八月納涼歌舞伎 『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚』 | akaneの鑑賞記録

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『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)』

あの“やじきた”が3年ぶりに夏の歌舞伎座に帰ってくる――!

2016年から、歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」で4年にわたり毎年上演された『東海道中膝栗毛』。
『東海道中膝栗毛』とは弥次郎兵衛と喜多八が東海道を旅する様子を描いた物語で、これまでに歌舞伎でも数多くの作品がつくられてきました。
 

 

 


江戸木挽町の歌舞伎座で、大道具のアルバイトをしている弥次郎兵衛と喜多八。
幸四郎さんと猿之助さんによる弥次喜多コンビが繰り広げる珍道中は、定番のお伊勢参りから始まり、歌舞伎座殺人事件やら、死んでしまった喜多さんが蘇ったり、毎回斬新な内容でとても人気の演目でした。
お伊勢参りに行くはずなのに、ラスベガスに行っちゃったり、ドリフも顔負けなドタバタ奇想天外ストーリーです。


2019年の公演。

伊勢神宮の花火で天高く打ち上げられてしまった二人でしたが、あれから3年が過ぎ、弥次喜多の二人は遠く離れた無人島に飛ばされ、何とか生き延びていました。

あの手この手で長崎に渡り着き、古巣である歌舞伎座の苦境を知ります。歌舞伎座に戻るため、多くの人に出会い、立ちはだかる試練を乗り越えながら、新たな珍道中を繰り広げます。
 
弥次さんと喜多さんが珍道中を繰り広げる、ということ以外は何を書いてもネタバレになるネタだらけの新作。
ネタバレに慎重な方は、読まずに迷わず劇場へ向かって下さいね。







序幕は、義太夫の語りではじまり、どこかで見た浜辺の景色が広がります。

まずは「平家女護島~俊寛」

 

ちょうど良い写真が見つからず、これはあくまでも参考までに。

荒れ果てたさびれた浜辺をご想像ください。

 

 


侘れた孤島の、見覚えある掘っ建て小屋。

その裏から、流人のように変わり果てた弥次さんが現れます。
大げさに嘆き悲しむ台詞回しは義太夫狂言。
そこに喜多さんが、海女をはべらせご機嫌に登場します。
「千鳥と祝言をあげるんだ~!」と騒いでいると、髑髏の海賊旗を掲げた大きな船がやってきます。

 

 


浜辺に降り立った海賊王ジョニー・テープを騙して船を乗っ取った弥次さん喜多さんは、海賊たちのお宝と共に長崎に到着すると…

 

 

 


「夏祭浪花鑑」の床屋のセット。

長年の漂流生活でむさくるしい姿になっていた二人は、そこで出会った宣教師サブエルの好意により床屋でこざっぱりするはずが…

 

 


このいでたち。

 



サブエルの娘、オリビアは染五郎君!!
彼のホリの深い顔立ちは、和風の女方より、洋風の方が似合いますね!

弥次さんは、オリビアちゃんに一目惚れ!

彼女が、長崎公演で見た歌舞伎役者が忘れられない!ということで、一緒にお江戸を目指すことになります。
 

 


道中で会ったのは、哀しい境遇の娘お夏。團子くん。
喜多さんはお夏ちゃんに一目惚れ(笑)

父親が博打にハマってしまい、心労で母は他界。
なんとか元の父親に戻ってほしいということで、弥次さん喜多さんは大道具の腕を生かして一芝居を打ちます。

ここでは「東海道四谷怪談」のパロディ。 
喜多さんが、戸板返しや仏壇を使って母親の幽霊を演じて父親を懲らしめ、もう博打はしません、と改心させます。
 

 

 

お夏ちゃんもオリビアと同じ歌舞伎役者に一目会いたいということで4人が旅を続けますが、ジョニー・デープの雇い主だった悪代官 釜掛之丞一味が追いかけてきて、さらにそれを取り締まる長崎からの取り手が入り混じっての本水の立ち回り!!


本水とは、舞台上で本物の水を使う演出です。

 

 

 

 

 

歌舞伎座の舞台一杯の大きなセットから大量の水が噴出され、その中で立ち回りをするので、客席数列目までビニールシートが配られます。私は12列目でしたが、それでも水の匂いや霧を感じるぐらいの大迫力。
これぞ納涼歌舞伎ですね。

客席がひんやりしました。


ここで30分の休憩となり、舞台は「おぬしと よろずに 家族商店」に

 


2021年1月、オンライン配信の「図夢歌舞伎」で登場した弥次喜多のセッティングです。

 

 


 

 

2016年の初演時には、若殿・伊月梵太郎と従者・五代政之助だった二人が(この時はまだ小学生!)

 

 

お家没落ですっかりグレてしまい、今では暴走族のカシラという設定。

 

 


ここからは染五郎君と團子君が、梵太郎と政之助の男役と、オリビアとお夏の女役を何度も何度も早変わりで二役を演じていきます!!





そこに現れたのはレディース集団の鬼羅女姫組(きらめきぐみ)   
今日こそ縄張り争いの決着を付けようじゃないかと一触即発!
慌てて止めに入った弥次喜多は、喧嘩ではなく、踊りで対決すること提案します。
 

 

それぞれ交代で踊りを披露するのですが、この辺りは「ウェストサイトストーリー」のパロディですね。

日本舞踊というと、芝居よりもっとわからない、退屈、といったイメージを持たれがちです。
幸四郎さんと猿之助さんは、そのイメージを払拭すべく尽力しているのですが今回、かなり踊りの部分が多かったです!!
従来の日本舞踊はかなり腰を落として踊るので、手足が長かったり背が高いと形が決まらないのですが、曲もかなりアップテンポで動きも大胆、少し洋楽ダンスの要素も入れながらの斬新な振付でした。
染五郎君と團子君も180cm近い長身が凄く映えて、エネルギッシュでカッコ良かったです。

染五郎君は体の大きさをしっかり見せて切れ味鋭く、團子君はまろやかさもあって、それぞれの持ち味が活かされていました。

 

 


レディース総長役の新悟君(時政パパの息子さんです)も

 

 

かなり背が高いので、ピンクのメッシュを入れた銀髪を結い上げたカツラと派手な着物でとっても映えてましたよ!



総勢20名ほどの踊りになりましたが、みなさん長年しっかり舞踊の稽古をしていて体幹がしっかりしているので、どんな振付でも形が綺麗に決まって美しく、暴走族とレディースの原色キラキラで華やかな衣装と煌びやかな照明がとても気分を浮き立たせてくれました。


この踊り対決の審判は、家族商店店長に委ねられます。

登場するのは御年92歳の市川寿猿 さん。

結果は…「どちらもダメーーー!」


「私は、君たちのお父さん、おじいさん、ひいおじいさん、ひいひいおじいさん達の姿を全部見てきました。
その素晴らしい芸には、まだまだ到達していません。
伝統ある歌舞伎の灯を絶やさぬよう、もっともっと精進して下さい」


と読み上げると、なんと宙乗りを!

 


もちろんそのままの姿ではなく、気球についているの籠のようなセットに座った状態で、そのまま吊られて3階まで上がっていくのですが、その籠の底に「世界最年長宙乗り記録 ギネス申請中!」って書いてあって。。。

なんだかジーンとして涙ぐんでしまいました。

最年長の先輩を、こんなコメディのお芝居でしかも宙乗りさせてあげるなんて、リスペクト以外の何物でもないですよね。

 

 

 

 



 

一行がようやく歌舞伎座に到着したら、お江戸は疫病が流行って劇場が開けられず、お客も減ってしまって閉館&売却の危機!!

歌舞伎座のお宝などを売るオークションが開かれています。


閉館する劇場でのオークションと言えば…

そう!「オペラ座の怪人」

 


いかにもそれっぽいセットの真ん中にあるのは、歌舞伎座の大きな提灯の周りに、

 

小さな赤い提灯が一杯ついた

 

「歌舞伎座シャンデリア」

 

紹介されると、あの音楽と共に提灯が吊り上げられる(笑)



なんやかんやで、紛失していた薫高麗の刀も見つかって、梵太郎と政之助は再びお家復興を目指し、弥次喜多の二人はまた気ままな旅を…

ということで、4人の宙乗りで幕です。

 

 

 

 


こうやって文字で書いてしまうと、なんてことない、馬鹿馬鹿しいストーリーに見えてしまいますが、未だ公演中止などが続く閉塞的なエンタメ界において、浮世を忘れて芝居の世界に引き込まれ、大笑いするひと時を与えてくれた幸四郎さんと猿之助さんに本当に感謝です。

 

前半は歌舞伎、後半はミュージカルのパロディなども織り交ぜ、ほんっとうにくだらないんだけど、最高に歌舞伎愛に溢れてて、二人の思いが伝わる暖かい舞台でした。

 

 

 

 


また何年後かには、新作を見せてくれるかな?

 

それとも染五郎&團子コンビにバトンタッチかな?

 

 

 

 

私はまだまだ、幸四郎&猿之助のおバカコンビを見たいですけどね(笑)