マハーバーラタ戦記 | akaneの鑑賞記録

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楽しみにしていた10月公演。
いや~素晴らしかったです!
菊之助さんは「十二夜」以来の新作かな?と思いましたが、音羽屋は毎年お正月に新作公演しているから、ノウハウはバッチリですよね。

菊五郎さん、左團次さん、鴈次郎さんらがしっかりと存在感を見せ、菊之助さんと松也さんが若さ溢れる凛々しさを、そこに美しく妖しい七之助さんが光を放って物語を大きく膨らませています。
全体的には20代30代の若手が大活躍で、その生き生きとしたエネルギーが歌舞伎座に満ち満ちていました。

まずあの長大な物語をとてもうまく、しかも分かりやすく、きちんと歌舞伎としてまとめているのにびっくり。
演出家/宮城 聰さんのお力も大きいですね。
マハーバーラタの物語に精通していて、なおかつ自分のカラーを押し出すことはせず、歌舞伎にきちんとリスペクトしているのが感じられました。
あらすじを読んでいる段階ではとても分かりにくい名前の羅列で大丈夫かなと思いましたが、事前にざっと相関図を見ておくだけで、全然迷子にもならずに、すんなりと理解できました。
そして音楽が素晴らしい!
ガムランっぽい音の出る打楽器がたくさん使われていて凄く雰囲気がありますし、三味線や下座音楽とも融合し、ツケもしっかり効いていてとても心地よいです。
衣装はすっごく豪華!最初の神様勢揃いがまぁ金ピカで、お仏壇の中みたい(笑)

 

 

神殿に並び、忠臣蔵の大序のように、義太夫に合わせて目を覚ましていくのが素敵!
人間界は普通に着物なんですが、柄などにインド風の工夫がされていてお洒落です。

セットは基本的に書割ではなく、舞台一杯に広がる大きな屏風!
それが回り舞台によって場面転換となりますが、いかにも「絵巻物」って感じでいいですね。
それ以外のセットはシンプルに、あまり立て込んだりせず、屏風絵を活かしています。

迦楼奈は、生真面目でちょっと融通が利かず、やることなすこと裏目に出てしまう不器用さもありつつ、心は常に真っすぐで気高い感じが菊之助さんにピッタリ!
そしてなんといっても最優秀賞は七之助さんの鶴妖朶王女ですよー!
原作では王子なんですけど、女性にしたことで、さらに強さが増した感じですね。
最初の登場の時からオーラありまくり!
8月の夜長姫とはまた違う恐ろしさと迫力。
衣装の感じもそうだし、仙台萩の八汐って感じ!
とにかく声とセリフの言い回しが壮絶にゾクゾクします~!
弟役の亀蔵さんも「汚れ仕事は俺様が引き受けますぜ」って役回りがバッチリです。

音羽屋と中村屋が組むことってほとんどないですよね?
菊之助さんと七之助さんの並びって、いつ以来だろう?
新開場の陰陽師ぐらいかな?
すごく新鮮だったし相性もいいし、これからもどんどん競演してください!
音羽屋のメンバーに鶴松君やしのぶさんやいてうさんが絡んでいるのもなんか感動する~

梅枝さんの汲手姫。
若き日、迦楼奈を授かっても「育てられないからごめんなさい」って川に流してしまう赤姫。
本当に繊細でか弱くて美しい姫。
後半は魔物の森鬼飛として再登場しますが、こちらも恋する乙女になってしまうので可愛いです。
今回の梅枝さんは超絶に可愛い。
そして成人した汲手姫を、時蔵さんが演じているのもニクいキャスティング。

児太郎くんの弗機美姫は、像に乗って登場!!
お父様にもビシビシ突っ込んだりしてちょっと気の強いお姫様。
登場するときは少し息抜きでコミカルなシーンになっています。
「では問題です」「音楽!」とか(笑)

5人兄弟は、坂東彦三郎さん、亀蔵さん、松也さん、萬太郎君、種之助君。
種之助君(播磨屋)がいるのも新鮮!!
ちびっこ二人は双子なのー。可愛いのー!
お兄さん二人も萬太郎君も、声がすっごく綺麗で惚れ惚れします。。

松也さんが、菊之助さんとツートップで戦うなんて感無量ですね~。
松緑さんや海老蔵さんじゃないんですもん。
10年前には想像すらできなかったでしょうね。
大河ドラマにスイーツ王子、落語家…こんなにテレビ番組やりながら…凄い。
売れっ子になったよねー。
最後の戦車での立ち回り、斬新なアイデアで迫力ありました。
ベンハーみたいな、一頭立ての馬車が、両花道から登場!!
馬役の人、1人で駆け回るの大変だろうな!!
もうちょっと人が乗る部分に装飾が欲しかったです。ちと雑だった。


日本人には全く馴染のない世界、しかもけた外れに長大な物語を4時間ほどにまとめて見せるのですから、どうしても説明的というか絵巻物風になってしまう部分は致し方ないかもしれません。
長い年月、名優たちによって練り上げられてきた古典に並ぶには、人物像の深みとかまだまだ掘り下げていく部分はあるかもしれませんが、これだけの新作を作り上げてきたことは本当に称賛に値すると思います。

 

お家騒動や骨肉の争い、それによって失うものの大きさ、
人間の一生など、悠久の神々にとっては瞬きするほどの一瞬に過ぎない

 

普遍的な大きなテーマを煌びやかに楽しませてくれる舞台でした。