嘘を愛する女 | akaneの鑑賞記録

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歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

世話好きな研究医の恋人・小出桔平(高橋一生)と5年にわたって同居している食品メーカー勤務の川原由加利(長澤まさみ)。ある日、桔平がくも膜下出血で倒れて寝たきりになってしまう。さらに彼の運転免許証、医師免許証が偽造されたもので、名前も職業もうそだったことが判明。彼女は探偵の海原匠(吉田鋼太郎)と助手キム(DAIGO)に桔平の素性調査を依頼する。そして桔平が執筆中だった小説が見つかり、そこから瀬戸内のどこかに桔平の故郷があることを知る由加利だったが……。
 

 

いかにも邦画らしい、静かな佇まいの作品でした。
高橋一生がサイコパスなんじゃないか、長澤まさみが事件に巻き込まれるんじゃないか、といったミステリー要素は一切ないので、何も予備知識を入れず、フラットな状態で見てほしいです。
探偵役の吉田剛太郎さん、ちょい役で出てくる黒木瞳さん、津嘉山正種さんなど、役者陣がみんな素晴らしいですね。
本当にさりげない日常って感じで、ものすごく演技が自然なんですよ。
大きくドラマが動くということもないのですが、ず~っと引き込まれて見てしまいます。
5年も同棲していたのに、彼のことを何も知らないのはちょっと不自然とも思うのですが、
桔平ちゃんが倒れてしまう前、川原由加利は新商品の企画で「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるほどのキャリアウーマンで、ま、少々思い上がっているというか、いかにも「私は仕事してます」な女性なので、結局のところ彼のことはちゃんと見ていなかったんですね。自分が一番大事で、安月給の彼を養っていて、家事をやってくれる便利な存在としかみていない。

後半、過去の彼の生活が再現されるのですが、瀬戸内に住みながらも医者としてエリートだった彼は、しょっちゅう東京にも出張していて忙しい日々を送っていて、奥さんと子供のことが見えていなかったんです。
小出桔平として存在していたときの高橋一生と、安田公平として存在していたときの高橋一生が全く別人の表情をしていて、上手いな~と思いました。
東京で桔平として暮らしていた彼は、由加利の姿にそういうかつての自分を重ね合わせてみていたのかな、なんて。

2/3ぐらいは、海原と由加利のロードムービーであり、最初は仕事と同じように強気でガンガン捜索していくのですが、その旅の中で彼女が味わう不安や焦り、そして自分自身や桔平との生活を見つめ直して少しずつ変わっていく姿がいいなと素直に思えます。

でも、あんなに仕事仕事だったのに、いきなり瀬戸内で捜索を始めちゃって、その後は一切会社のシーンが出てこないんですけど、会社辞めちゃったんですかねぇ?

あと、桔平君も運転免許証や病院のIDカードなんてそう簡単に偽造できるのかしら?

等々、突っ込みどこともあるんですが、おおむね私は好きなタイプの映画でした。
これは仕事も家庭も両立している人が見る方が共感できると思います。
エンディングの松たか子さんの歌がまた素晴らしい。
これだけで泣けますね。
歌詞は坂元裕二さんで、松さんの伸びやかで真っすぐな声が心に染み渡りました。
松さんの歌い方って、感情を込めて歌い上げるタイプではないし、むしろ感情とか色を極力押さえているのに、ものすごく伝わってくるんですよね。

帰宅して「anone」の録画を見たのですが、なんとなく同じテイストだなと思いました。
淡々と日常を描いているようで、少しずつずれているところもあり、人間のどうしようもない弱さや哀しみ、優しさがふんわりと存在している感じ。