ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 | akaneの鑑賞記録

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1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
ある日、その文書が流出し、ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。
ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、ワシントン・ポストのトップでアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。
しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか…報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた。

 

 

ちょっと社会派映画が2本続きました。
ウィンストン・チャーチルより面白かったかな。

さすがスピルバーグって感じ。
エンタテインメント性もうまく盛り込んで、嫌味なく一気に見せてくれます。

スティーヴン・スピルバーグが、トランプ政権が発足してわずか25日で制作を決め、すべての企画を後回しにしてまで、たった1年で完成させたという驚異の作品。
それだけ「今でなければ!」という強い思いに突き動かされたのでしょう。

並大抵の決意ではなかったはず。
メリル・ストリープとトム・ハンクスという二大名優のスケジュールを押さえられただけでも奇跡だと思いますが、絶対にこの二人でないとこれだけの説得力は出せなかったと思います。
ちょっとした目線や表情で、全て語ることができるんだもん…素晴らしい。
今年のアカデミー賞で、作品賞と主演女優賞の2部門にノミネートされましたが、オスカーは取れませんでした。残念。


「報道の自由」を縦糸に、「女性の進出」を横糸に織り上げていくストーリ。
キャサリンの父親が買収したワシントンポスト。

優秀なお婿さんを迎えて会社を継いだものの自殺してしまい、急遽、専業主婦だったキャサリンが社主を務めることに。
何もかも初めてのことで分からない中、報道という現場だけでなく、銀行や株主総会との折衝もやらなければならない。
役員会では言いたいことや練習してきたことも何も言えず、代弁してくれる役員の横で「そうそう」って頷いているしかできませんでした。

キャサリンとベンが最初からタッグを組んで進んでいくのかと思いきや、最初は割と馬鹿にされてるんですよね。
「あなたが社主だから話は聞くけど口は出すな」ってはっきり言われてます。
私の中でトム・ハンクスは、なんとなく人の良い柔らかな印象の役が多かったんですが、今回は結構ガンガン押しが強くてアクの強いやり手です。

ちょっと横柄で嫌なヤツに見えることも。
でもハンサムでとても頭の切れる人だったから、他社に取られないようキャサリンも頑張って編集主幹に引き抜いたらしいです。(実話)

ベトナム戦争があらゆる意味で実は失策だったことを記した機密文書の存在をスクープしたニューヨーク・タイムズ。
ホワイトハウスのお膝元であるワシントン・ポストは、タイムズに先を越されて焦るなか、なんとか文書を手に入れようと奔走。
編集局次長ベン・バグディキアンは、以前ダニエル・エルズバーグと一緒に「ランド研究所」で働いており、文書は恐らく彼から流出したであろうと想定し、片っ端から電話を掛けて彼を探します。
やっと居所を見つけ、盗聴されないよう公衆電話から電話をするシーン、すごくリアルでした。
メモを取ろうとして受話器をぶら下げたまま鞄を漁ったり、小銭をぶちまけてしまったり、テンパってる様子がすごく伝わってきます。
そうして苦労してやっと文書を入手したのに、戻ってきてみると同じものが新聞社にも届いていた、ってのがちょっとかわいそうでしたけど。

ダニエル・エルズバーグさんは今もご存命で、今回の映画について語った記事を見ました。奥さんが「コピーを沢山取っておいた方が良いわよ」と助言してくれたことが大きかったと。
最初に記事にしたのはニューヨークタイムスでしたが、その後、各新聞社にもこの文書が持ち込まれたことが、今後を大きく左右します。


機密文書のフッターが切り取られているので、文書の順番や項目などが一切分からない中、7000枚にも及ぶ文書を手分けして分類していきます。

掲載するのであればタイムリミットはあとわずか。
このあたりからストーリーがどんどん動いてきてハラハラドキドキ。
ペンタゴン・ペーパーズの作成を指揮した張本人でもあるロバート・マクナマラは、社交界においてキャサリンの古くからの友人。
「記事の入手先をマクナマラに聞け」と言われたときは「そんなことはできない!」と反対していたキャサリンも、徐々に考えが変わり、マクナマラに会って記事の掲載についてアドヴァイスを求めます。
「ニクソンは悪質だ。あらゆる手を使って新聞社は叩き潰される!」と戒められますが、キャサリンは覚悟を決めた様子。
政府からニューヨークタイムズに対して、出版停止命令が出され、この文書のリーク元がタイムズと同じであれば、ワシントンポストも同じく罪に問われます。
亡き夫から引き継ぎ、必死に守ってきた大切な会社と社員。

自分たちも逮捕されるかもしれない。

それに新聞社が潰されてしまっては、もう報道することすらできない。

でも前途ある若者たちを、無意味な戦争に送り込んでいたこの真実を握りつぶしてしまって良いのだろうか。

決断を迫られるキャサリン。
長年、歴代大統領と公私ともに蜜月関係だったベンにも、思うところはあります。

無能で社交好きな女性オーナーと蔑まれ、差別されて来たキャサリンですが、究極の二者択一を迫られたこの瞬間、当たり前のように掲載を決断したのです。
それは、男尊女卑の世界で秘かに疑問と怒りを溜め込んできたキャサリンの痛烈な反撃に思えました。
このシーンは本当にスカッとしましたね。
男性社員たちの中にドレスを着たキャサリンが1人。
喧々諤々の意見を交わした後、キャサリンは落ち着いて決断を下し「私はもう眠いから寝るわ」と言って出て行くんです。
「あとはあなたたちでやりなさい。私の仕事は終わりました。」という余裕ですよ。
そこまでキャサリンは成長し、彼らを納得させるだけの人物になっていたんです。

新聞を印刷するシーンが壮絶に美しくて迫力があって、こういうところはスピルバーグならでは!と思いました。
活版の文字を組むところ、インクの調合、輪転機の迫力、ただ印刷しているだけなのに、これだけワクワクさせられるなんて。
そのあと束にまとめられた新聞はトラックに積み込まれ、街のスタンドに配られるんですけど、トラックはいちいち止まらないんです。
荷台から新聞の束を車道の真ん中に放り投げるだけ!道路が汚れてたりしてもお構いなし!それをスタンドの店員が駆け寄って拾いに行くんです。
なんかこういうのもリアルというか「新聞が、報道が生きている!」感じがしました。

ワシントンポストに続き、他の新聞社も一斉に文書を公開。彼らが罪に問われることはありませんでした。
(ホワイトハウス出入り禁止にはなりましたけど)
ベンが、紙袋から次々と他社の新聞を出してくるシーンには感動しました。
ベンとキャサリンの関係も、自然に対等になっていて嬉しくなります。
そしてウォーターゲート事件へと繋がっていくシーンで終わり。
関連する映画「大統領の陰謀」や「シークレット・マン」も見たくなりました。


約20年にも及んだベトナム戦争。
資本主義 vs 共産主義 の戦いは膠着状態が続き、敗戦が濃厚だったにも関わらずやめるにやめられなかったというのが事実。
ベトナム戦争の目的は「10%は南ベトナムの開放、20%は共産圏との闘い、そして70%は米国の敗戦という不名誉をなくすため」だったともいわれています。
当時の世界情勢から想像すると、アメリカ合衆国が負けることは許されなかっただろうし、歴代大統領も自分が敗戦の大統領となること(貧乏くじを引く)のは絶対に嫌だったんでしょうね。
ケネディ大統領も、少し援助すればすぐに終結すると思って始めたことだったのでしょう。


「報道が仕えているのは国民であり、統治者(政府)ではない」

という言葉、重いですね。
 

 

そんなことを思っていたら、舞鶴市で行われた「大相撲舞鶴場所」の事件。
さっそく「The Post」にも取り上げられていましたよ。恥ずかしいですね。
救命処置をしている女性に向かって「女性は土俵から降りてください」とアナウンスした行司もとんでもないですが、それより怖いのは「女性が土俵に上がっていいのか!」とヤジを飛ばした人がいるということ。
目の前で何が起こっているのか理解できないんですかね、その人は。
そのあと土俵に塩を撒いたのは場をリセットするためだったかもしれませんが、「女性が上がったから清めたのか!」と言われても仕方ないと思います。
そもそも「女性が土俵に上がってはいけない」というのも、明治になってから「神道」を振りかざして後付けで決めたことだとか。
それなのに「歌舞伎」まで同列に挙げる輩まで現れて、全くバカバカしいったらありゃしない!
芸能人の不倫や不祥事ばかり追いかけているマスコミにも呆れますが、まだまだ男尊女卑の根は深いと思い知らされる事件でした。

(2018.4.4)