「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ。
不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。
忙しい!!!
もう全然ブログ書けないっ!
この映画もなかなか見ごたえがありました。
実在の放送作家であり、大喜利と笑いに賭けたツチヤタカユキさんの半生を題材にした私小説『笑いのカイブツ(2017年出版)』を元に作られた映画です。
ツチヤタカユキさんは、15歳の頃から様々なテレビ、ラジオ番組に大喜利を投稿していたハガキ職人。
『着信御礼!ケータイ大喜利』でレジェンドの称号を獲得。
『オードリーのオールナイトニッポン』の常連投稿者としても活躍し、プライベートでも交流を持つようになった若林正恭から作家見習いとなることを勧められ上京。
ということで、西寺のモデルは若林正恭さんです。
物語のはじまりは大阪。15歳のツチヤタカユキ(岡山)は、何をするにも不器用で、人間関係も不得意です。
そんな彼の唯一の楽しみであり生きがいは、テレビの大喜利番組にネタを投稿し「レジェンド」になること。四六時中、彼の頭の中にあるのはお笑いのことばかり。
やがてツチヤは自作のネタを抱えてお笑い劇場の門を叩き、作家見習いに採用されるのですが、協調性がなく、他者との相互理解に努めようとしない彼は、劇場を去ることに。
それでもツチヤは笑いの道をあきらめられず、「ハガキ職人」として再起。ラジオ版への投稿で注目を集め、尊敬する芸人「ベーコンズ」から声をかけられて、構成作家になるべく上京するのですが…
まずは「岡山天音さん、お疲れさまでした」ですね。
ここまで心身を消耗するというか憑依して自分を見失ってしまうほどの熱量で演じているのが素晴らしい。
天音さんは、本当に色々な作品での名バイプレーヤーですが、ここまで強烈な主役を演じたのは初めてではないでしょうか。
5秒に1回ボケる、というルーティーンを課して、常にお笑いのことしか頭にないツチヤ。
15歳の頃からケータイ大喜利に投稿すること6年?
もうそれだけで気の遠くなるような道のりです。
「お笑いしかない!」と思い詰めて人生の全てを賭けるそのエネルギーを、そしてそのエネルギーを持て余してズタズタに傷ついてしまうツチヤを、本当に全身全霊で演じていたと思います。
撮り終えたあと、しばらく精神状態が戻らなかったんじゃないかな。
菅田将暉さん
菅田君でお笑いというと、真っ先に「火花」を思い出します。
今回のキャラは
まぁそこそこのホスト
↓
傷害事件で刑務所入り
↓
保護観察下で居酒屋店員
という青年「ピンク」。
気が狂うほどにお笑いにのめり込んでいるツチヤが羨ましくもあり、その生き辛さに共感もできるし、なんとなく面倒を見てやったりする、という設定。
ともかく存在感が凄かったです。
居酒屋で「だ~っっとれ!(黙っとれ)ボケ!」って叫んだ時の迫力!!
菅田君の演技って、憑依型とは違うんですよね。
自分の方にキャラクターを引き寄せるって感じ。
わりと菅田君のままで存在しているのに、そのストーリーや世界観にピッタリの人物像になっていて、「もう彼以外考えられない」と誰もが納得するキャラを作り上げる。
今回は主役ではないので、オーラを7~8割ぐらいに抑えていて、その抜け感も見事。
仲野太賀さん
菅田君、仲野君でお笑いというと「コントが始まる」を思い出します。
あのドラマも面白かったな~。
仲野君の演技はまさしく技巧派です。
漫才、作家、リポーター、ラジオDJ、どれもちゃんとこなせるお笑い職人である西寺にピッタリ。
仲野君自身も、面倒見の良い兄貴的な雰囲気だし、常に感情がフラットで、一歩引いて場をまとめる才能があるように感じられます。
漫才も凄く巧かった。
フードコートのバーガーショップ店員ミカコを演じた松本穂香さんや
ツチヤのおかんを演じた片岡礼子さんも良かったです。
吉本の放送作家見習い?を演じた前田旺志郎クンも印象に残りました。
小学生漫才コンビ「まえだまえだ」の弟クンです。
ツチヤの才能に対する嫉妬や畏れとか、よそ者を排除する意地悪なところなど凄く良かったですね。
その他、業界の放送作家なども流石にリアルな演出で現実感がありました。
常人では考えられないほどの集中力と熱量で、お笑いにのめり込んでいるツチヤは凄いと思うし、ある時期そういった経験をして、もがき苦しまないと、頂点に立てないというのもわかります。
自分の中に様々な思いが溢れているのに、それを表現する術がない、人に伝わらないもどかしさとか。
ただ、ツチヤがあまりにも社会不適合者過ぎて、観ているうちに少々辛くなりますね。
彼の才能を認め、手を差し伸べてくれる人がこんなにいるのに、なぜそれに応えられないの!って。
自分よりお笑いに対する熱量の低い人に攻撃的なのも受け入れがたい。
でもこれはもう、性格とかやる気の問題ではなく、精神疾患の分野に及んでいるように思えるので、どうしようもないのかな。
「お笑いをやりたい」だけなら、自己満足で自分一人の世界に閉じこもっていても良いですが、さらに「有名になりたい、売れたい」という欲もあるなら、必然的に業界や人間とと関わっていくしかない。
でも自分で自分をコントロールできず爆発する感情を持て余してしまう。
まさにピンクが言うように「地獄やな」です。
ただ、自ら命を縮めたり体を壊すこともなく、色々書籍を出したり、東西落語家とのコラボを中心に、新作落語の創作や、吉本新喜劇の作家として活動しているそうですから、良き所に落ち着いたんだなと安心しました。
主役3人の俳優の演技は、本当に見ものですよ!