スリー・ビルボード | akaneの鑑賞記録

akaneの鑑賞記録

歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

ミズーリ州の田舎町。7か月ほど前に娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、犯人を逮捕できない警察に苛立ち、警察を批判する3枚の広告看板を設置する。彼女は、警察署長(ウディ・ハレルソン)を尊敬する彼の部下や町の人々に脅されても、決して屈しなかった。やがて事態は思わぬ方へ動き始め……。

こちらも話題作なので、見に行ったのですが、私としてはあまり好みではありませんでした。
アメリカ映画にしては、勧善懲悪モノではなく、日常どこにでも起こりうる事件や人間の愚かさみたいなものを描いているのですが、先に「祈りの幕が降りる時」を見ちゃったから、日本人特有の細やかな心の動きとか、地道な捜査活動とかそういうものが一切ない全体的なガサツさに共感できませんでした。
一応発端はレイプ殺人事件ですが、まぁその捜査をすることがメインではないので、全然捜査が進まないのももどかしいし、全く罪と関係ない人たちが互いに的外れな攻撃をしあうばかりでやりきれないです。

 

事件が忘れ去られてしまわないように、看板を出すのはいいと思うんですよ。
それによって新たな目撃証言が出るかもしれないし、犯人逮捕のきっかけに繋がる可能性もあります。
でも署長を名指して攻撃するのは意味わからない。
汚職警官でもないし、事件をもみ消した訳でもなく、末期ガンと闘いながら捜査もしているのに、母親は全く受けつけず、無理難題を吹っ掛けるばかり。
助けてくれる人もいるのに、いつも不機嫌で当たり散らすばかり。
実際に娘とも、車を貸す貸さないで揉めて

「もういいわよ!歩いて帰るから!レイプされてもしらないわよ!」
「レイプされちまえ!」

みたいなケンカをした日に事件にあったわけですしね。
DVの旦那は19歳の女と出て行って、唯一残っている良い息子も、その看板のことで色々いじめられたりしているわけですよ。

 

ある時その看板が燃やされてしまいます。

ひょっとしたら首になった腹いせに警官のディクソンが火を付けたのかもしれませんが(そのような描写はない)いきなり警察署に火炎瓶投げ込むってありますか?
こんな放火、重犯罪でしょ?

今までの捜査資料だって全部燃えちゃったかもしれないのに、ある男性が「一緒にいた」っていう証言だけで逮捕も捜査もされず野放し。

これはちょっとありえない。
こんなずさんな警察じゃ、犯人なんか捕まえられないでしょ!って思うし。
ともかく、あの母親が見た目も性格もどうにも好きになれず、同情できませんでした。


ウィロビー署長のウディ・ハレルソン。

グランドイリュージョンでは若者の印象でしたが、そこそこの年齢なんですね。
ユーモアがあって、みんなのことを一生懸命考えている良い人。
妻が看病に疲れたり、闘病の暗いイメージが残らないよう、家族で楽しい思い出作りをしたあと自殺してしまう。
ミルドレッドにも、ディクソンにも、心のこもった手紙を残していました。
それによって、彼らの心も少しずつ心がほぐれていくのがせめてもの救いでしょうか。
後続で着任した署長も、非常に正義感のある人物でしたし。

サム・ロックウェルってアイアンマン2でチャラい武器商人やってた人ですよね?
なんか全然雰囲気違って驚きました。役作りで太ったのか、太っちゃったのかわかりませんが、非常に愚鈍なというか、頭の悪いマザコンで、すぐブチ切れて暴力を振るう酷い警官役でした。
ウィロビー署長のことを敬愛しているが故に、彼を攻撃してきたミルドレッドが許せず、彼女に加担した広告会社も許せず、署長が自殺したと聞いた途端、その広告会社をぶち壊し、社員をぼこぼこに痛めつけて窓から放り投げて重傷を負わせ、新任の署長に首にされます。
ウィロビー署長からの手紙が見つかったから取りに来いと言われて、深夜警察署に。
ウォークマンを付けて、必死に手紙を読んでるから、火炎瓶が投げ込まれるのにも気づかず、っていうのも不自然。
普通気付くでしょ?
それで、火だるまになりながらも、署長からの手紙に正義感が芽生え、ミルドレッドの娘の捜査資料だけは救出します。
大やけどをして入院した部屋が、自分がボコボコにした広告会社の人と同室だったんだけど、責めたりされずオレンジジュースをそっと置いてくれたことにも感化され、次第にイイ人になっていくんです。。

まぁ、根っこは悪い人じゃないんですよ。

頭が悪いから目の前のことしか見えなくて、色々俯瞰で物事を理解できないんですけど、ちゃんと考えればわかるっていうの?ある意味素直っていうのかな。単細胞。
まぁその改心ぶりも唐突なんですが、ある日バーで「女を回して焼いて…云々」と自慢している男と出会い、絶対犯人だと思って、車のナンバーを控えたり、ケンカをしてひっかいでDNAを採取したりするんですが、結局DNAは一致せず。
その男は、ミルドレッドの店にも現われて挑発するのですが、結局何も分からずじまい。

娘を殺した犯人ではないかもしれないけど、絶対コイツは悪い奴だ!と、ミルドレットとディクソンは、ライフル持ってそいつを殺しに行くかどうするかってところで終わり。

「実は警察署に放火したの私なの」
「知ってたよ、お前以外、そんなことする奴いないだろ?」

みたいなね。

そいつを殺すかどうか道々決めようか~って。


田舎特有の閉塞感、差別意識、停滞して淀んだ町、行き場のない怒り。
姿を見せない犯人以外に誰も悪人などいないのに、マスコミの煽りや、仲間内でいがみ合うばかりで全く不毛な方向にしか進みません。
そこを狙っているんだろうけれど、見終わった後のいや~な感じがしんどかったです。
大きな問題提起をしている作品であり、印象には残りますけどね。