「三橋貴明氏の最新作である「亡国の農協改革」の書評を通じて安倍政権が進める今そこにある食料安全保障に関する亡国の危機について論考します」
『積極財政による食料安全保障の強化こそ総ての解』
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『畢生の問題作にして生気の歌』
三橋貴明氏が自ら最大の問題作と公言する本著は、ある種の悲壮感を感じさせる。５０年後に日本は無くなっているかも知れないとの警告に始まり、最後は亡国の瞬間まで日本と添い遂げるとの覚悟を吐露して本書は終る。その意味で、決して読者を愉快にする著作ではない。しかし総ての国民が知るべき内容だ。
『アメリカの脱帽する長期戦略』
米国が第二次大戦後、余剰農産物に悩み、その市場として食糧難の日本にターゲットを定め、長期戦略で市場を開拓して行った様子を本書は余す事無く伝えている。有名な「コメを喰うとバカになる」から、パン食化がもたらす惣菜の変化が肉食化を推進し輸入飼料穀物の需要を増やすなどの経緯を解説している。
『陰謀論ではないコレは戦略だ』
恐ろしいのは、安倍政権が行った農協改革は、米国の商工会議所が2014年5月に行った答申の通りに実施されているという点だ。その後、安倍政権の規制改革会議は、全く同じ内容の意見書を政府に提出し、その内容に沿って2015年に改正農協法が成立したのである。この経緯は公開されており陰謀論ですら無い。
『農協の弱体化は地方消滅に直結』
本書では、協同組合の誕生から役割まで分かり易く解説し、利益を優先する株式会社に対し、利益を優先しない協同組合の重要性を教えてくれる。日本国内の過疎地域においては、農協が生活物資やサービスの提供を行っており、農協の解体は、地域の物理的な解体を意味し文字通りの地方消滅が起きる事を示す。
『農協が農業市場を健全化している』
また農協の連合体である全農は、実はグローバルに活躍する商社であり、利益を優先しない全農の存在は、ライバル企業には目障りな存在で、マーケット全体の健全化に役立っている事を示している。また巨大協同組合によるビジネスは世界各国で行われており、全農だけが特別な存在でない事を教えてくれる。
『農協解体で食料安全保障が危機に』
2015年に成立した改正農協法は、農協の株式会社化や、外資による買収、企業や外資による農地取得など可能にする内容であり、日本の食料安全保障が失われる可能性が高いことを示している。企業はあくまで利益を追求するのが目的であり、食の安全が失われ、儲からなければ安易に撤退する可能性が高いのだ。
『日本ほど農業を保護していない国は無い』
本書ではデータを示しながら日本ほど農業が保護されていない国は無い事を示している。世界に討って出ろ！は、農業改革論者の口癖だが、日本農業は、丸腰で戦場に駆り出される兵士のようなモノであり、日本の農業は地理的条件を考慮すると非常に不利な状況は否めない。先ずは農業への積極的な財政支援が必要だ。
『安倍晋三氏への逆襲』
本書で唯一、ユーモアを感じる一節は安倍晋三氏が、総理就任前に発表した「瑞穂の国の資本主義」に対する揶揄だ。美しい棚田を守る為に強欲で無い資本主義が目指すとの約束が反古にされた点を批判し、どんな事が有ってもカネを貯めて、ソーラーパネルを棚田に敷き詰めて安倍氏に嫌がらせをしてやる！との宣言だ。
『カネを貯めてやるべき事』
三橋氏はかつて参議院選挙に立候補した経験も持つ。ソーラーパネル云々は勿論冗談であるが、安倍総理の地元の棚田を総て買収するくらいのカネを貯めて是非とも、腐り切った自民党に代わる保守新党を設立して欲しいモノである。今の日本には食料安全保障を筆頭に、安全保障政策を真剣に考える政党が皆無なのだ。
『安全保障とは無駄の事』
ここ最近の三橋氏の主張は「安全保障が総ての解」という視点で一貫している。安全保障とは何かと問われれば「無駄」に尽きる。近年の自然災害の増加で世間の空気も変わって来た。大雨が降らなければ堤防など「無駄」の極みだが危機が発生すれば命綱となる。どれだけ社会が「無駄」を許容出来るかが鍵だろう。
『積極財政こそが総ての解』
無駄を支える重要な要素が財政であるが、日本は財政破綻しない事を繰り返し主張して来たのも三橋氏である。安全保障と積極財政は密接に繋がっている。無駄を増やして安全保障を強化する最も重要な要素が農業であり地方だ。しかし、その点で無駄を一切許容しない安倍政権の農協改革は、正に亡国政策の極みなのだ。
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