前回のブログに書いたヒラリー・クリントンとネオコンの関係性についての詳しい記事が出ていたので貼り付けておきます。この記事。
ここで少しネオコンの歴史を振り返ってみます。このことによってトランプの世界観が決してそれまでの共和党の歴史とは無関係ではないことが確認できるからです。

ピーター・バイナートというアメリカの評論家が書いた本に『イカルス・シンドローム』というのがあります。この本の15章「父と息子」でいかに初代のネオコンたちの思想が息子たちに歪められてきたかをバイナートが綿密に分析しているので、そこから引用してみます。

アービング・クリストル(『ウィークリー・スタンダード』というネオコン系の雑誌の編集長であるビル・クリストルの父親)やレーガン大統領の時代にアメリカの国連代表を務めたこともあるジーン・カークパトリック女史という初代のネオコンたちは冷戦でソビエトが崩壊したことに「ほっとしてため息を吐き」、これからのアメリカは「通常の時代の普通の国に戻るのだ」と書いたそうです。

政策的には「NATOを解散させ、ほとんどのアメリカ兵をヨーロッパやアジアから撤退させ、国防費を削減し多極的世界に備えるべきだ」と主張していたのです。

バイナートはクリストルやカークパトリックは決して「孤立主義」ではなく、他の大国と共存していくことはソビエトのような革命的な国家でない限り、可能であると考えていたと書いています。

このような考え方が1990年代の前半のアメリカ共和党では大半の人に受け入れられたのですが、アービング・クリストルやカークパトリック女史の考え方は息子の世代によって歪められ、いつの間にか共和党の外交思想が「アメリカ帝国」を維持、拡大するというものに変質してしまったのです。

ここで日本や韓国との同盟の見直しを主張するトランプ候補の発言を初代ネオコンたちと比較してみればそんなに異常なことを言っているわけではないことが確認できるでしょう。逆に冷戦終了後、変節ネオコンの思想に染まっていった共和党の方がおかしかったのです。

私の尊敬する故片岡鉄哉氏が1995年に『退場するアメリカ』という本を出版していますが、カークパトリック女史の発言などを考慮すればそれほどおかしなことを言っているとは思えませんが、さすがに片岡先生も初代ネオコンの思想があれほど歪められることを予想できなかったのです。

しかしトランプの発言は『退場するアメリカ』そのものなのですが、それが実現するのはヒラリークリントン大統領の後になりそうです。
トランプ候補が共和党の代表に選ばれる可能性は高いと思われますが、ヒラリー・クリントンと戦って勝てる可能性があるかと問われればやはり多大な疑問符がつくと感じざるをえません。

ただヒラリー・クリントンが大統領になったとしてもアメリカの行動に安定性がもたらされるかといえば、そこには重大な不安要素が存在します。

米ソ冷戦が終わってからアメリカ外交の思想的基盤を担ってきたのがネオ・コンサーバティブ(通称ネオコン)の人たちだったのですが、今回のトランプ騒動で共和党を見限る発言を繰り返しています。

ロバート・ケーガンが『ワシントン・ポスト』で「トランプは共和党によって生をなし、育まれ、今では十分に強くなり共和党を破壊しようとするフランケンシュタインだ」と書き、「共和党は救うことはできないが、アメリカという国家は未だ救済可能だ」とヒラリーへの投票を呼びかけています。

トランプ候補の「孤立主義」的外交の側面を考えれば、このような動きはネオコンの世界観からすれば当然でしょうが、このネオコンの動きが一部のアメリカの識者に対して不安を抱かされていることも事実です。

民主党系の外交評論家レスリー・ゲルブがその辺の不安を率直に『ナショナル インタレスト』に語っています。

「ヒラリーはロバート・ケーガンを恐れるべきだ。なぜならケーガンは彼女の悪い本能をくすぐるからである。彼女の本能は物事をすぐに軍事力で解決したがり、そのことによってアメリカの力を鼓舞したがるからだ。ところがほとんどの問題は軍事力で解決できるようなものではないのだ。」

そもそもイラク戦争はネオコンたちが立案し、ヒラリー・クリントンのような「リベラル介入主義」者たちが賛成したから可能になったのです。ヒラリー大統領のもとにネオコンたちが結集したらまたあの二の舞が繰り返されることをゲルブは恐れているのです。

そうなればアメリカ国内の両極化はさらに悪化し、アメリカ国内も国外も不安定になることは避けられないでしょう。