天才作家の妻 -40年目の真実 | akaneの鑑賞記録

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SAC Awards  ラミ・マレック、ゴールデングローブ賞に引き続き主演男優賞受賞!おめでとう!!!
凄い凄い!!

ボラプメンバーがまたみんな一緒にいるのを見られるのも嬉しい!
作品賞も欲しかったな~なんて思いましたが、ブラックパンサーが受賞したのも嬉しかった!
とても好きな作品だったし、人種差別に関するスピーチを聞いて、こういう形で認められて本当に良かったなと。

主演女優賞は、こちらも同じくグレン・クローズが受賞!
ということで「天才作家の妻」見に行ってきました。


現代文学の重鎮ジョゼフ(ジョナサン・プライス)と妻のジョーン(グレン・クローズ)はノーベル文学賞受賞の知らせを受ける。息子を連れて授賞式が開かれるストックホルムに行くが、そこで記者のナサニエル(クリスチャン・スレイター)からジョセフの経歴に関わる夫婦の秘密について聞かれる。類いまれな文才に恵まれたジョーンは、ある出来事を契機に作家の夢を断念し、夫の影となって彼を支え続けていた。

ここから先は完全ネタバレなので、まだ見ていない方は閉じてくださいね。
全く何も情報なしに見る方が絶対面白いです。
私はすこ~しネタバレ読んでしまったので、前半ちょっと退屈しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジョーンはまだ大学生だったころ、文学部の教授で駆け出しの小説家の卵でもあったジョゼフと知り合いました。
ジョゼフは既婚者で子供もいましたが、二人は恋に落ち略奪婚。
教授と教え子だったため、当然大学はクビ。
小説家として生きていくしかなくなったわけですが、ジョゼフの才能は今一つ。
アイデアは良くても、小説としては面白くない。
「女流作家の本など認めてもらえない」ということで、作家としての道を閉ざされたジョーンですが、書きたい欲は沸々と湧き上がり「私なら書き直せる」と。
つまり共同執筆することになるのです。

プロットは夫が出して実際に書き上げるのは妻。
これが重要なんですね。
私は完全に妻がゴーストライターだと思っていました。それなら100%妻の功績ですけど、そうはならない。
メロディメーカーとアレンジャー、両方が優れていないと名曲が生まれないのと同じです。
妻には人を惹きつけるプロットは思いつかないし、夫にはそれを文章にする才能がない。
しかし女流作家だと世に出ることはできないから、表に出るのは夫だけ。
共同執筆だということは永遠に秘密です。



しかも夫は次々と若い女と浮気を繰り返す。
一度妻を捨てた男は、また同じことを繰り返す。
夫を奪った女は、その瞬間に夫を奪われる女になってしまう。


長年連れ添った熟年夫婦の間には、お互いに鬱屈した思いが蓄積しています。
ましてやこの二人はビジネスパートナーでもあります。
ジョゼフは、売れっ子小説家として表舞台に立ってはいますが、心のどこかで妻の才能に対する嫉妬、引け目などを感じているのでしょう。

だから言葉の端々に、なんでもない無意識な行動に「上から目線」的なものが出てしまうんです。
「俺の方が優位なんだぞ、分かってるよな」と言い聞かせるような。
そして世間に対しては天才小説家気取りでペラペラ喋る。

妻は単なる内助の功。
それがジョーンには堪らない。

 


人生の大半の時間を費やして小説を書き上げたのは私。
あなたを有名にしたのは私。
あなたの浮気をずっと黙認してきたのは私。


「私は毎日何時間も書き続けたのよ!」

 

に対しての夫の言い分は

「その分、良い暮らしをさせてやったじゃないか」
「お前の肩を揉んで、子供の世話もやったじゃないか」

なんですよ。

「やってやった」なんですよ。
妻のおかげで良い暮らしができたとは思っていないんですよ。
根本的にそこには埋めようもない深い深い溝があるんですね。



この夫婦、仲がいいのか悪いのかわかない、という意見も見ましたが、そういうものなんです。

かつては全身全霊で愛し、尊敬した人。
でも今はそのことすらも疎ましい。

細々と身の回りの世話をしたりするのが幸せなこともある。
でも靴下が落ちているだけで体が震えるほどの怒りがこみあげてくることもある。

「あぁ、私も言い過ぎた。彼も悪気はないんだから、気持ちを切り替えて機嫌を直そう」
と思ったとたんに、地雷を踏むようなこと言われたりするんです。


長年のパートナーだとお互いの性格を知り尽くしているから、それぞれの弱点も、どこを責めたらダメージを与えられるかも全部分かっているから、そこを攻撃し合う壮絶なケンカになる。
根本的なことは分かり合えないから、どれだけ言い合っても平行線。
それが分かっているから、それはもう疲れるだけだから、必要最低限しか会話をしなくなる。


何も特別なことをしてほしいわけじゃない。
男とか女とか、夫とか妻とかとかそんなもの関係なく、同じ人間として、

 

「ありがとう。助かったよ」
「悪かった。僕が間違っていた」

そんな風にフラットに向き合って、素直に言ってもらえれば、それで十分なんですけどね。

 

 

これは熟年夫婦に限らず、ビジネスの世界でも様々なケースがあると思います。
「女の出したプランなんか通らないんだよ」と言われて。

面倒くさいことやトラブルは全部こちらに押し付けて、美味しいところは「企画した男性社員」が全部かっさらっていくとか。
でも自分だってわかっているんです。
決定した企画を完璧に実行することはできるけど、そこまで大胆な企画を思いつき押し通すだけのスキルがあるだろうか…。
だから余計にやり切れない。

自分にも相手にもどうにも気持ちの落とし所が見つけられない。
褒められても、無視されても、心が満たされない感じ。


この夫婦には娘と息子がいます。
姉である娘はさっさと結婚し、子供も生まれて新たに自分の世界を築いていますが、まだ芽の出ない小説家の卵である息子デビッドは、偉大な父親にコンプレックスを抱き、なかなかの中二病。

ここでも男女の差を上手く出しているなと思いました。
同じ家庭環境で育っても、ドライに自分の道を切り開いていく娘と、30歳近くになっても自立できない息子。
彼は父親からの承認に飢えているのですが、父親はあまり相手にしていません。
多分、彼の小説の良し悪しが、本当の意味でよくわからなくて意見できないのかも。
それをみてハラハラし、作品は素晴らしかったわと褒める母親。
デビッドは両親と共にストックホルムまで来るのですが、父との交流が持てずイライラが募りケンカに。

板挟みの母親が「今日はどこか一人で自由行動でもすれば?」とお小遣いを渡す姿が悲しい。
その上、件の記者にゴーストライターのことも吹き込まれ、授賞式当日にドラッグをやって荒れて、父親に当たり散らしてしまう。
薄々、母親が書いているのではないかと思って育ってきたからね。
父親のこと尊敬しつつもマザコンってとこかな。

複雑。


ノーベル文学賞受賞というあまりにも大きな名誉が訪れたこと、ラサニエル記者が「あなたがゴーストライターなのでは?」と近づいてきたことで、彼女の我慢も限界に達してしまいます。
ストックホルムに到着しフラッシュを浴びる夫の脇で、表に出せない感情と格闘する妻。
パーティ会場でもジョーンはずっと複雑な表情のまま。

 

「スピーチで私のことを話題にするのは止めてください」というのに、ジョゼフは「私の功績は全て彼女のおかげです」と妻を褒めたたえるスピーチをするのです。

もうそれが完璧に逆鱗に触れてしまい、ジョーンの怒りは爆発しホテルに帰ってしまいます。

 

だって妻を褒めるのは「自分のため」だから。
ジョゼフとしては最大限、妻をねぎらい、感謝したつもりだったと思います。
でもその本音は「良い妻を持ち、そのサポートで自分は成功し、それを今ここで妻に感謝しているオレ様をアピール」でしかないから。




妻のイライラモヤモヤの心境を見事にグレン・クローズが演じていました。

もう圧巻です。
もの凄く微妙な表情なんですけど、全て伝わってくるんです。
多分、男性にはわからないだろうなぁ。
恐らく「なんで怒っているのか、何が不満なのか全然わからない」男性がほとんどじゃないかな。

娘時代を演じていたのは、なんと実の娘アニー・スターク。
なんとなく雰囲気似ています。
グレン・クローズ自身は「3人の夫との間には子供は儲けていないが、恋人だったプロデューサーとの間に一女をもうけている」とのことなので、その彼女なのかしら。

夫役のジョナサン・プライス。
なんか見たことあるな~と色々検索していたら、なんと!!!

「ミス・サイゴン」初演時のエンジニアでした!!
そーだよー。

25周年記念の映画で、最後のセレモニーに出てきたんですよ!

 

 

 

ステップも軽やかだし言うこともいちいちお洒落ですっごく素敵だったんです!!
ということで、一気に好印象(笑)

息子役のマックス・アイアンズ
彼もなんか見たことあるな~と思ったのですが、検索しても心当たり無し。
で、お父さんの名前が……「ジェレミー・アイアンズ」
うわ~!偉大な父のもとで鬱屈する青年ってまんまやん!

しんどいわー。


日曜日の午後、ということもあり、熟年ご夫婦の姿も多かったです。
この作品を二人で見られるご夫婦は、上手く行っているということかしら…
気まずくなかったのかなぁ…