大災害により荒廃した韓国・ソウルを舞台に、崩落を免れたマンションに集まった生存者たちの争いを描いたパニックスリラー。
世界を未曾有の大災害が襲い、韓国の首都ソウルも一瞬にして廃墟と化した。唯一崩落しなかったファングンアパートには生存者が押し寄せ、不法侵入や殺傷、放火が続発する。危機感を抱いた住民たちは主導者を立て、居住者以外を追放して住民のためのルールを作り“ユートピア”を築くことに。住民代表となったのは902号室に住む職業不明の冴えない男ヨンタクで、彼は権力者として君臨するうちに次第に狂気をあらわにしていく。そんなヨンタクに傾倒していくミンソンと、不信感を抱く妻ミョンファ。やがてヨンタクの支配が頂点に達した時、思いもよらない争いが幕を開ける。
2024年、鑑賞1作目。
そういえば、2023年の1作目も「非常宣言」で、イ・ビョンホンさんが出演していましたね。
いや~~……
凄い映画です……
というか凄い作品を作るなぁ……というのが第一印象です。
前振りはほとんどありません。
開始早々、未曾有の大災害。
大地震でしょうか。
で、ソウルの街は一瞬にして瓦礫の山になってしまうのです。
そういうシチュエーションの作品はたくさんありますが、何が違うかというと、一切「救助」とか「支援」が描かれないこと。
政府も自治体も軍隊も何も現れません。
韓国全土が廃墟と化し、国家機能が止まってしまった?
それでも海外からの支援はあるでしょ?
マスコミや報道は?
そういうの、一切なし。
全てを切り捨て、災害時における人間の、普通の人々の行動のみが描かれます。
責任の押し付け合い
恐ろしいまでに増長する同調圧力
排他的行動
この映画で描かれているのが1週間なのか1ヶ月なのか、そのあたりもわからないのですが、どんどん感覚が麻痺していく様子、他人を殺してでも奪い、生き延びようとする狂気を見せつけられます。
これは、日本だったら、韓国だったら、という国民性の問題でもないし、災害だけでなく「戦争」をも視野に入れた警告といえるでしょう。
唯一崩落せずに残った皇宮(ファングン)アパート。
家を失った生存者たちが押し寄せてきますが、アパートの住民は居住者以外の人間は追放し、自分たちだけでアパートを占拠することに決めます。
外気温はマイナス20度を超える真冬のソウル。
外に放置された人は凍死必須ですが、お構いなし。
指導者として選ばれたのは、地味な中年男性ヨンタク(イ・ビョンホン)
ファングンアパート902号室の住人。
炎に包まれた家にためらうことなく飛び込み消火した、その勇気と献身的な姿勢が認められ、住民代表に選ばれます。
激しい争いで他者を追い出し、バリケードを巡らせ、付近の瓦礫の山を巡って、多くの死体を乗り越えて食料などを調達し、自分たちだけのユートピアを作り上げていきます。
「代表!」「代表!」と祭り上げられたヨンタクは、まるで軍隊のように住人たちを監視し、権力を振りかざすようになっていくのですが、彼の正体は??
イ・ビョンホンさんの狂気が凄まじいです。
圧倒されます。怖いです。
ファングンアパート602号室に暮らすミンソン(パク・ソジュン)
義務警察出身の公務員という職業柄、不本意ながらも注目され、ヨンタクから防犯隊長を任されてしまいます。
彼は両親を早くに亡くし、手堅く公務員となり、本当にささやかに平凡に暮らすことだけが夢でした。
しかし次第にヨンタクに影響され、協力しないと排除すると脅され、自分を見失っていきます。
ミンソンの妻、ミョンファ(パク・ボヨン)
寒くて行き場のないマンションの住民以外にも迷わず部屋を貸し、看護師として率先してケガした人たちの面倒をみます。
ミョンファを演じたパク・ボヨンさん、なんとなく井上真央さんに似てますよね。
韓ドラのラブコメなんかだと、とってもキュートでかわいらしい役が多いのですが、この映画では唯一、最後まで人間の尊厳を失わずに生き抜く女性を演じてます。
ファングンアパート207号室の住人であり、住民と自分の利益のために誰よりも積極的に率先して行動するタイプ。ヨンタクを新しい住民代表に推薦した張本人。表向きはリーダーのヨンタクに統率させ、自分は裏で糸を引く。
ベテランの女優さんですから、さすがの存在感でした。
こういうおばさんいるいる!って感じ。
最後の最後、ようやく「情けは人の為ならず」を感じさせる希望の光が見えますが、どういう災害なのか?どうしてそういう災害が起こったのか?の説明もなく、解決の見通しもなく映画は終了。
ほぼ全編、人間の醜さや愚かさを見せつけられられます。
能登地震の傷跡も癒えない現在において、この映画をぜひ見てくださいとおすすめすることはできません。
ご気分を害される方もいらっしゃるでしょう。
ただ、復旧や救助にあたっている自衛隊はじめ様々な方たちに対しても、1週間もすると不満をぶつける対象になるそうです。
クルーの素晴らしい働きで乗客全員を救った飛行機事故に対しても、上げ足を取るような言動ばかりで称賛の声は広まりません。
もし、このような状況に置かれたら、自分はどういう行動をとるだろうか。
そんなことも色々と考えさせられる映画でした。