錦秋名古屋 顔見世 | akaneの鑑賞記録

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歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書






仁左衛門さん松王丸、染五郎さん源蔵の寺子屋!
これは名古屋だろうとなんだろうと見に行かねばなりません!
ってことで夜の部だけ弾丸日帰りでしたけど大満足。
今までみた寺子屋の中でもNo.1でした。本当に行って良かった。

隅々まで仁左衛門さんの目が行き届いた完璧な舞台。
義太夫の語りと、役者の動きやセリフがぴったり合っていて、文楽のようでもあり音楽劇のようでもあり、全てのタイミングがピシッと気持ちよく決まって流れも美しく、あ~これが歌舞伎のリズムなんだと初めて納得しました。
しかも、ただ型がきちんと決まっているのではなく情感もたっぷりで、「いろは送り」のシーンでは、仁左衛門さんも染五郎さんも泣いていたような…。。
染五郎さんのセリフ回しもなんとなく仁左衛門さんに似ているように聞こえました。

松王丸はどうやっても立派なお役になるのですが、それを受ける源蔵は難しいと思います。
映像でみた三津五郎さんの源蔵が好きだったのですが、どちらかというと大人の渋みや、忠義を貫くことの厳しさがにじみ出ていた感じ。
今回の染五郎さん源蔵は、ものすごく殺気があったのです。
松王丸の首実検の時など、セリフを言い放った時に首まで赤く染まるほどの気迫で、着物の裾を握りしめ、いつでも動けるように立膝を立ててキッと睨み付けるその姿には「何かあったら絶対に松王丸を切る!(もちろん自分もそこで死ぬ)」という殺気に満ち満ちていて、そんな源蔵は初めてみました。
仁左衛門さんに対峙する必死感も出ていたのかもしれませんが。

松王丸がわざとらしく戸浪に「文机が一つ多い」と話を振って、戸浪が「それは今日新しく入った寺子で…」とかホントのことを言いそうになったときに、「バ…バカヤロウ!そうじゃないだろ!ゲホゲホゲホ!」(注:こんなセリフではありません)とすごい勢いで否定して、千代がビビりまくって「あーーーえーーー、そ、それは菅秀才の…」とやりとりするところもメチャクチャ緊迫感ありました。

ともかくこんなにドキドキしたのは「寺子屋」は初めて。
だからこそ、松王丸が首を認めて帰った後、戸浪と二人で足腰がたたないほどへたりこむ様子が本当にリアルで、こちらもやっと息がつけるようになりました。
梅枝さんとの夫婦は、昨年の「筆法伝授」の時からですし、すごく相性がいいです。
最初からとても情愛がこもっていて、色々共に苦労してきた夫婦なんだな~と感じさせます。

やっとホッとして、でも大変なことをしてしまった…と落ち込んでいたら、こんどは母親がやってくる。
源蔵はまた「こいつも切らねばならない!」と戦闘モード。
千代も状況はわかっていますから、二人の探り合いがまたまた凍りつくような空気感です。

そして「いろは送り」の場面は、もう泣きましたねー。
父親として、兄としての本音を絞り出す松王丸。
深い悲しみに身もだえしながらも、決して出過ぎない千代。
その2人の哀しみをじっと受け止める源蔵。
甲斐甲斐しく振る舞う戸浪。

「笑いましたか…」って松王丸が言ったところで号泣です。
約1時間半、瞬きも忘れるほど見入ってしまい心を揺さぶられる寺子屋でした。
先月の「吉野川」と並んで、今年の2トップ!

仁左衛門さんのお芝居って、人物の造形とか気持ちの移り変わりとか、そういうものがとても丁寧に表現されているのでストーリーがとてもよくわかるし、気持ちがこちらにも乗り移ってくるように思います。
きちんと型やリズムにはまっていて、でも説明的ではなくドラマティック。
見てる方にこれだけ伝わってくるんだから、ご本人はどれだけのエネルギーを込めて演じていらっしゃるんでしょうね。。。

今年の團菊祭での寺子屋とは大違い。
あの時は4人の心の通い合いが全くなく、舞台は寒々としていて、途中で寝落ちしましたから。


時蔵さんの舞踊を挟んで、最後は世話物の品川心中。
さっきの源蔵&戸浪が今度はボロ長屋の夫婦ですが、こちらもなんかいい感じ。
故 勘三郎さんが「あ~ちゃん(染五郎さん)は、目が蕩けてるからいいんだよ」と言ってくださったそうですが、ここでの染五郎さんは、ダメダメなアホぼん全開。
文七元結のお兼さんみたいに、気は良いんだけどガミガミ怒ってばかりのおかみさん。
お客がつかなくなってお金ないし、心中でもしちゃおっかな~と思いつく遊女が新吾君。
これがすっごくハマってた!
福助さんみたいな「いかにも毒婦」じゃなくって、すっかり現代っ子でドライなかる~い女郎(笑)
世話焼きする大工の棟梁・亀鶴さんが、優しくて貫録あってちょっと三津五郎さんみたいに見えました。
お座敷の場面で「しゃちほこ」をする芸者さんがいたんですが、すっごい美人さんで「これは本物の女性??名古屋の芸者さんかしら?」って思って、ものすごく気になっているんだけど誰だかわからな~い。
本当に他愛もない、めでたしめでたしで終わる軽いお話だけど、チームワークもよくまとまりがあって
心も軽く笑って打ち出しで気持ちよく帰京しました。

ひつまぶしもきしめんも食べたし、満足満足。