リチャード三世 | akaneの鑑賞記録

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歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

王位をめぐるランカスター家とヨーク家の争い(=薔薇戦争)の渦中、15世紀イングランド。
ヨーク家・王の弟で、野心家のリチャード(佐々木蔵之介)は、自身が王座を得るために、知略の限りを尽くし、残虐非道な企みに手を染めていく。
そして、自らが殺したランカスター家・ヘンリー六世の王子の妻・アン(手塚とおる)をも手に入れてしまう。
友、先王の息子、王妃、実の兄でさえも厭わず手にかけ、邪魔な人間を次々と葬り去ったリチャードは、ついに王座に上り詰める。そして、さらなる策略を企てる矢先、反乱が起こり軍勢に攻めこまれてしまう。
最後に彼を待ち受ける運命とは…。


ルーマニアの蜷川”とも称される、巨匠シルヴィウ・ブルカレーテさんの演出は非常に斬新で刺激的でした!

 

苔むした石壁を思わせる舞台。
三方を壁に囲まれているので閉塞感があり、それがお芝居の息苦しさを増長させます。

壁部分はすべて布で、何ヶ所の切れ目から出入りしたりセットを出したりできます。

両面が開くようになっている箱型のドアのセットが6つ。
部屋の扉であったり、建物のドアであったり、自在に使われるのですが、それもまた錆色に汚されていて、血が乾いた色のようでもありゾッとします。
薄汚れたバスタブが登場して本当にシャワーの蛇口が降りてきて水を張りクラレンス王を溺れさせたりします。

他にもビニール袋で窒息死させたり、チェーンソーを持ち出すなど暗殺シーンもかなり描かれます。

 

 

暗殺の実行人は白いビニールエプロンと白い長靴で肉屋のようないでたちをしていて、屠殺人のよう。
暗殺人と同じ白い衣装で床掃除をしているお小姓も常に登場し、血塗られた歴史を洗い流しているかのようです。

オープニング。
幕が開くと、ビートが効いたロックが流れ、白シャツ黒パンツの登場人物が踊っているパーティシーン。
「機械仕掛けのオレンジ」を彷彿させます。
役者の皆さん、鍛えられた体なので、そのシンプルな衣装が素敵。

劇作家として登場する人物以外はすべて、男性で演じられます。
歌舞伎で見慣れているから全然違和感ありません。
シェークスピア劇も男性だけで演じられていましたしね。
むしろ、女性キャストが入ると、なんだかリアルというか生々しさが出てしまうので、男性ばかりの方が純粋にお芝居の世界に没頭できるし見ていて落ち着きます。

女性を演じる役者は、ベアトップで裾を長く引いたドレスを着ています。
肩を出しているだけで、特に女性的なメイクも鬘も被っておらず、声色を変えたりシナを作ったりもしないのですが、とっても色っぽいです。
特にエリザベス王妃役の植本純米さんが素敵でした。

 

 

最初こそ、金髪の鬘を被って登場しますが、その後はずっとスキンヘッドのままです!
アテルイ(劇団☆新感線)で紀布留部をなさっていた時も凄く印象的な役者さんでした。

蔵之介さんはあの長身と長い手足がとても舞台映えします。
床につくほど長いコートを羽織ったりするのでなおさら。まさに「色悪」。
ふざけた道化姿、うわべだけの善人ヅラ、様々な顔をみせ縦横無尽に舞台を支配します。
父と夫を殺しておきながら、未亡人となったアン王女を凋落するシーンなど、相当色っぽいです。
バッキンガム公をたらしこむキスシーンもあります
ようやく手にした王座の椅子を恍惚の表情で愛撫する様は、まるで女性を凌辱しているかのようでした。

「せむし」という設定は色々な形で表現していました。
全く普通にふるまっているときもあれば、片足だけハイヒールを履いていたり
完全に体を捻じ曲げて杖を突いていたり。

邪魔になるものを次々と遠ざけ、殺し、ようやく念願の王座につくリチャード。
しかしそのとたんに今までの毒気は消え、怯え、不信に苛まれて結局は自滅してしまうのでした。
まるで「桜の森の満開の下」のオオアマのようです。

 

 

権力とは、追っかけているときが最もエキサイティングで、それを手に入れてしまうと恐怖しか残らないのですね。
 

 

実際のリチャード三世が、どの程度残虐だったのかはわかりません。
常に派閥が対立していた時代の王位争いですし、敵側の王朝に属していたシェークスピアの戯曲が、脚色されたリチャード三世の一生を後世に伝えてしまったともいえるでしょう。
最近、遺骨が発掘され、側弯症だったことは証明されたので、体の曲がった容姿だったことは間違いなさそうです。

どんよりとした気分で外に出たら、灰色の空と、台風接近で土砂降りの雨。
なお一層、鬱々とした気持ちになって劇場を後にしました。