大ヒットミュージカル「イン・ザ・ハイツ」「ハミルトン」などの原作者として作詞や作曲なども手がけ、ディズニーアニメ「モアナと伝説の海」では音楽を担当するなど、現代ミュージカル界を代表する才能として知られるリン=マニュエル・ミランダの長編映画初監督作。名作ミュージカル「RENT レント」を生んだ作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカルを映画化した。
1990年のニューヨーク。食堂のウェイターとして働きながらミュージカル作曲家としての成功を夢見るジョナサンは、オリジナルのロックミュージカルの楽曲を書いては直しを繰り返していた。もうすぐ30歳を迎え、これまでともに夢を見てきた仲間たちも現実に目を向け始め、焦りを覚えるジョナサン。自分の夢に価値はあるのか、時間を無駄にしているだけではないかと自らに問いかけながらも、時だけが過ぎていき……。
「アメイジング・スパイダーマン」「ハクソー・リッジ」のアンドリュー・ガーフィールドが主人公ジョナサン役を演じ、第94回アカデミーで主演男優賞にノミネートされた
1993年に初演され、今も世界の人々に愛され続けるミュージカル『RENT』の作者として知られるジョナサン・ラーソン。
その前に作られたのが、30歳を目前に創作に悩み、突然現れたエイズという病魔でかけがえのない友を失い、窮乏しながらも夢を追う日々を歌い語っていく自作自演のミュージカル『Tick,Tick…BOOM!』です。
最初は舞台のシーンから。
ラーソンに扮したアンドリュー・ガーフィールドがステージのピアノで歌い始めます。
刻一刻、留まることなく過ぎゆく時間、人生90年の1/3となる30歳を目前に控えた彼の焦り。
オープニングのこの曲から、もうワクワクが止まりませんね!
30/90
ステージ下手にはグランドピアノ、あとはバンドメンバーとシンガーが数名。
多分ミュージカル上演の場合はこのままセットなどもなく、シンガーが役者も兼ねているのかもしれません。
ウェイターのアルバイトをしている店内、リハーサル風景、恋人との会話などのシーンやミュージカルナンバーを、映画では実写で表現しています。
監督のリン=マニュエラ・ミランダさん。
さすがの手腕ですね。「イン・ザ・ハイツ」のように疾走感のある演出が心地良いです。
ともかくどの曲も素晴らしく、そして実力あるキャストを揃えているので、このミュージカルの魅力を存分に引き出していますね!
それにしてもアンドリュー・ガーフィールドさんと言えば、まず「スパイダーマン」を思い浮かべてしまうのですが、これだけ歌えて、ちゃんとミュージカルの芝居ができるんですもんね。
俳優のレベルの違いを痛感します。
ピアノはちゃんとヴィンテージのニューヨーク・スタインウェイ。キーボードはYAMAHAのDX7やKORGのM1なんてところも、ツボ!
一番好きだったのはこの曲。
sunday
「Seasons of Love 」を思わせる多声コーラスが本当に美しい。
劇中で何度も名前が登場するスティーヴン・ソンドハイムは、ラーソンに多大な影響を与えたミュージカル作家です。
『Sunday』は、ラーソンをサポートしてきたソンドハイムへのオマージュであり、ソンドハイム作曲の同名曲とメロディも歌詞も似ていますが、歌詞の内容はウエイターの哀歌となっています。
ソンドハイムは多くのプロデューサーにラーソンの推薦状を書き、ラーソンはのちにスティーヴン・ソンドハイム賞を受賞しました。
この作品は、1983年から1990年、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』のリメイク『Superbia』を制作していた時期を描いています。
1990年代のニューヨーク。
30歳の誕生日を目前にしてジョナサンは自分の作曲家としてのキャリアに焦りと不安を感じ憂鬱な日々を送っています。
素晴らしい作品を書きたいとの燃えるような思いはあるものの、現実は相変わらず、ダイナーで働きながら貧乏作曲家としての日々。
8年もかけて取り組んでいるのに、発表のリミットギリギリになっても曲は書きあがらず、歌詞は一言も思い浮かびません。
子どもの頃から親友でルームメイトのマイケルは現実派。
俳優になるという夢に見切りをつけ、ビジネスマンに転身して成功し、新車のBMWを手に入れたばかり。彼に勧められて就職することも考えてしまいます。
一方、恋人のスーザンもダンサーという夢を捨て、ジョナサンと結婚してニューヨークを離れたいと言い始めています。
彼女を深く愛してはいても、彼女の思い描く“幸福”に乗り切れないジョナサン。
そんな2人の間で、ジョナサンの心は揺れ動きます。
エイズに感染した親友との別れ、恋人との別れ、様々な苦渋に満ちた別れと悔恨。
そして、決して諦めることなく夢に向かって努力し続けるクリエイターの「命を削る日々」。
もがき続けたその経験が昇華して『Rent』が生まれたと言えるでしょう。
実際のところ『Superbia』は、ロック・コンサート版が上演されましたが、完全な出来ではなくラーソンは落胆。
その経験をもとに、1991年、自伝的ロック・モノローグ『30/90』を作曲し、のちに『Boho Days』、最終的に『tick, tick... BOOM! 』として完成させました。
2001年、オフ・ブロードウェイで初演、ウエスト・エンドでも上演され、日本では2003年の初演以来、山本耕史さんがラーソン役を務めています。
多文化主義、依存症、LGBTQなどの社会問題を描き、ブロードウェイを変えたと言われる名作『Rent』。
しかしラーソンはオフ・ブロードウェイ・プレビュー公演初日未明に突然亡くなり、喝采を受けることはできませんでした。
公演は大成功を収め、トニー賞3部門、ピューリッツァー賞 戯曲部門を受賞しています。
『Rent』と言えばこの曲。
Seasons of Love
舞台も見ましたし映画も見ました。
この曲だけは何年経っても、何度聴いても涙が零れます。
ミュージカル曲の中で一番好きな曲です。
これからもずっと、彼の作品が上演され続けますように…
エンドロールでは、ご本人の上演シーンが流れます。