フランスのラグジュアリーブランド「ディオール」のアトリエを舞台に、世代も境遇も異なる2人の女性の人生が交差する様子を描いたヒューマンドラマ。
ディオールのオートクチュール部門でアトリエ責任者を務める孤高のお針子エステルは、次のコレクションを最後に引退することを決めていた。準備に追われていたある朝、エステルは地下鉄で若い女性にハンドバッグをひったくられる。その犯人ジャドの滑らかに動く指にドレスを縫い上げる才能を直感したエステルは、彼女を警察へ突き出す代わりに見習いとしてアトリエに迎え入れる。反発しあいながらも、時には母娘のように、そして親友のように、美を生み出す繊細な技術をジャドに授けていくエステルだったが……。
ディオール専属クチュリエール監修のもと、ディオール・ヘリテージに保管されていた幻のドレスや貴重なスケッチ画などが登場。
結構感動しました!
フィクションであり、デュオールを舞台にした専門職の女性が主人公ということでは
と似た部分もあります。
エステルは長年、アトリエのチーフを務めていましたが、職場を追われることになってしまいます。
人生の全てを仕事に捧げていた彼女に残ったのは「虚無感」のみ。
彼女の母親もディオールのお針子でした。
仕事一筋の母親の愛情が欲しくて、母親に認めてもらいたくて、自分もディオールのお針子になったのです。
でも結局、自分も母親と同じようにも家庭を顧みず仕事に打ち込んでしまい、娘は離れていってしまいました。
糖尿病なのに、たばこと甘いものしか口にせず、仕事漬けの日々を送っています。
完璧主義者で部下にも厳しすぎ
お金より、技術を持っていることが誇り
ショーに間に合わなければ休日出勤も徹夜も厭わない
バカンスのために仕事をしていると思われがちなフランス人なのに、こんな日本人のような社畜マインドの人がいたとは…
何もかも捨てて夢中で頂点に上り詰めたけれど
隣には誰もいない
周りの人間は誰もついて来られない
そんな孤独なエステルが街角でギターを弾く少女に目を止めたことでストーリーが動き出します。
移民の女の子ジャド。
定職にもつかず、街でスリやひったくりをし、その金品を売ってお金を得ているような状況です。
彼女に父親はいません。
母親は精神を病んでいて、働きもせず家事もせず、ただただベッドでテレビをみているだけ。
そんな母親との関係にうんざりし、精神的にも限界。
共依存の状態で共倒れになりそう。
ある日の出勤途中、エステルは地下通路でギターを弾きながら歌うジャドの姿にふと足を止め聞き入っていると、バッグがひったくられてしまいます!
「私が取り戻すから!!」とエステルにギターを預け、一目散に駆けていくジャド。
しかしそれは仲間との連係プレーで、いつものようにバッグの中身を頂くつもりでした。
でもなんとなく気が引けることがあり、バッグに入っていた社員証を頼りにアトリエを訪ね、エステルにバッグを返します。
お礼にと夕食をおごってもらった際、エステルはジャドの指を見て「お針子に向いている手だわ。気が向いたらアトリエにいらっしゃい」と伝えます。
真面目に働いたこともないジャドには敷居の高い話でしたが、今の生活に満足もできず、アトリエに足を運びます。
初めて向き合う「仕事」は、とても刺激的でしたが、
まともな暮らしをしたことのないジャドにとって「規律」に従って厳しく行動するのは、理解しがたく非常に面倒くさいこと。
「移民」ということで、あからさまにイジメる人もいます。
エステルとジャド、お互い気が強く、譲れない性格の二人ですから、ともかくすぐ喧嘩するし明け透けにズバズバ言い合います。
これはフランス人あるあるですね。
常識的に考えて「どちらが正しい」ではなく、「言い負かした方が正しい」という考え方なんです。
ずーーーーっと平行線で意見をぶつけあうだけで全く解決しないんですけど、お互い言いたいことを言いつくしたらそれで終わりって感じで、言われたことを根に持ったりもしないですね。
だから喧嘩をするときは壮絶です。
「小汚い移民の子供のくせに!」
「干上がったババアに何が分かるんだよ!」
結構な罵り合いです(笑)
年功序列とか一切ありませんね。
グラスが吹っ飛ぶほどの平手打ちをすることも。
「こんなとこ辞めてやる」「出ていきなさい」が何度も繰り返されるんですが、ジャドは平気な顔して、しれっと次の日もアトリエに来るし、エステルも呼び戻しに行ったりする。
お互いに「若い子は難しい」「くそババア」のままなんですが、根っこのところは通じ合っているんです。
娘と断絶状態のエステルにとってのジャド。
母親はお荷物で全く頼りにならないジャドにとってのエステル。
むき出しの感情をぶつけあって疑似親子のような関係を続けるうちに、本当の親子関係からも目をそらさず向き合うことができるようになっていきます。
エステル役のナタリー・バイさん。
本当に素敵でした。
73歳だなんて信じられません!!
「若作りしている」というのではないんです。
自然に年を重ねた、内面から輝く美っていうのかな~。
憧れですね。ファンになってしまいました。
グザヴィエ・ドラン監督の最新作「たかが世界の終わり」にも出演しているようなので見てみようかな。
ジャド役のリナ・クードリも勢いがあって良いですね。
この映画でもデザイナーを目指す女性でした。
ストーリーとしてはちょっとお花畑というか無理もあります。
いきなり見ず知らずのド素人の女の子を連れてきて超高級メゾンのアトリエで働かせるとか、普通有り得ないですよね。
身元だってはっきりしていないし、実際手癖の悪いこともします。
それについてアトリエのメンバーもあまり気にしていない感じだし。
エステルの次にチーフになる二番手のカトリーヌが本当に素晴らしいんです。
完璧な中間管理職。
いきなり入ってきたジャドにも偏見なく丁寧に仕事を教え、反発する同僚にも心を砕いて接する。
もちろんエステルへの忠誠も。
彼女が一番の人格者で素晴らしかった。
対照的に性格悪いのがアンドレで、移民のジャドをいびりまくって、あげくに「自分だけがみんなから嫌われている!」みたいなこと言うんだけど、そこでカトリーヌが返した言葉が
「みんな、あなたを好きになりたいのよ」
あとはやはり布の美しさですね。
高級な絹の光沢。
画面で見ても、その手触りがいかに柔らかいか感じられるぐらい。
アトリエに差し込む自然光が、布の美しさや優しさを一層際立たせています。
1日の始まりは、Miss Dior の香水を振りまくところから始まる。
そんな神聖で、お洒落な仕事場から生まれるオートクチュールのドレスたちは、本当に素敵でした。
移民、人種、宗教、ジェンダー、貧困、嫉妬による差別。毒親。
これらの問題は決してすぐに解決できるものではありません。
でもみんな、少しずつ少しずつ変化していく様子が描かれています。
「仕事」の面白さ、厳しさを教えてくれたエステル。
ジャドが自立することによって、彼女の母親も自立することができました。
上質なウールとシルク、常にディオールを身に纏うエステルにとって、フリースは醜悪でしかなく、ナイキのジャンパーなど雑巾扱い。
心を固く閉ざし、そして「美」にとことん厳しいエステルでしたが、新年を迎える移民団地のにぎやかな様子を見て「美しい」ってつぶやくラストシーンは感動しました。
この柔らかな微笑み!
偏見があり、対立があり、和解がある。
母を思い、娘を思う。
母と娘の絆と軋轢みたいなものは、自分も身近にある感情なので、とても共感できる作品でした。