フランスの歴史家であるエマニュエル・トッドが最近のインタビューなどをまとめた『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』を読みました。

共感できる部分もありましたが、疑問に思えるところもあり、今回はそこのところを書いてみたいと思います。

私が一番疑問に思ったのはトッドのドイツ外交に対する捉え方です。

「今、ヨーロッパはロシアとの戦争の瀬戸際にいるのであって、われわれはもはや礼儀正しく穏やかでいるだけの時間に恵まれていない」とウクライナ問題に端を発する西欧とロシアの緊張についての危機感を表明し、次のように言うのです。

「ロシアは自国が事実上ドイツとの戦争状態にあることを知っていると思う。」

このようにトッドはロシアとの緊張感を煽っているのはドイツだという認識があるのですが、これは本当でしょうか。

この問題を検証するために、一見何の関係もない安部総理の訪米について次のようなニュースが出ていたので読んでみてください。

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安倍首相は4月の訪米の際にオバマ大統領に対し、今年いっぱいプーチン大統領の訪日の構想を続ける構えで有ることを伝えていた。16日、共同通信が政府筋の情報として伝えた。
それによれば、オバマ大統領はウクライナ情勢でのロシアとの対立から日本に対し、ロシアへの圧力を維持するため、用心深く行動するよう呼びかけた。


共同通信は、ロシアに対する関心のずれが日米に現れたとの見方を示している。

共同通信によれば、オバマ大統領との会談で安倍首相はロシアとの対話の重要性を強調し、プーチン大統領の訪日が今年実現することへの期待を表しており、ロシア大統領の訪問の重要性については袋小路にある領土問題交渉を進展させるためと指摘している。

共同通信は、先に行なわれたメルケル独首相、およびケリー米国務長官のロシア訪問を日本側は「緊張がほぐれた兆し」と受け止めていると指摘。

モスクワでは5月18日、経済問題担当次官級の露日交渉が行なわれる。安倍内閣は、プーチン大統領の訪日の前提条件として岸田外相のロシア訪問 の実現に向けて動き始めている。

http://jp.sputniknews.com/japan/20150517/344507.html
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このニュースはアメリカのケリー国務長官がロシアとの対話を再開したことで日本の官邸筋がリークしたものだと思われますが、ここからわかることは次のことです。

・安部総理はロシアのプーチン大統領と対話を続けたいことをオバマ大統領に伝えた。

・オバマ大統領はそのことについて否定しなかったが、慎重さを安部首相に求めた。

ここからはこれより一年前の2014年6月にブリュッセルで開かれたG7サミットの様子を歳川隆雄さんが書かれた記事から見てみます。(http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20140610/plt1406101140002-n1.htm)

プーチン大統領がクリミア半島をロシアに編入したことを、アメリカのオバマ大統領やイギリスのキャメロン首相が非難したのですが、これに異論を唱えたのが安部総理だったそうです。

安部総理はロシアを非難しすぎると中国に接近する危険性があると主張したのでした。

この安部総理の主張は日本がロシアを擁護するかたちになって孤立する危険性があったのですが、ここで思わぬ援軍が登場するのです。

それがドイツのメルケル首相で歳川さんによればメルケル首相は「ミスター・アベの指摘された通りです。われわれにはアジアの視点が欠落していました。と同時に、この場でロシアと中国の急接近は好ましくないということを確認すべきだ」と語ったというのです。

このようにメルケル首相は安部総理を支持したことにはなったのですが、本当はこれは随分奇妙なことなのです。

なぜなら、安部総理は中国と対抗するためにロシアを引き入れようと考えていたわけですが、メルケル首相は就任してから毎年中国には行っていましたが、この時点で6年もの間日本に来たことは無く、どちらかといえばドイツと中国は経済的にズブズブの関係でした。

そんなメルケル首相が安部総理の中国「封じ込め」に賛成したことは、安部総理の論法がロシアを孤立化から救える機会を与えてくれると瞬間に判断したのでしょう。

このブリュッセルの会議でメルケル首相は日本の安部総理がロシアのプーチン大統領に対して融和的であることを知ることになりました。

それがメルケル首相の2015年3月の訪日につながるのです。

メルケル首相が来日した時のニュースです。

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日本を訪問中のドイツのメルケル首相は9日、東京都内で講演し、ウクライナ情勢について、「ロシアに対する経済制裁を維持するとともに、外交努力も模索するとの考えを明らかにした」。共同通信が伝えた。

またメルケル首相は、日本やブラジルなどと協力して、国連安全保障理事会の改革に尽力するほか、国際テロ対策で日本と連携するとの考えを表した。

メルケル首相は講演の中で、日本人2人が過激派組織「イスラム国」に殺害された事件や、1月にフランスのパリで発生したテロ事件についても触れた。

9日午後、メルケル首相と日本の安倍首相との首脳会談が実施される。会談では、G7の枠内におけるパートナーシップ、ウクライナ情勢、対テロ対策、国連安保理改革、東アジアと中東の地域問題に関する協力などについて話し合われるほか、G7の枠内における、ウクライナ情勢に関連したロシアに関する両国の協力の方向性についても協議される見込み。

日本の評論家たちによると、G7のメンバーとして残ると同時に、ロシアとの激しい対立を避ける必要があるため、ドイツと日本の立場は近いという。ドイツは、エネルギー依存と呼ばれる緊密な経済関係でロシアと結ばれており、日本は平和条約締結と領土問題を解決するために、ロシアとの関係悪化を望んではいない。
なお、メルケル氏の来日は7年ぶり。
リア・ノーヴォスチより2015/3/9
http://jp.sputniknews.com/japanese.ruvr.ru/news/2015_03_09/283252766/
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メルケル首相の訪日について、自分のことにしか関心がない韓国や『朝日新聞』は安部首相の歴史認識を批判しに来たみたいなことを書いていましたが、そんなことはなくやはりロシアの問題が主題だと私は思っています。

そして今回の安部総理の訪米です。

ここで注目すべきなのは、安部総理のロシアに対する対話路線は全然ぶれておらず、それを感じたメルケルがこれまでの対中一辺倒の外交を修正するかたちで日本にやってきたのでした。

そして現在、アメリカの外交を動かすところまで来ています。

だからトッドがメルケルがロシアとの戦争を始めることを危惧するのは、あまりに「被害妄想」が強すぎるのではないかと私は思っています。

トッドの本の終わりの方で編集部の方がメルケル首相の訪日について「ロシアへの接近を図りたい安部政権への牽制という見方もある」とトッドの被害妄想的な考えに影響されて書いていますが、私の見方とは正反対です。

もし、メルケル首相の目的がロシアに接近することを牽制するのが目的なら、何も日本に来る必要はなく、これまでの中国重視の外交を続けていればよかったのです。

では最後にトッドが危惧するロシアと西欧の緊張を一段と高めたのは、後先も考えずにすぐに経済制裁を発動してしまうアメリカのオバマ大統領だと私は思っています。

以前にも書きましたが、イランの核問題でトルコとブラジルが交渉したテヘラン宣言はそれなりに内容のある立派なものでしたが、オバマ大統領はそれを全く無視してイランにさらなる経済制裁をかけました。

しかし結果は思わしくなく、この前ようやく暫定的な合意ができたばかりです。

ウクライナの問題でもオバマ大統領はこれもまた条件反射的に経済制裁をロシアにかけたわけですが、これもオバマ大統領が望む結果が出るとは思えず、これからが大変なのです。