四月大歌舞伎 夜の部 | akaneの鑑賞記録

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え~、お蕎麦で腹ごしらえをして、夜の部です。

「杉坂墓所 毛谷村」
これはもう、今回の仁左衛門さんバージョンで完成形と言えるのではないでしょうか。
通しで全段観てみたいなと思いました。
村の孝行息子、六助。
田舎者だけど剣術は強いよ。
気は優しくて力持ち、みたいな。
こういうの、ゴキゲンな役っていうのかなぁ。
仁左衛門さんの明るくて良く通る声、絶妙なセリフ回しを聞いていると
本当にゴキゲンになっちゃいます。
この声音が「河内屋与兵衛」に欲しかったんですよー。

いきなり押しかけきた老婆が「母になってやろう」なんて言い出して
小判の包みを投げ合っちゃたり。
虚無僧に化けたお園が実は許嫁で、
「夕飯の支度しちゃお~っと」と急にマメマメしく働き出して
「やだーー火吹き筒と尺八間違っちゃった!」とか
うざキャラきりちゃんもびっくりな展開ですが
孝太郎さんはほんとに可愛いし、押されまくって困ってる六助仁左衛門さんもラブリー。
でも時々キリッとするんですよ。
「母親孝行のために、士官の機会を譲って下さい」とやってきた
微塵弾正が実は師匠の敵と知って、仇討に出発するところで幕。
弾正役の歌六さんも仁左衛門さんも、舞台上でナマ着替えあり。
よくあんなにささっと、裃つけて袴履いて、ってできますよね。


「幻想神空海」
楽しみにしていた新作。原作は読んでいません。
色々評判は漏れ聞こえていて少々心配でしたが
私的にはすごく面白かった!全然わかりやすかったよ!
実は今週めちゃくちゃ忙しくて毎晩深夜帰り。
不知火や毛谷村でさえ、うっすら寝落ちしていたのですが
歌舞伎座滞在8時間を経ての最終演目
2時間強、全く眠気に襲われることもなく目をランランと輝かせて観ました。
テイストとしては、アクションとギャグのない新感線というか(もはや新感線ではないな)
ややゆったりした準急ぐらいのテンポ感です。
歌舞伎座よりは新橋演舞場ですね。
夢枕獏さん原作ですから、ストーリー展開や2人が事件を解決していく流れは陰陽師ですけど
花形メインだった陰陽師より、ベテランをうまく生かした阿弖流為の感じもあります。
不知火とは対照的に、盆やセリ、吊り物を最大限に使ったスムーズな転換がとっても楽しい。
衣装や照明も綺麗です。
ワンピースでも使ってましたけど、盆と大セリを同時に使うと、流れるようにセットが登場したり
人が捌けて行ったりしてテンションあがりますよね!
「幻想神空海」ってタイトルにつられちゃうと、空海活躍してなくね?ってなるけど
空海と橘逸勢は、ホームズとワトソンみたいなバディなの。
2人でわちゃわちゃしてるうちに、なんか首突っ込んだり足突っ込んだりしちゃってるの。
別に妖術とか使って事件解決!ではないの。
何事にもとらわれず、どんどん妄想を広げて
一人で進んで行っちゃう空海はまさに染五郎さんだし、
「えー、やめてくださいよー」っていじられキャラの松也君は、
空海に振り回される橘逸勢にピッタリ。
普段でもこんな感じの2人なんだろうな~ってほのぼのします。

2人が長安にやってきて、どうやって密教の総本山である青龍寺に攻めていくか、
と話している時、市場で丹翁と名乗る不思議な老人に出会います。
これが物語の発端。
そしてなんといってもこのお芝居のMVPは歌六さん!
ほとんどは高い声で人の良いおじいちゃんなんだけど
ここぞという時には、超クールなバリトンボイスで決めてくれます。
又五郎さん演じる白龍と、歌六さん演じる丹翁と、
雀右衛門さん演じる楊貴妃の三角関係が物語の主軸。
楊貴妃は、妻を玄宗皇帝に殺された方士「黄鶴」が復讐のため、
傾城となるように送り込んだ娘です。
帝の寵愛をうけた楊貴妃ですが、反乱がおこり楊貴妃を殺すように迫られました。。
皇帝は黄鶴に依頼して楊貴妃に術をかけて一旦仮死状態にして、
反乱が落ち着いたら掘り出してまた仲良く暮らそうと思っていたのですが(おいおい)、
掘り出す前に楊貴妃が目覚めて発狂してしまったのです。
気のふれた楊貴妃を連れて、白龍と丹翁の3人は逃げるのですが、
男性2人は共に楊貴妃に思いを寄せていて
殺し合いをしないともはや収まらない…となったとき、
丹翁は身を引き姿を隠してしまうのです。
そして50年が過ぎ、狂った楊貴妃とずっと過ごしていた白龍ですが、
もはや寿命も尽きるし最後の決着をしたいと、丹翁を呼び出すために、
様々な術を使って都に不穏な出来事を起こすのでした。

その一人が、猫に憑りつかれた春琴。
黒猫のぬいぐるみを頭にかぶった児太郎さん。
春琴の時の女声と、猫の霊の時の男声、すごくうまく使い分けて、
クールでセクシーな美女を演じていました。
猫の目がイミテーションジュエリーでキラッキラ。赤い口を開けています。
猫と目が合うと術に取り込まれてしまうから気を付けないとね!
自宅に訪ねてきた空海と逸勢をたらし込もうとする場面、とってもスリリング。
楊貴妃の墓のところで、空海に封じられてそれ以降出番なかったのが残念。

妓楼のナンバーワン、玉連は米吉くん。
いつものはんなりたれ目メイクではなく、かなりアイメイクバッチリで超絶美人さん。
思わず舞台写真買ってしまいました。別人かと思うほどでしたよ。
あのいがぐり頭のボクがあんなクールビューティーに化けるなんて、すごいな。
ご本人のブログに画像上がってます。
出番少なかったけど梅丸君も綺麗でした。
種之助君も妹分で登場。美人というよりは…(笑)
ニューハーフのお店で、ちょっとお笑いの方担当の人、みたいな。
歌昇君が白楽天の役だったのですが、彼はちょっと無理があったかな。
背が低いのも原因かもしれませんが、どうしても子供っぽさが抜けなくて
米吉君と妓楼でイチャイチャしてても、マックでだべってる高校生みたいだった。

途中、50年前の顛末を劇中劇(義太夫)で演じます。
女狂言回しが芝のぶさんと京蔵さん。お二人ともキリッとしていて素敵。
芝のぶさん、美人なだけじゃなく謡いの声も良かった。

雀右衛門さんは、メイクの具合か鬘の具合か、先代にソックリ!
最後の最後まで全くしゃべらないんですけど、お美しかった。
この因縁の3人を呼び寄せるために、空海は宴席を開くのです。
琵琶や琴を鳴らし歌っていると、丹翁が現れ、魑魅魍魎を連れて白龍と楊貴妃も登場。
2人は過去の因縁や思いをぶつけ合うのですが、結構きわどいセリフがありまして。
楊貴妃を何度も抱いたが、いつもその時に呼ぶのは丹翁の名だった!とか
50年、一度も楊貴妃のことを思わなかった日はない!とか。
いやいや、又五郎&歌六兄弟になに言わしとんねん!きゃー!

死んだと思っていた楊貴妃の父、黄鶴も現れて⇒彌十郎さん、クレーンで登場!
実は白龍と楊貴妃は実の兄妹だと!あらー。
白龍は父に殺され、楊貴妃は父を刺す。
そして「娘を人殺しにはせぬ」といって黄鶴は自害して果てる。
楊貴妃も、最近の10年は正気に戻っていたとかいうし、白龍さん気の毒すぎ。
丹翁は楊貴妃を連れて「残りの人生を静かに過ごす」と言って去っていきます。


この一件を収めたこともあって、空海は青龍寺に迎え入れられ、
2年で密教のすべてを伝授されました。
帰国する段になって、久しぶりに丹翁と会いますが、楊貴妃は亡くなっていました。
憲宗皇帝の世になって、空海は皇帝に謁見し、宮殿の壁に書を所望されます。
空海は密教が日本の地に根を張りすくすくと伸びていくようにと大きく「樹」と書くのでした。

とまぁこんなお話し。
原作はとてつもなく長いようなので、よく2時間にまとまったというところでしょうか。
夜の部はなんといっても歌六さん!!
毛谷村では、一見孝行そうな男から憎々しい弾正、
空海では変幻自在な声色で様々な丹翁を見せてくれました。
染五郎さんはご自身でも良く話していますが、「俺が俺が」と前に出るタイプでもないし、
自分の芸を極めることだけに集中する感じでもなく、
やっぱりプロデューサータイプなんでしょうね。
自分の親世代である先輩もこれからの若手も、うまくまとめて引っ張っていけるのは
凄いことだと思います。
色々撒いている種のどれが大きく育つかわかりませんが、これからも楽しみです。
それにしても、今日まで歌舞伎座でGWにはラスベガスで新作。
6月も歌舞伎座でそのあとは巡業…すごいな。