黒蜥蜴 | akaneの鑑賞記録

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歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

江戸川乱歩の長編探偵小説で、1961年に三島由紀夫が戯曲化した『黒蜥蜴』。
一代で財を築いた宝石商・岩瀬庄兵衛は、娘の早苗を誘拐するという脅迫状に脅え、私立探偵の明智小五郎を雇う。大阪のホテルに身を潜める父娘の隣室には、岩瀬の店の上客である緑川夫人が宿泊していたが、実は彼女こそ、誘拐予告をした張本人の女賊・黒蜥蜴。

黒蜥蜴は、部下の美しい青年・雨宮を早苗に紹介すると見せかけ彼女を奪い去ると、そうとは知らずに犯人を警戒し続ける明智の前に、何食わぬ顔で現れる。クールでいながら、「犯罪」へのロマンティックな憧れを隠さない明智に魅入られた緑川=黒蜥蜴は言う。

 

 「要するにあなたは報いられない戀(こい)をしてらっしゃる。犯罪に對(たい)する戀(こい)を」。

 明智はすかさず切り返す。

 

 「でも己惚れかもしれないが、僕はかう思うこともありますよ。僕は犯罪から戀(こい)されてゐるんだと」

 自信に満ちたその態度を裏打ちするかのように、明智は見事に早苗を奪還してみせる。が、黒蜥蜴は怯まない。美の狩人・黒蜥蜴VS.名探偵・明智小五郎の勝負は、報われない結末に向かってさらにヒートアップしてゆく……。
 
デビッド・ルヴォー氏の演出で観た「エターナルチカマツ」が素晴らしかったので、とても期待していました。
 
ともかく中谷美紀が素晴らしい!!

もう最初から最後まで美紀様を愛でる舞台です。
圧倒的な主役扱いで、圧倒的に主役として君臨。
衣装も一人だけ5~6着は着替えるのですが、そのどれもが美しくて。
衣装、前田文子さんでしたね。さすが!

 

一番最初の緑川夫人として登場するときだけ白いドレス、黒蜥蜴と見顕してからはすべて黒い衣装です。

 

黒髪のボブスタイルがまたお似合いで、顔は小さいし、スタイル抜群だし。
体の隅々まで、それこそ指1本1本の先まで神経の行き届いた美しい仕草と美しい声。
気位が高く、気品あふれ、魅力的で、ドSで、狂ってる美しい人。完璧。

2016年に「IQ246~華麗なる事件簿~」というテレビドラマで織田裕二と共演していて、その時、犯罪コンサルタント マリアT を演じていましたが、ちょっと黒蜥蜴に似ていたかもしれません。敵対しているけどその知力に惹かれあい、最後服毒自殺を図るところなんかも


蜥蜴を象徴するダンサーが2人、常に妖しく蠢いています。
最初のホテルのシーンでは、舞台上手側の螺旋階段にずっとまとわりついていて「これは一体何を象徴しているのかな?」と思ったのですが、最初は緑川夫人として存在しているから、蜥蜴たちも遠巻きに見ていて出てこないんですね!

自分のアジトに戻って、手下たちに話すときは、ちょっとぞんざいな物言いだったりして、それも素敵です。
良い働きをした手下には「爬虫類の称号」が与えられるんですけど、「青い亀」とか「黄色いワニ」とか…いらねー!
こういうとこ乱歩様もお茶目。

 

対する明智小五郎。井上芳雄さんは歌っている姿しか知りませんでしたが、やはり全体的に漂う気品がよろしいですね。
あの黒蜥蜴が唯一恋してしまう相手ですから、完璧でないと。

高貴で理性的で優しく、容赦しない人。

 

成河さんは今回ヘタレな役だったのでちょっと残念。
狂気めいたところも発揮していましたが、最後は「どこへでも行け」と追っ払われてそれっきりですからね~。
狂おしいまでに黒蜥蜴に恋い焦がれながら、全く顧みられることのない下僕。
彼女に剥製にされることが一縷の望みという哀しい男です。

岩瀬庄兵衛役のたかお鷹さん。ベテランの方ですが、あまり好みではありませんでした。
ホテルのシーンでの酔っ払いの演技もとってつけたようだし、大物感を匂わせつつの実際は成金感っていうのが欲しいんですけど、なんか存在感なくて。

岩瀬早苗役の相楽 樹さんもまだまだでしたね。

声色とかとと姉ちゃんのまんまですもん。
やたら両手でスカート握りしめるのが気になりました。

手の動きのバリエーション、それだけなの?って。
二役演じ分けもできていなかったし、黒蜥蜴が剥製にしたいと執心するほど超絶な美女でもないしなぁ。

舞台装置は、廻り舞台を有効的に使い、あとはドアと衝立を自在に組み合わせていて転換も美しく、時間の流れも表現していました。

天井にはガラス窓を模した一面があり、月明かりが差し込む窓であったり、東京タワーであったり。
時々背面に映し出されるプロジェクションマッピングも効果的。

 

バンドが入っていて、音楽がナマなのも素晴らしかったです。

やっぱり音源を流すのと全然違いますもんね。

なんか、時代というか空気感が伝わってくる感じがするんです。

 

 

全体的に犯罪のトリックとかは、ちょっと「ん?」ってところもありますけどね。
「普通、気付くやろ?」みたいな。

でも古き良き大正ロマンというか、三島由紀夫独特の美しい日本語の台詞を堪能しました。
美輪明宏さんの黒蜥蜴、素敵だったでしょうね。