなく、朝鮮半島の歴史、脱北の方法、北朝鮮の現状など、非常に分かりやすくまとめられていて、見ごたえがあります。
もうそろそろ上映も終わってしまうかもしれませんが、是非、多くの方に見ていただきたい映画です。