前回で私は『ドイツ帝国が世界を破滅させる』という本の中でトッドの描くドイツ外交について被害妄想が強すぎるのではないかと書きました。

ただ、トッドに対しても同情すべき点はあることは確かで、それはドイツが現在欧州で繰り広げている経済の緊縮政策についてです。

この点ではかねてからアメリカのポール・クルーグマン教授も指摘していることで、私もトッドと同じようにドイツの頑固さには苦々しい気持ちを持っています。

しかし、あえていいますが、他のヨーロッパ諸国のために欧州の共通通貨であるユーロをぶち壊すような「革命」的なことはフランスにしかできないことなのです。

今回はフランス外交の長所と欠点について書いてみます。

フランスは一方において確実に「欧州の盟主」という意識を持っています。

これはフランスの歴史からもたらされるもので、例えばヨーロッパ中で宗教戦争が行われている時にフランスはいち早く宗教の党派性を超越する「国家」という概念を発明しています。

またフランス革命においてはいち早く「ナショナリズム」や「国民皆兵」の思想を生み出したりもしたのです。

このようにフランスはヨーロッパ大陸で最も先進的であったという自負を持っているわけです。

ところが、ドイツがビスマルクにより統一された後にだんだんと明らかになってきたことなのですが、ヨーロッパの盟主である意識にフランスの国力がついていかないという現実でした。

その結果フランスは肝心なところで「無気力」状態におちいるのです。

この症状が明白に表れたのがマジノ・ラインです。

第一次世界大戦後フランスは、将来ドイツが復活した場合に備えてポーランドなどの東欧諸国と数々の条約を結びます。

ドイツがいずれ強くなり、また東欧諸国に対して拡張的な動きを見せるようになる前にそれを牽制するのが目的でした。

ところが、実際にヒトラーが政権を握り、ドイツがヴェルサイユ条約のくびきから逃れ始めるとフランスは独仏国境にマジノ・ラインという要塞を作って引きこもってしまうのです。

肝心な時に無気力になるというフランスの性癖は現在の欧州経済危機においてもいかんなく発揮されています。

オランド大統領が当選した当初は確かに財政拡大をうったえていたはずなのですが、いつの間にか「マジノ・ライン」症候群を発症しメルケル首相に対抗する気力を失っているみたいなのです。

そこでトッドはオランド大統領のことをドイツの副首相と嘲っています。

しかし結局はドイツの緊縮路線を修正するには、ヨーロッパ大陸ではフランスしかいないわけで、1日も早く他のヨーロッパ諸国のためにもユーロを破壊できるド・ゴールのようなフランスの政治家の登場を世界は待っているのです。


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フランスの歴史家であるエマニュエル・トッドが最近のインタビューなどをまとめた『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』を読みました。

共感できる部分もありましたが、疑問に思えるところもあり、今回はそこのところを書いてみたいと思います。

私が一番疑問に思ったのはトッドのドイツ外交に対する捉え方です。

「今、ヨーロッパはロシアとの戦争の瀬戸際にいるのであって、われわれはもはや礼儀正しく穏やかでいるだけの時間に恵まれていない」とウクライナ問題に端を発する西欧とロシアの緊張についての危機感を表明し、次のように言うのです。

「ロシアは自国が事実上ドイツとの戦争状態にあることを知っていると思う。」

このようにトッドはロシアとの緊張感を煽っているのはドイツだという認識があるのですが、これは本当でしょうか。

この問題を検証するために、一見何の関係もない安部総理の訪米について次のようなニュースが出ていたので読んでみてください。

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安倍首相は4月の訪米の際にオバマ大統領に対し、今年いっぱいプーチン大統領の訪日の構想を続ける構えで有ることを伝えていた。16日、共同通信が政府筋の情報として伝えた。
それによれば、オバマ大統領はウクライナ情勢でのロシアとの対立から日本に対し、ロシアへの圧力を維持するため、用心深く行動するよう呼びかけた。


共同通信は、ロシアに対する関心のずれが日米に現れたとの見方を示している。

共同通信によれば、オバマ大統領との会談で安倍首相はロシアとの対話の重要性を強調し、プーチン大統領の訪日が今年実現することへの期待を表しており、ロシア大統領の訪問の重要性については袋小路にある領土問題交渉を進展させるためと指摘している。

共同通信は、先に行なわれたメルケル独首相、およびケリー米国務長官のロシア訪問を日本側は「緊張がほぐれた兆し」と受け止めていると指摘。

モスクワでは5月18日、経済問題担当次官級の露日交渉が行なわれる。安倍内閣は、プーチン大統領の訪日の前提条件として岸田外相のロシア訪問 の実現に向けて動き始めている。

http://jp.sputniknews.com/japan/20150517/344507.html
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このニュースはアメリカのケリー国務長官がロシアとの対話を再開したことで日本の官邸筋がリークしたものだと思われますが、ここからわかることは次のことです。

・安部総理はロシアのプーチン大統領と対話を続けたいことをオバマ大統領に伝えた。

・オバマ大統領はそのことについて否定しなかったが、慎重さを安部首相に求めた。

ここからはこれより一年前の2014年6月にブリュッセルで開かれたG7サミットの様子を歳川隆雄さんが書かれた記事から見てみます。(http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20140610/plt1406101140002-n1.htm)

プーチン大統領がクリミア半島をロシアに編入したことを、アメリカのオバマ大統領やイギリスのキャメロン首相が非難したのですが、これに異論を唱えたのが安部総理だったそうです。

安部総理はロシアを非難しすぎると中国に接近する危険性があると主張したのでした。

この安部総理の主張は日本がロシアを擁護するかたちになって孤立する危険性があったのですが、ここで思わぬ援軍が登場するのです。

それがドイツのメルケル首相で歳川さんによればメルケル首相は「ミスター・アベの指摘された通りです。われわれにはアジアの視点が欠落していました。と同時に、この場でロシアと中国の急接近は好ましくないということを確認すべきだ」と語ったというのです。

このようにメルケル首相は安部総理を支持したことにはなったのですが、本当はこれは随分奇妙なことなのです。

なぜなら、安部総理は中国と対抗するためにロシアを引き入れようと考えていたわけですが、メルケル首相は就任してから毎年中国には行っていましたが、この時点で6年もの間日本に来たことは無く、どちらかといえばドイツと中国は経済的にズブズブの関係でした。

そんなメルケル首相が安部総理の中国「封じ込め」に賛成したことは、安部総理の論法がロシアを孤立化から救える機会を与えてくれると瞬間に判断したのでしょう。

このブリュッセルの会議でメルケル首相は日本の安部総理がロシアのプーチン大統領に対して融和的であることを知ることになりました。

それがメルケル首相の2015年3月の訪日につながるのです。

メルケル首相が来日した時のニュースです。

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日本を訪問中のドイツのメルケル首相は9日、東京都内で講演し、ウクライナ情勢について、「ロシアに対する経済制裁を維持するとともに、外交努力も模索するとの考えを明らかにした」。共同通信が伝えた。

またメルケル首相は、日本やブラジルなどと協力して、国連安全保障理事会の改革に尽力するほか、国際テロ対策で日本と連携するとの考えを表した。

メルケル首相は講演の中で、日本人2人が過激派組織「イスラム国」に殺害された事件や、1月にフランスのパリで発生したテロ事件についても触れた。

9日午後、メルケル首相と日本の安倍首相との首脳会談が実施される。会談では、G7の枠内におけるパートナーシップ、ウクライナ情勢、対テロ対策、国連安保理改革、東アジアと中東の地域問題に関する協力などについて話し合われるほか、G7の枠内における、ウクライナ情勢に関連したロシアに関する両国の協力の方向性についても協議される見込み。

日本の評論家たちによると、G7のメンバーとして残ると同時に、ロシアとの激しい対立を避ける必要があるため、ドイツと日本の立場は近いという。ドイツは、エネルギー依存と呼ばれる緊密な経済関係でロシアと結ばれており、日本は平和条約締結と領土問題を解決するために、ロシアとの関係悪化を望んではいない。
なお、メルケル氏の来日は7年ぶり。
リア・ノーヴォスチより2015/3/9
http://jp.sputniknews.com/japanese.ruvr.ru/news/2015_03_09/283252766/
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メルケル首相の訪日について、自分のことにしか関心がない韓国や『朝日新聞』は安部首相の歴史認識を批判しに来たみたいなことを書いていましたが、そんなことはなくやはりロシアの問題が主題だと私は思っています。

そして今回の安部総理の訪米です。

ここで注目すべきなのは、安部総理のロシアに対する対話路線は全然ぶれておらず、それを感じたメルケルがこれまでの対中一辺倒の外交を修正するかたちで日本にやってきたのでした。

そして現在、アメリカの外交を動かすところまで来ています。

だからトッドがメルケルがロシアとの戦争を始めることを危惧するのは、あまりに「被害妄想」が強すぎるのではないかと私は思っています。

トッドの本の終わりの方で編集部の方がメルケル首相の訪日について「ロシアへの接近を図りたい安部政権への牽制という見方もある」とトッドの被害妄想的な考えに影響されて書いていますが、私の見方とは正反対です。

もし、メルケル首相の目的がロシアに接近することを牽制するのが目的なら、何も日本に来る必要はなく、これまでの中国重視の外交を続けていればよかったのです。

では最後にトッドが危惧するロシアと西欧の緊張を一段と高めたのは、後先も考えずにすぐに経済制裁を発動してしまうアメリカのオバマ大統領だと私は思っています。

以前にも書きましたが、イランの核問題でトルコとブラジルが交渉したテヘラン宣言はそれなりに内容のある立派なものでしたが、オバマ大統領はそれを全く無視してイランにさらなる経済制裁をかけました。

しかし結果は思わしくなく、この前ようやく暫定的な合意ができたばかりです。

ウクライナの問題でもオバマ大統領はこれもまた条件反射的に経済制裁をロシアにかけたわけですが、これもオバマ大統領が望む結果が出るとは思えず、これからが大変なのです。

今回北朝鮮で粛清された玄永哲という人物がどのような立場の人物であったのか。韓国の『中央日報』の日本版に次のように書いていました。
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玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長は北朝鮮の対ロシア窓口だった。このため、張成沢(チャン・ソンテク)の粛清が朝中関係に良くない影響を及ぼしたように、玄永哲の粛清で朝露関係に赤信号がついたという分析が相次いでいる。

米下院外交委員会専門委員を務めたデニス・ハルピン・ジョンズ・ホプキンス大韓米研究所研究員は14日(現地時間)、自由アジア放送(RFA)のインタビューで、「金正恩(キム・ジョンウン)はロシア戦勝節を迎えてモスクワ訪問を約束した後、その約束を破り、ロシア訪問から帰国した軍部のナンバー2をすぐに銃殺した」とし「ロシアの目に金正恩はおかしな人物として映るだろう」と述べた。また「金正恩が張成沢を処刑した後、朝中関係が疎遠になったように、玄永哲を処刑したことで朝露関係が歪む可能性もある」と予想した。

http://japanese.joins.com/article/400/200400.html?servcode=500&sectcode=500&cloc=jp%7Cmain%7Cinside_right
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つまり金正恩は、中国との窓口であった張成沢とロシアの窓口である玄永哲両方とも粛清してしまったわけです。

実はこのような粛清は、彼の祖父である金日成もやっていました。金日成は外国にそそのかされた者が自分を排除することを怖れてソ連派や中国派の人々を粛清したわけですが、問題はここからです。

外国に連なると考える人物を粛清した金日成は、ソビエトと中国を天秤にかける「二股外交」を展開します。ドン・オーバードーファーの『2つのコリア』には次のように書かれています。

「61年7月彼(金日成)はモスクワに行き、フルシチョフに『友好協力相互援助条約』を結ぼうと説く。そして分断の朝鮮半島でまた戦争が起きたら助けにきてほしいと懇願した。フルシチョフは金日成を反中国の仲間に引っ張ろうと狙っていた。合意が出来ると、金日成は中国に向かい中国指導者にモスクワと結んだ条約を示し、これに対応する条約を持ちかける。中国指導者らは応じ、朝ソ条約と同様の条約に署名した」

これと同じやり方で金日成はソ連と中国から多額の援助をも勝ち取るのです。

金日成のこの外交がうまくいった背景には「中ソ対立」という中国とソ連の激しい対立が存在しました。

この環境のお陰で金日成は自分に有利な条約や援助を勝ちとったのです。

ところが現在の状況においては「中ソ対立」は存在しません。もしかしたら中ソ蜜月の可能性すらあるのです。

中ソを天秤にかけることなどほとんど不可能です。

というわけで、金正恩は祖父の金日成を真似て周りの人々を粛清したのはいいのですが、金日成の時のような「中ソ対立」は存在しないため、さらなる孤立を招きそうな状況です。