古の王子と3つの花 | akaneの鑑賞記録

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「キリクと魔女」「ディリリとパリの時間旅行」などで知られるフランスのアニメーション監督ミッシェル・オスロが、異なる都と時代に生きる3人の王子が知恵と勇気で自らの運命を切りひらいていく姿をエキゾチックな映像美で描いたアニメーション映画。

ルーブル美術館とコラボレーションを行い、古代エジプト・クシュ王国の王子が戦わずして上下エジプトを統一し黒人初のファラオとなるまでを描く「ファラオ」、理不尽な城主によって森に追放された中世フランスの王子が野生児となって城主に立ち向かう「美しき野生児」、18世紀オスマン・トルコ帝国で王宮を追われてバラの王女の国へと逃げ込んだ王子が、揚げ菓子を通じて王女と出会う「バラの王女と揚げ菓子の王子」の3つの物語が展開する。

 

 

 

 

 


「キリクと魔女」「ディリリとパリの時間旅行」もとても素敵な映画だったし、予告編を見たときから「絶対見る!」と決めていました。ポスターだけでもウットリします。



絵も物語も本当に綺麗!

品格!

センスが良い!
心が浄化されます。



古代エジプト、中世フランス、近世オスマン帝国、それぞれにあった背景やキャラクターデザインで描く3人の王子と、花=お姫様の物語。3DCG全盛期に、この計算されつくした上品な美しさと、物語の素朴さ!
どの主人公も、自分の力で未来を切り開いていくのですが、みな心優しく非暴力で難局を切り抜けていくんです。

 

 


ディズニーアニメだったら、もっと波乱万丈で起伏の激しいドラマになるんでしょうけれど、そういうのもなく、凄く淡々としていて、でも洒落てるんです。

 

 


もちろんセリフはフランス語で、その落ち着いたトーンが良いんですよね。
日本のアニメ特有の甲高い少女の声がほんっとーーーに苦手なんですけど、そういう変なテンションがなく、淡々とした語り口がとても心地良いんです。
 

 

 

 


工事現場のようなところで、1人のキュレーターが、観客から様々の要望を聞くシーンから始まります。

 

 

「お姫様の物語がいい!」
「舞台はエジプトがいいな!」
そういう取り留めもない、断片的な希望です。


そして1つのお話が終わるごとに、また登場して
「いかがでしたか?」
「ふぅ…もっと余韻に浸っていたいわ…」
なんて会話があるんです。


絵本をめくっていくようなストーリー展開なんですけど、路上で紙芝居を見ているような、吟遊詩人のお話を聞いているような雰囲気になりますね。

そして気持ちをリセットして、次のお話が始まる。
このようにインターミッションを挟むのも、とても良かったです。

 

 



★第1話 ファラオ
クシュ王国の王子はナサルサとの結婚を認めてもらうため、エジプト遠征の旅に出て、神々に祈り祝福されながら

 

 

 

戦わずして国々を降伏させ、上下エジプトを統一、最初の黒人ファラオとなり、無事ナサルサと結ばれる。

 

 

 

これは、ルーブル美術館から直接オファーがあり、2022年開催された展示会「二つの土地のファラオ:ナパタ王家の叙事詩」のために制作されたもの。
エジプトの壁画のような平面的なタッチですが、この美しさ!



 

 

 



★第2話 美しき野生児
中世フランスの酷薄な城主である父に追いやられた王子は、

 

 

 

地下牢の囚人を逃がした罪で森に追放されるが、数年後美しき野生児として城主に立ち向かい、お金持ちから富を盗み貧しい人々に分け与え囚人の娘と結ばれる。

 

 


絵的にはこれが一番好きでした!

 

 

 

 

エジプトの平面的なタッチからさらに人物の色を無くして影絵になっています。
動くのは目だけなんですが、凄く表情があるんです。
「ソバージュ」って「野生児」のことだったんですね。

 

 

 



★第3話 バラの王女と揚げ菓子の王子
モロッコ王宮を追われた王子はバラの王女の国へと逃げ込み、雇われたお店の揚げ菓子を通じて国から出た事がない王女と出合う。

 

2人は秘密の部屋で密会し、

 

 

 

宮殿を抜け出し自分たちで生きていくことを決意する。

 

 

 


3つのお話の中では、一番コミカルかも。
ともかく「揚げ菓子」が美味しそうすぎて!!!

食べたい!!!
3人の女官たちの歩き方が可愛い。


 

 

 


タイトルにある「3つの花」は、
古代エジプトを象徴し、永遠の命を示すと言われる“蓮”。
フランス、オーベルニュ地方に自生し昔から薬として用いられてきた“ゲンチアナ”。
世界を代表する産地の一つで美しさと甘い香りで人々を魅了するトルコの“バラ”。


どんな環境にあってもそれぞれの個性を持ち、美しい花を咲かせること
すなわち、3人の王女と王子たちの未来を表した3つの花が、効果的に使われています。





3つの物語に共通するのは、エゴ丸出しで子供を押さえつける親。

自分の地位を守るために、娘の結婚を阻むエジプトの王妃。
息子を罵り続け、やがて手に掛ける権威的なフランスの君主。
王女を行動を制限するトルコの王。



しかし子どもたちは、自らの知恵と努力で困難を乗り越え、自分の手で未来をつかみ取る爽快な展開なんです。


3編とも、とても短くシンプルなお話ですが、不遇な環境をものともせず、勇気と知恵を糧に非暴力で自分の人生を逆転させていく3組の若者の物語は、先の見えない不安を抱えて生きる私たちに、生きる勇気や純粋で優しい気持ちを思い出させてくれます。

 

 


おススメです!!