ほかげ | akaneの鑑賞記録

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歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

 

「野火」「斬、」の塚本晋也監督が、終戦直後の闇市を舞台に絶望と闇を抱えながら生きる人々の姿を描いたドラマ。

焼け残った小さな居酒屋に1人で住む女は、体を売ることを斡旋され、絶望から抗うこともできずに日々をやり過ごしていた。そんなある日、空襲で家族を失った子どもが、女の暮らす居酒屋へ食べ物を盗みに入り込む。それ以来、子どもはそこに入り浸るようになり、女は子どもとの交流を通してほのかな光を見いだしていく。

「生きてるだけで、愛。」の趣里が主人公の女を繊細かつ大胆に演じ、片腕が動かない謎の男役で森山未來、戦争孤児役で「ラーゲリより愛を込めて」の子役・塚尾桜雅、復員した若い兵士役で「スペシャルアクターズ」の河野宏紀が共演。2023年・第80回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品され、優れたアジア映画に贈られるNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。
 

 

 

 

 


いや~~衝撃的な映画でした。

 

 

ですらショックだったのに、こんなリアルなの見せつけられたら落ち込みます。
 


前半は、居酒屋の女、趣里さんがメイン。




戦争で夫と子供を亡くし、体を売ることでしか生きていけない彼女は、客を手配してくれる女衒の言いなりで絶望的な生活を送っています。
決められたお金を払ったら、1杯お酒を飲ませてあとは…というシステム。
居酒屋といっても、食材が手に入らないのですから開店休業状態。
 


ある日、1人の復員した若い兵士(河野宏紀)が客としてやってきます。




手持ちのお金は僅かで、通えるのは一晩限り。
でも「久しぶりにゆっくり寝られた。お金は何とかしますから、今夜もまた来ます」といって、そのまま居ついてしまいました。


そこに、あちこちで盗みを働いている戦災孤児の少年(塚尾桜雅)が逃げ込んできます。



次第にこの3人は擬似家族のように暮らし始めるのですが、兵士の精神は戦争のトラウマで酷く傷ついており、束の間の平穏な日々は破綻してしまいます。
 
 

 


後半、少年も女の家を出て、テキ屋の男(森山未來)と行動を共にします。



それは、少年が拳銃を持っていたから。



青年の目的は、上官への復讐。
戦争中に酷い行為を命令し、仲間たちをも殺さざるを得なかったことへの深い恨みです。

 

 

 


この映画でもそのような描写がたくさんありました。
自分たちは安全な場所にいて、さっさと逃げる手筈をし、兵士たちには無駄に特攻隊として玉砕させる。

まるで自爆テロです。
 
精神的に壊れてしまった人たちが廃墟に集まっているシーンは、本当に恐ろしかったです。
 

何も訓練を受けていない人間が、いきなり殺し合いの場に送られ、生きるか死ぬかの恐怖に晒されるのですから、精神を病むのは当たり前です。こういうPTSDに苛まれた人は多くいて、ひっそりと入院生活を送った人もいたようです。


ただ、PTSDの観念などない時代、精神を病んだのは弱い人間であり非国民。国の恥のような扱いでした。
復員兵士のトラウマに関わり、研究を続けた精神科医もいましたが、「そんな研究を公にしたら、一生医学界から干されるだろう」と脅迫を受けたそうです。
 
民間企業や大学などの研究施設に資金が行き届かなくなり、そういう研究を国や軍が行うようになると、非常に危険な状況なのだそうです…731部隊のように。
 


全体的に画面は暗く、荒れ果てたセットはさらに心を萎えさせます。





 
趣里さんの演技はとても良かったのですが、突然ヒステリックに叫んだりする演出はちょっと唐突で、気持ちの流れが途切れる感じがしました。それを狙っていたのかな?
 
突然、少年を遠ざけて出ていけ!と言ったのは、梅毒のせい?
病状が進行すると皮膚にも現れるようですから。
でもそういうのがわかりにくい。
 


 

 


森山未來さんの身体能力で、不具の動きを演じているのはさすがでした。
 

 

 


この映画の主役は、前後半通して登場する少年です。
彼の目を通して、大人たちの愚かさ、壊れた様を鋭く描いていきます。
なんとしてでも生き抜いていく!という執念の眼差しが素晴らしい。




 
女に「ちゃんと働いて生きるんだよ!」と何度も何度も言われたことを守ろうとして、どんなに殴られても放り投げられても、黙って食器を洗う姿、それを認めた店主に賄い飯をもらい、なけなしの賃金をもらうシーンは涙ぐんでしまいました。



 


 

 

このところ、戦争の悲惨さを描く映画が増えていること自体は良いと思うのですが、あくまでも「日本は被害者」という立ち位置から離れることがないのは気になります。

この戦争期間中、日本がアジア諸国で何をしていたかを描く作品はまだまだ登場しません。
他国が作成した作品で知るようでは、また同じことを繰り返すのではないかと危惧します。


日本はまだ、戦後が終わっていない。
きちんと戦争に向き合っていない。
政府の画策によって真実から目を逸らされたままなのではないでしょうか。