新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」(夜の部は公演中止!) | akaneの鑑賞記録

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宮崎駿が昭和57(1982)年に雑誌「アニメージュ」にて連載を開始し、13年をかけて完結した大作漫画「風の谷のナウシカ」。昭和59(1984)年には宮崎駿自身の監督で連載途中に映画化され、現在に至るまで日本のみならず世界中で愛され続けてきました。

原作の単行本全7巻を「仮名手本忠臣蔵」のように、昼夜通しでの公演。

昼の部は、序幕から3幕目まで18場
夜の部は、4幕目から6幕、大詰めまで18場

つまり通しで全7幕、36場面ということになります。


発端である序幕は「青き衣の者、金色の野に立つ」

ここだけで11場あります。
映画はこの場面だけなので、いかに壮大な全容かと。




最初に「口上」があって、全体的な世界観や言葉の説明があり、とても分かりやすい導入。

幕が開くと「腐海」のシーンですが、吊るしのセットと紗幕、そこに投影される映像が相まってとても立体的で幻想的!

菊之助さんは前回の新作「マハーバーラタ戦記」でも、どえらい長編に挑んでいましたが、こちらもかなり壮大な物語。
どんな感じになるのか、少々不安でしたが、しっかり歌舞伎になっていました!

 

 

 

まず、一番好印象だったのは、セリフがきちんと歌舞伎だったこと。
「~~なのだ!」といった口語調ではなく、「お許しなされて下さりませ」とか「かたじけのうございます」といった感じで、分かりやすいけれども、ちゃんと歌舞伎のリズムになっているのが、非常に心地よい。
途中「弁天小僧」のパロディで、「オラァ尻尾を出しちゃうよ」に続いて、七五調のセリフで語ったり。

そして、河原崎権三郎さん、中村錦之助さん、中村又五郎さんなど、ベテランがしっかり脇を固めています。
もうそれだけで、歌舞伎の空気感出ますもんね。

セリフ術、大事です。

 

 


場面転換もできる限りアナログな歌舞伎の方式を使っていました。
セリもかなり細かく使い分けています。
振り落としでの場面転換も多く、アニメの原画のような色合いの背景も効果的。
幕間に引かれる、ストーリーを表現した幕も綺麗でした。

 

 

この天井の照明が、だんだん王蟲に見えてきます(笑)

 


衣装も凝っていて、風の谷の民族は和服、他の国はチャイナ風、アオザイ風、あるいはバリ島の仮面のような兜だったり、中東や東南アジアのテイストを巧く取り入れています。
トルメキア王国の紋章は、双頭の蛇なので、兵士の衣装は、蛇を表す鱗柄(三角形)の文様になっています。

衣装のぶっかえり(糸を引き抜いて裏返すこと。一瞬にして別の衣装に早変わりします)もたくさんありました。

 

 

音楽も、あの有名なメロディを、お琴や三味線で演奏するのですが、全然違和感なかったですし、義太夫や大薩摩など、歌舞伎らしさもふんだんに盛り込まれています。

 

 

 

 

王蟲とナウシカとテト

 

 

菊之助さんは、もともと立役と女方を兼ねる役者さんなので、
たおやかで優しい女性の顔と凛々しい若武者、まさにナウシカそのものです。

 


そしてなんといってもクシャナ皇女の七之助さん!!
前回「マハーバーラタ」でも、圧倒的な悪の存在感でしたが、今回もゾクゾクするほどカッコいいです!!
紫のマントを翻して、「この恨み、晴らさでおくべきか~!」って!

 

 

キャーーー!クール!

 

 

 


王蟲の声は市川中車(香川照之)さんだったのですが、まぁもうこれが素晴らしい!!
「小さきものよ…」で始まるモノローグがね、本当に素晴らしかった。

さすが。
「もののけ姫」のモロ、美輪明宏さんぐらいハマってました。

 


本水のシーンもあったのですが、土鬼の基地にある王蟲培養室を壊す(培養液がこぼれる)というシチュエーションでの立ち回りなので、ストーリー上も無理がなく、自然な流れの本水立ち回りでした。

 

 

 


そんなこんなで、昼の部も終わりに近づき、いよいよ

「戦場攻城砲台の場」
ナウシカたちが敵を引き付けている間に、クシャナたちは砲台を占拠して勝利するシーンです。

 

 

ナウシカがトリウマに乗って花道から登場したときに

「え?!ウマが一人?!危ない!!」

って思ったんです。

 

 


歌舞伎では人が馬を演じる場面はたくさんあります。

 

 

 

もちろん四つ足なので、二人一組。
それでも時に、転んだり落馬したりというトラブルはあります。

 

 


なのにトリウマはたった一人!

被り物をしているからよくわかりませんが、おんぶか肩車の状態で、成人男性を1人背負って駆け回るのは危険じゃない?

 

 


菊之助さんは、上に乗った状態で見栄をしたり立ち回りするなど、かなり動きます。
さすがに舞台上では、菊之助さんにハーネスを付けて吊られた状態になっていて、負担は軽減されていましたが、また花道を駆けて引っ込むとき、揚幕のすぐ手前で、トリウマ役の人が転び、菊之助さんが落下しました。
すぐ暗転させたのではっきりとは見えませんでしたが、私は花道近くに座っていたので事故があったのはわかりました。

 


そのあと、ナウシカ無しのシーンは続きましたが、変な間が空いて客電が付き「舞台機構にトラブルがあり、少々お待ちください」とのアナウンス。


しばらくザワザワと待ちましたが、急に七之助さんが袖から登場し「みんなで色々と頑張ったのですが、どうしても舞台機構の都合で、この先を続けられなくなりました。あと少しなのですが、残念です。皆さんは、ナウシカが飛び立っていくところを心の目で観てください。」と説明があって、終演となりました!
恐らく、メーヴェに乗って、宙乗りをするシーンがラストだったと思われます。

 

 

七之助さんはもうメイクも落とし、シャワーを浴びる寸前に、慌てて着物を羽織って出てきたような状態。
これは絶対、菊之助さんに何かあったな、と思いました。

 

 


本当に舞台機構のトラブルであれば、宙乗りをしなくてもセリフと芝居だけで演じることもできますし、もし叶わないのであれば、菊之助さんが出てきて説明をするでしょう。
それができないということは、落下の際にケガをしたとしか考えられません。

心配しながら劇場の外に出ると、走り去る救急車…
 

 


16時過ぎ、再度劇場に行きましたが、やはり夜の部は中止となってしまいました。

夜に発表されたニュースでは、ひじの亀裂骨折とのこと。

でももう今日12/9から復帰だそうです!え~~……
トリウマ役の人も大丈夫だったのかな…
 

 

 


奈落に落下して半年も休演した幸四郎さん(当時染五郎)

セリの機構に衣装が絡まって粉砕骨折をした猿之助さん
今年も海老蔵さんが体調を崩して3日ほど休演しました。
そして今回の事故。
これからの歌舞伎界を担う、40代役者さんたちには、本当に体を大切にしてもらいたいです。
團十郎さん、勘三郎さん、三津五郎さん亡きあと、必死に歌舞伎を守り続けている彼らがいなくなってしまったら、もう歌舞伎は生き残れないかもしれないから!


菊之助さん。
新作の初演ですから、初日ギリギリまで、寸暇を惜しんで稽古をしていたと思います。
しかも「グランメゾン東京」を収録しながら。

 

 

古典なら、すぐに誰かが代役できるというのが歌舞伎の凄いところですが、
新作は無理です。しかもダブルキャストでもないし。
もちろん、ご本人が一番つらいと思いますけれど、私たちは無理しないで…と願うしかありません。


壮大な物語をできるだけ忠実に描きたい、という熱意はとても伝わってきましたが、もう少し整理して場面を削っても良かったんじゃないかな、とも思いました。
あまりにも場面が多すぎて、ちょっと散漫になったかも。
トリウマに乗って戦場を駆けまわるシーンは、見せ場だったかもしれませんが、無くても流れとしては成立したと思う…



そこそこ舞台は見ていますが、こんな非常事態は初めてです。
とても素晴らしい内容だっただけに夜の部を見られなかったのはとても残念。。。
すでに全公演完売だし、チケットがあったとしても、12月は忙しくてもう見に行ける日もありません。

このディレイビューイングを見るしかないのかなぁ
https://l-tike.com/cinema/mevent/?mid=493698