「その出で立ちは、いかなる所存で?」
「これか?これが一番動きやすい。着る物などただの上辺だ、それで人の中身が分かるわけでもあるまい。と言うよりそんな見掛けに左右される輩がこの世には多すぎる」
なるほど道理だ。この男、いや、信長という男、やはりただのウツケではない。
「だからそなたも見た目は麗しくなくても、わしは全く気にしないから案ずるな!」
(ほう、それはそれは…)
と、私が喜ぶとでも思っているのか。前言撤回、この信長、やっぱりウツケだわ。言葉の意味を分かってぬかしておるのか。
「それはお優しいお言葉いたみいります。殿も見た目通りのお人柄のようで、そのお着物が大層お似合いですこと」
と、一応にこやかに笑って答えはしたものの、きっと眉間はヒクヒク青筋が立っていた事だろう。私の言葉に信長はニヤッと笑う。
「ほう、そうか、似合っておるか!ではそなたにも進物してやる。今日はそれを着てわしと外に出るぞ」
「え?」
いやいや、まさか私にその半裸のような着物を着ろと?私が目をひん剥いて信長を凝視していると、
「案ずるな、女子(おなご)の着物は一応胸は隠れる」
と、信長は嬉しそうに申した。
(おーなるほど)
ではない、全く想像できない。一体どんな格好になるのだ。とは思ったが、格好はともかくこちらに来たとき見た信長のように、従臣の供を連れずに外を出歩けるのか、と思うと心が躍ってしまった。でも信長のその言葉に驚いたのは私だけではなかった。
「若殿、何を仰せですか!お方様を連れ出すなどもっての外(ほか)!」
と、政秀が眉を吊り上げて信長の前に出た。
「駄目なのか?」
「良いわけがないでしょう。もう少し分別を持って下さりませぬと…」
「じいは何かとうるさいのう」
と、言うと信長はシラケたような顔をして部屋を出て行ってしまった。
(なんだ、外出は無しか…)
と、私が意気消沈した事は言うまでもないだろう。
「お方様、大変申し訳ありません。若殿には私めが…」
政秀は床に頭をつけて平伏(ひれふ)す。どうやら殿の様子に私が驚いて婿殿のウツケぶりにがっかりしているとか思っている様子。私が信長と一緒に外に出たいと思ったなんてまるで考えていないのだ。
「殿はきっと何かお考えがあるのじゃ。あのままで良いと私は思いますよ」
と、私が答えると政秀はそちらの方が驚いたようで、ポカンとした顔をしたがすぐに気を取り直すようにして頭を下げながら部屋から退去した。
平手政秀は殿の守役である。律儀で忠誠心が厚い。無骨ではあるが正直者で裏表がないと言った人物のようだ。でもその真っ直ぐすぎる気性は表に見える人柄が全てというところがあり、政秀には殿を持て余しているようなところがあった。妻を娶れば信長も少しは落ち着くとか思っていたのであろう。
当の私は、一瞬でも外を駆け回れるのかと思った思いが破れて自分でも想像以上に落胆していたのだが…。
「おい…」
※こちらのお話しは史実に沿ってはいますが、不明な部分、定かでないところは多分に作者の創作(フィクション)が含まれますので、ご留意の上ご拝読いただけますようお願いします。