シェイプ・オブ・ウォーター | akaneの鑑賞記録

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1962年、米ソ冷戦時代のアメリカで、政府の極秘研究所の清掃員として働く孤独なイライザ(サリー・ホーキンス)は、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に秘密の実験を目撃する。アマゾンで崇められていたという、人間ではない“彼”の特異な姿に心惹(ひ)かれた彼女は、こっそり“彼”に会いにいくようになる。ところが“彼”は、もうすぐ実験の犠牲になることが決まっており……。


アカデミー賞、作品賞が決定した日に見に行ってきました。
最終の上映でしたが結構満席。
デルトロ監督の作品は、パシフィックリムしか見たことがありません。


シェイプ・オブ・ウォーター とは
器によって様々に形を変える水の姿を見せつつ、愛の形も様々だというメッセージでしょうか。


この映画、ともかくまず色彩と音楽の美しさですね。
1960年代の時代感、使われている音楽のノスタルジックな世界。
そして「ティール」という色なのでしょうか。
青緑がたくさん使われています。
研究所の掃除婦たちの制服、水の色、研究所の内装。
その中にアクセントとして赤色が効果的に使われています。
イライザの恋心の高まりに合わせて少しずつ赤の量が増していくのです。
始めは靴から始まり、ヘアバンド、口紅、最後は真っ赤なコートを着ています。

深い水に沈んだ部屋の中から始まるオープニングで、すっかり物語の世界に引き込まれます。
半魚人はまぁ最初はやっぱり「グロ!」って思うんですけど、段々カッコよく見えてくるんですよね。
猛獣のような彼が、ゆで卵につられ、音楽や会話を通して進歩していくのが素敵。
ダグ・ジョーンズさんは、こういった異形の役、多いんですね。すごく神秘的です。
暴力的で指を食いちぎったり、猫を食べちゃったりしていたのに、体の使い方なんかも、まさに猿→類人猿→人間と進化していって、最後、イライザを撃ったストリックランドに立ち向かっていく時など、スックとした立ち姿がものすごく美しいです。

とっても紳士的な立ち居振る舞いになっていくんですよね。
結構クリッとしたつぶらな瞳なんですけど、まばたきすると魚類っぽく白い膜みたいなのが出てくるのがリアル。
口元だけは人間なので、口元から顎のラインとかが男前です。
そしてただ単に異形の哀しい生き物ではなく、実は特殊な力があり、その力にも目覚めていくのもカッコイイ。


言葉の喋れないイライザ、黒人のゼルダ、リストラにあった初老のゲイ、敵国の博士
圧倒的弱者である彼らが、圧倒的強者であるスパイや軍をまんまと出し抜いて彼をを救い出す。

 

お伽噺と冷戦時代

アメリカとソ連、純粋な愛とエログロ
勝ち組白人とマイノリティの人達

赤と緑

 

こういったはっきりとわかる対比、色々な映画へのオマージュ、さらに様々な細かい設定を数多くちりばめながら、ものすごく均整のとれたバランスにまとめ、全体的にはファンタジーでふんわりと仕上げているところが凄いです。
無邪気なオタクおじさんっぽい雰囲気でありながら、恐ろしく緻密に物語を組み上げる才能、監督のギャップそのものです。

イライザはつつましやかな生活はしていますが、卑屈なところはないんですよね。
タイムカードの列もちゃっかり横入りしたり、性的にも非常にあっけらかんと開放的。
ストリックランドに手話で「ファック!」とか言っちゃうし。
世間からは孤立していて孤独だった、本当に愛する人とは出会えなかった、という寂しさはあっただろうけれど、心と心でしっかりと通じ合った二人に言葉は要らなかったのでしょう。
サリー・ホーキンスさん。おばさん、とか言われてますけどまだ30代前半。
地味なんだけどとっても魅力的な女優さん。
それに手話の演技がうますぎ!
手や口の動きもそうだし、表情だけで全て物語っていて、とってもチャーミング
彼女なしに、この映画は成立しなかったでしょうね。

ゼルダ役のオクタヴィア・スペンサー。  
「ドリーム」「ギフテッド」と昨年マイベスト10の映画にも出演していました。
こういう脇をしっかり固める役はバッチリですね。
イライザとの結構あけすけなガールズトークも面白い。
旦那さんとの関係とかもすっごくリアルだし。
この人がいてくれるとすごく安心する。絶対助けてくれるもん。

いかにもな悪役、ストリックランドを演じるマイケル・シャノン。
顔が怖いよ、半魚人より怖いよ。
上にはへつらい、下の者には威張り散らす。典型的な「弱い犬ほどよく吠える」タイプ。
トイレの後で手は洗わないとか、キャデラックに乗るとかどうでもいいことがカッコイイと思ってる。
家には金髪の美人奥様がいて、子供は1男1女、非の打ち所のない勝ち組設定。
でも、そんなに優秀な人物じゃないんだよね。
必死こいてもがき倒して、人には見せないけど、やっとこの地位にしがみついている。
「ポジティヴシンキング」の本とか読んでるし(笑)
本人、エリートのつもりだけど大物じゃない。
だから1度の失敗で、あっさり梯子を外されてしまう。
本当に嫌なおっさんだし、絶対上司にしたくないタイプで、最後殺されてざまーみろだけど哀愁感じるよね。
日本にもああいうおじさん一杯いるもん。
高度成長期時代、企業戦士とか言われて、潰しがきかなくて会社に使い捨てにされた人。
「ありのままに」「This is Me」で生きることが称賛されるようになった現代では、、あんな風にハリボテの人生はもはや完全に笑いものにされてしまう。
それもまた、ちょっと辛いかも。
みんな何かしら鎧をまとって生きてるじゃないですか。
まだまだ「ありのままに」なんて生きられませんよ。
ストリックランドが悪役を一手に引き受けているようでいて、彼もまた哀れな存在なのです。


ラスト、撃たれて死んでしまったイライザを抱いて、彼は海に飛び込み深く深く沈んでいきます。
それがこのポスターのシーン。
ナレーションでは彼がキスをすると、イライザの首の傷はエラとなって、水中でも呼吸できるようになり、二人は水の底で幸せに暮らしました、というエンディング。
それがオープニングの水中のお部屋に繋がるわけですね。美しい。。。

始まりと終わりは、アパートの隣室に住んでいたジャイルズのナレーションなので、全くのお伽噺という設定もあり得るのですが、私はイライザも、もともと半魚人(女性だから人魚?)だったのではと思いました。
何度もフューチャーされる首の傷、川で拾われた孤児。 
そして話せない、声が出ない設定はまさに人魚姫。
イライザはミュージカルっぽいテレビ番組が好きでよく見ているのですが、マネしてタップを踏むシーンがあるんですよね。楽しそうにちょっと1人で踊るんです。
空想シーンにもダンスシーンがありますし、これは人魚姫が声と引き換えに脚をもらったことを示唆しているように思えました。
もともと彼女も水に住む生き物だったからこそ、彼と通じ合うものがあって結ばれたんですよね。
まぁ半魚人様、ファーストインプレッション結構グロいです…最初は獰猛だし。
完全に人間の設定だと、恋愛モードはちと厳しい。
それもプラトニックじゃないですから。いたしちゃいますから。
美女と野獣のように、陸系のケモノならなんとなくわかるんですが、水系はちょっと苦手かも。
彼も彼女が水の中で生きられるってわかったんでしょう。
じゃなきゃ、治癒能力を使って彼女を生き返らせ、自分は1人水中に戻る、というエンディングになりそう。

イライザの靴が脱げてしまうのも、もう靴は必要ない(陸地で歩かない)ってことなのかな。

 

それにしても主役のカップル二人とも話せないって凄い設定じゃないですか!!
台詞なしなんですよ。1人は姿形も異形なんですよ。
でもメチャクチャ感情は伝わるし、全然違和感なく観てしまうのが凄い。
表情と体の使い方だけで演技できてるんですよね。ほんとに素晴らしい。

この映画、どちらかというと女性の方が理解しやすいかもしれません。
男性は心を通わせる恋愛より、形とかシステムとか理性的なところから恋愛も始まるような気がします。
古今東西、美女と野獣の設定はありますけど、反対の性別(美男子と異形の女性)って物語、ないですよね。
どうしてなんでしょ?