アメリカの人気作家ポール・ギャリコの長編小説を、「ファントム・スレッド」のレスリー・マンヴィル主演で映画化。
1950年代、第2次世界大戦後のロンドン。夫を戦争で亡くした家政婦ミセス・ハリスは、勤め先でディオールのドレスに出会う。その美しさに魅せられた彼女は、フランスへドレスを買いに行くことを決意。どうにか資金を集めてパリのディオール本店を訪れたものの、威圧的な支配人コルベールに追い出されそうになってしまう。しかし夢を決して諦めないハリスの姿は会計士アンドレやモデルのナターシャ、シャサーニュ公爵ら、出会った人々の心を動かしていく。
ハリスおばさんは、1950年代のロンドンで単身者やお金持ちの家をいくつも掛け持ちし、家事を引き受ける通いの家政婦さん。
1シリングの単位までキッチリ書き留める倹約家です。
第二次世界大戦に出征したまま行方知れずの夫を思いつつ、しっかりお仕事をしていましたが、ある日、軍から送られてきたのは、夫の戦死の知らせと遺品の指輪でした。
すっかり意気消沈してしまったミセス・ハリスですが、ある富豪マダムの部屋で見つけたクリスチャン・ディオールの素晴らしいドレスに魅了されてしまいます。
年収の2倍はするディオールのドレスを買おうと一大決心をし、懸賞に応募したり、ドッグレースに賭けたり。
ガスや電気も止め、仕事を増やし、やっとの思いでお金を貯めて、いざパリへ!!
オートクチュールのことなどなにも知らないミセス・ハリスは、デパートのようにサッとドレスを買って、飛行機で往復日帰りするつもりでいたのですが、なかなかそう簡単にはいきません。
まず、メゾンでショーを見て、そこで注文しなくてはなりませんし、そのショーに参加するには、当然ご招待が必要。
一般人など論外!と支配人のコルベール(イザベル・ユペール)から慇懃に「お帰り下さい」とあしらわれます。
「ドレスを買いに来たのに!ちゃんとお金も持ってきたのに!どうして売ってくれないの!!」
食い下がるミセス・ハリスに、シャサーニュ侯爵(ランベール・ウィルソン)が「私のパートナーとして一緒にいかがですか?」と助け船を出してくれました。
また会計士のアンドレも、売掛のお客様が多い中、現金で購入してくれるお客様は貴重、ということで協力してくれます。
夢のように美しいショーを見つめるハリスさんの可愛らしいこと!!
そしてトップモデルのナターシャ(アルバ・バチスタ)の愛らしさといったら!!
ショーを見て気に入ったドレスをスタッフに伝えるのですが、もちろんオートクチュールは1点モノ。
そのまま買って帰ることなどできません。
採寸をして型紙を起こし、何度も仮縫いをして作り上げるのですから、最低でも2週間ぐらいはかかります。
色々な人の協力を得て、束の間のパリ滞在も楽しむハリス。
奥様を亡くしたシャサーヌ侯爵とデートしたり。
侯爵様、最後に地雷踏んじゃいましたけどね…ジェントルマンで素敵でしたよ
会計士のアンドレは「妹の部屋が空いているから」と自宅に泊めてくれて、妹の服まで貸してくれました。
アンドレ役のリュカ・ブラボーさん、チケット・トゥ・パラダイスでは、ちょっと当て馬的なパイロットのポールでした!!
全然雰囲気が違うので驚き~
アンドレは素敵だったよ!
階級社会のロンドンで暮らす一般庶民のミセス・ハリスですが、老舗メゾンを陰で支えるお針子さんや専属モデルたちと、労働者としての立場や思いは同じ。互いに助け合い、やがてはメゾンの危機を救うことにもなります。
ようやく出来上がったドレスと共にロンドンに戻ってきたハリス。
そのドレスを着る機会がどのような形で訪れるのか…
「情けは人のためならず」という教訓もありつつ、お話がうまく進み過ぎ、という面はあります。
ディズニーアニメぐらいのレベルかな。
フランス人もディオールのスタッフも優しすぎだし(笑)
でも、ミセス・ハリスと同じ気持ちになって、ワクワクしたり泣いたりしちゃうんですよね。
ナターシャの車でパリの街を案内されるところ、
最後にドレスを着て階段を降りてくるところで涙腺崩壊でした。
ともかくレスリー・マンヴィルさんの演技力!
本当に可愛らしくて、一生懸命で、素直で……もう本当にチャーミングなんですよ。
人情にもろく、つい他人のために頑張っちゃう。
その愛されキャラとポジティブさに魅了され、みんなが手を差し伸べてくれるし、あらゆる幸運を引き寄せてしまうんです。
そして、お得意様をご招待してメゾンで開かれるショーが本当に素晴らしかったです。
3度のアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞したジェニー・ビーヴァンが、ディオールが描いたデザイン画を元に見事に当時のデザインを再現しました。
この時代の布地、特にディオールは「生地の重さ」が大切なんだそうです。
その質感が出せるように、生地を染めるところから作り、ディオールのアーカイブコレクションから5着、宝石類や帽子や靴もディオール社が貸し出したものだそうですから、まさに美術品レベルですよね。
この映画を見ていたので
作業するお部屋や、お針子さんやモデルさんの様子などが懐かしかったです。
ミセス・パリスでも、ディオール本社が全面協力し、1957年という時代設定通り、当時のディオールを再現させているそうです。
この映画もディオールでしたね。
映画という媒体を使っての宣伝戦略を重視しているのかな?
世界情勢、服飾に対する意識の変化、コロナ禍、などなど、高級ブランドもそれぞれに厳しい状況に追い込まれています。
まさにこの映画で描かれた時代、オートクチュールだけでは立ち行かなくなり、プレタポルテへ移行していく状況ともシンクロしています。
この映画でイメージアップをはかり、新たな女性客をターゲットにするのが狙いかもしれませんね。
とは大きく異なるアプローチですけれど、さて、どちらに軍配が上がるでしょうか?
ま、そんな野暮なことは考えず、素直にこの美しい映画に心をゆだねて下さいね!
おススメです!!