ダンサー  セルゲイ・ポルーニン | akaneの鑑賞記録

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予告で見てからとても楽しみにしていた映画です。
ドキュメンタリーとしても良くできていました。
孤高の天才、天才ならではの孤独がひしひしと伝わってきました。
ロシア生まれ、というところもキーポイントですね。
もし彼がアメリカや西欧の生まれだったら、ここまでのドラマはできなかったかもしれません。

インタビューでも話していましたが、
「バレエダンサーは子供のころから長時間のレッスンが必要で、バレエ団に入ってからも狭い社会で外の世界のことを何も知らずに成長してしまう。10代のころに『社会学』のような勉強をしたかった」と。
これはどの世界でも同じではないでしょうか。
クラシック音楽家、アスリートなども、幼少期からずっと厳しい練習を強いられます。
もちろんある程度、親からの強制も必要ですし、かかる費用も天井知らず。
そんな環境で20代まで育ってしまうと、社会に放り出されたときのストレスや挫折感ははかり知れないでしょう。
ミルピエの映画を見た時も思いましたが、パリやロンドンのバレエ団でさえ、ダンサーの人権や心身のメンテナンスに関しては旧態依然としているようで驚きました。
ポルーニンほどの人気プリンシパルになれば、次々に公演が決まって体を休める間もなく、なおかつ将来へのアプローチや長期展望での仕事の組み立て方などをアドヴァイスしてくれる人もいません。
そうして消耗されてしまったダンサーも数多く存在するのでしょう。
彼ほどの才能があれば、別にバレエ団にこだわらずソロで活躍すればいいのに、と見ている方は思うのですが、彼にはそういう選択肢すら思い浮かばなかったのでしょうね。
ロイヤルバレエ団を辞めてまた一からロシアでやり直すのも、ちょっとイロモノ的な勝ち抜き番組だったりして、哀れな感じがしました。

彼の踊りはまさに「美しい野獣」そのもの。
幼少のころからあらゆる動きが超越していて、力強く、美しく、感情がほとばしり、一瞬にして見る者を魅了してしまいます。
他のバレエダンサーは霞んでしまって舞台としてはアンサンブルのバランスが悪いのでは?とも思えるほど。

しかしついに

 

バレエ団への不信感。
酷使される心身。
家族のために頑張ってきたのに、両親の離婚でバラバラになってしまった家族。

ポルーニンにはもう、踊る目的が見いだせなくなりました。



もう踊らない


そう決心して、最後に撮影した”Take Me to Church”のPV。
これが youtube にアップされ、世界中で注目を集め、活動を続けるきっかけになったというのも現代らしいストーリです。

そしてこのドキュメンタリー映画を撮影することによって、彼自身も自分を深く見つめなおし、家族との絆を再構築できたことは非常にプラスになったと思います。


ロイヤルバレエ団の先輩である、熊川哲也氏についても、インタビューでリスペクトしている様が伝わってきて、日本人としては嬉しくなりました。
華々しい現役生活を終えた後は、Kバレエカンパニーを立ち上げて後進を育てるだけでなく、あらゆる面でバレエ団のクオリティを、ダンサーの地位高め、業界を牽引し続ける熊川さんは本当に素晴らしいです。
そして全盛期の熊川さんの踊り、凄いですよね。
あんなに高く綺麗に飛べる人もいないし、ものすごく楷書の踊りっていうか(時代もあるだろうけど)あんなに人間ピタッと止まれますか?って思っちゃいます。
それに比べるとポルーニンはもっと自由で、怒りや苦しみが突き刺さってくるような感じ。
映画出演もいくつか決まっているようで、これからは幅広いジャンルで、彼を見ることができるでしょう。
後進の育成やダンサーをサポートするシステムなどにも尽力していくようです。
ただ、今度は資本主義の餌食にならないようにしないとね。