日本やアメリカ以外にも歴史の80年周期説を適用できるのでないかと思ったので少し書いてみます。

 

2025年現在はちょうど第2次大戦後から80年が経過しました。この戦争で枢軸国側の日本やドイツおよびイタリアは敗戦し、アメリカ、イギリス、ソ連、中国、フランスなどが戦勝国側に名を連ねています。

 

第2次大戦が終わった1945年からさらに80年遡ると1865年でこの年はアメリカで南北戦争がちょうど終わった年でした。

 

日本でも1865年の2年後に大政奉還が行われ、250年以上続いた江戸時代が終わり翌年が明治元年になります。

 

実は1865年近辺はヨーロッパでも大きな政治的な出来事が起きています。まず南北戦争が始まった1861年にイタリアで統一国家が成立します。そして日本で大政奉還が行われた1867年にオーストリアとプロイセンが戦ってプロイセンが勝利し、北ドイツ連邦というものが誕生して、1970-71年にかけてのフランスとの戦争で統一ドイツが誕生するのです。

 

1945年に敗戦国側に回る、イタリア、日本、ドイツが1861年、1868年、1871年に近代的な中央集権国家に連続的に生まれかわったのでした。本当にこれが偶然の出来事だったのかに興味を惹かれます。

 

そしてアメリカも南北戦争で北部が勝利して分裂を免れ、徐々に中央集権国家になっていくのです。

 

この当時の先進国であった英仏はどのような関係にあったかと言えば1860年に結ばれたコブデン・ジュバリエ条約というのがあります。これは英仏の自由貿易協定で、英仏ともに産業革命を咀嚼し終えて世界に対して自由貿易を推進していく立場を取ったのです。渡辺そうき氏が主張する自由貿易帝国主義のはじまりで日本がこれに見事に引っかかってしまうのでした。

 

ニール・ハウのThe fourth turning is hereでもここらあたりの歴史を書いているので引用してみます。

 

「日本では1860年代に明治維新が目撃され、この新しい「登る太陽」の帝国は一つの周期が終わるまでに東アジアを圧倒しようとした。中国では1850年代と1860年代に洪秀全率いる太平天国の乱が目撃された。」

 

日本で明治維新が行われた時にちょうど中国でも清朝に対する反政府運動である洪秀全の太平天国の乱が収束に向かっており、日本とは違って清朝の政府側が勝利してしまうのです。

 

インドにおいても「1857年のセポイの反乱が鎮圧され翌年に正式な国家となりイギリス領インド帝国(British Raj)と呼ばれ89年間続く植民地体制が出来上がりました」。

 

つまり日本が明治維新から第2次大戦に敗戦するまでインドは正式にイギリスの植民地であり、第2次大戦後にインドはイギリスから独立を果たす一方、日本がアメリカに負けたために多数の米軍が日本に駐留するというように立場が逆転してしまったのです。

 

果たして第2次世界大戦の終結から80年経ち、日本もアメリカの属国という立場から卒業できるのでしょうか。

 

 

内田樹氏と山崎雅弘氏の対談本『動乱期を生きる』を読み終わりました。

 

私がリベラル派の本を読んだ理由ですが、彼らの日本の社会経済状態に対する批判に対しては以前から共感する部分も多々あるのですが、なぜかその原因について絶対に「財務省」を批判しないことが不思議だったので、それを確かめる意味でも読んでみました。

 

そして私の仮説を裏付けるように300ページ以上もある日本の社会経済を評論する本で驚くべきことに「財務省」という言葉が本当に一言も無かったのでした。

 

なぜ彼らリベラル派は日本の最も重要である政策官庁である財務省をそこまで無視する態度を取るのでしょうか。

 

一つの可能性としては財務省を思考の枠組みに入れてしまうと自分達のイデオロギーに差し障りが出てくるからではないか。

 

具体的に言えば「安倍首相独裁論」に邪魔になってくるからです。

 

山崎氏は「第2次安倍政権以降は、そんな先人の業績など自分には関係ない、彼らに敬意を払わなくても俺たちはやりたいことができるのだ、と言わんばかりの歪んだ全能感が、言動の端々から滲み出るようになりました」と語り、内田氏も「パワークラシーの社会では『現に権力的に振る舞っている』という事実そのものが『これからも権力者であり続けること』の正当性の根拠になる」と語っているのです。

 

ところが安倍総理は回顧録で消費税など上げたくはなかったのに財務省にあげるようにさせられて悔しかったと愚痴を垂れまくっていました。

 

安倍総理の回顧録から一部抜き出してみました。

 

「増税を延期するためにはどうすればいいか、悩んだのです。デフレをまだ脱却できていないのに、消費税を上げたら一気に景気が冷え込んでしまう。だから何とか増税を回避したかった。しかし、予算編成を担う財務省の力は強力です。彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。」

 

「だって、デフレ下における増税は、政策として間違っている。ことさら財務省を悪玉にするつもりはないけれど、彼らは、税収の増減を気にしているだけで、実体経済を考えていません。」

 

「『目先の政権維持しか興味がない政治家は愚かだ。やはり国の財政をあずかっている自分たちが、一番偉い』という考え方なのでしょうね。国が滅びても、財政規律が保たれてさえいれば、満足なんです。」

 

もしリベラル派が主張する安倍独裁論が正しければ、消費税増税などなかったでしょうし、empirical(経験的)にいって安倍独裁論は明らかに間違っています。

 

財務省を持ち出すとこのように安倍独裁論が主張できなくなるので、それが一つ目の理由ではないか。

 

もう一つの可能性としては、実は彼らは財務省が正しいと心の中では思っているのではないか。この対談本では最初から最後まで権威主義(Authoritarianism)に反対しており、それはそれで結構なことですが、日本で最も権威のある役所である財務省を取り上げないことによって財務省を現在の日本の状態から免責してしまっているのです。

 

「日本は実質GDP成長率ではG7の中で最下位です。賃金も2022年時点で比較可能な38カ国中25位。日本だけが『一人負け』であることが数値的に示されています。これは誰が何を言っても、過去20年の日本の経済政策が間違っていたということを意味しています」と内田氏は語っているので、私はいよいよ財務省に対する緊縮批判か、と期待していましたが次にこう続きます。

 

「でも自民党は相変わらず『アベノミクスは正しかった』といって自分達の誤りを認めようとしない。つまりこれからも円安を追求して、大企業を優遇して、賃金を下げて非正規労働者を増やして、消費税を上げ続ける・・・こんな政党にこれ以上政権を委ねていたら日本は滅びます」

 

財務省はなぜか存在しないのです。なぜそんなにまでして財務省に免責を与えるかいまだに理解不能である。どう考えても消費税を上げ続けよとしているのは財務省なのに。

この前に書いたブログでは日本の近代史はおよそ80年の周期で動いているのではないかと思って書いたのですが、実はオリジナルは別にあって、ニール・ハウというアメリカ人が書いたThe Fourth Turning Is Hereという本がそれでした。

 

この本でハウは、アメリカの歴史の1周期は「およそ80年から100年ぐらい(人間の一生の長さにあたる)の期間で、それは自然に4つの期間に分割できる」と書いており、それを具体的にアメリカ史に当てはめれば「真珠湾攻撃と(南北戦争の始まりである)サムター要塞の攻撃の間はちょうど80年で、サムター要塞とアメリカの独立宣言の間は85年が経過した」となります。

 

そして、第二次大戦でアメリカが勝利した年である1945年から今年はちょうど80年目にあたる2025年であり、そんな時にトランプ大統領の2期目が始まったのでした。

 

ハウはこの本の結論部分で「2030年代の初頭において千年紀の危機(millenium crises)が解決し新しい周期が始まる」と書いているので、どうもトランプ2.0ではアメリカの危機が複雑化していくことが確実で解決はもう少し先と予想しているようです。

 

アメリカがイギリスから独立してからおよそ80年後に奴隷制とそれがもたらす経済政策の違いからアメリカの分裂が激しくなり1861ー1865の南北戦争という激しい内戦になり、「当時南北あわせたアメリカの総人口、約三一〇〇万人のうち、三〇〇万人以上が兵士となり、六〇万人が戦死した。」

 

(小川寛大. 南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦 (Function). Kindle Edition. )

 

それから80年後の第二次大戦直前もアメリカでの分裂は激しく、トランプ大統領がよく口にする「アメリカ・ファースト」は大西洋をプロペラ機で最初に横断したチャールズ・リンドバーグがヨーロッパの戦争に参戦したいフランクリン・ルーズベルト政権に対して戦争に加担することに反対だった非介入主義者たちとアメリカ第一主義委員会を発足させ、その当時彼らがよく口にしていた言葉だったのです。

 

この団体には後にアメリカ大統領になるケネディーやジョンソンも加入するなど決して泡沫的な団体ではありませんでした。

 

この第二次大戦直前のアメリカの分裂を救ったのは日本の真珠湾攻撃であり、これによりアメリカは分裂を修復することができ国論を統一させることが可能になりました。

 

そして第二次大戦が終結してから80年後の現在においてもグローバリゼーションや経済のあり方をめぐって、アメリカにおいて激しい分裂が起きており、トランプ一期目から政権を取り戻したアメリカの民主党バイデン政権も結局はグローバリゼーションの矛盾に対して回答を持ち合わせることがなく、トランプ大統領の2期目が発足したのでした。

 

ただ今回のアメリカの分裂が南北戦争のように内戦に発展するのか、それとも第二次大戦のように激しい外国との戦いになるのかがわからないのは周期論の欠点ですが、アメリカの分裂をアウフヘーベン(止揚)させるような力が働くようになることは予想できます。

 

またハウによれば政治の問題だけではなくアメリカにおいては経済も周期的な動きをしていたようで次のような例を挙げています。

 

「アメリカにおいて貧富の格差が著しく拡大したのは、1760年代の後半(アメリカの独立宣言)、1850年代の後半(南北戦争直前)1920年後半(大恐慌から第二次大戦にかけて、そして2000年代のはじめ(ちょうど現在)」

 

歴史が「周期」的に動いているのではないかと考えている知識人は以外と多くて、この本にもイギリスのアーノルド・トインビーやアメリカの歴史家であるアーサー・シュレジンジャー親子、また『文明の衝突』を書いたサミュエル・ハンチントン、さらには保守派のバイブルである『大衆の反逆』を書いたスペインのオルテガや『西洋の没落』を書いたドイツのシュペングラーもそうだったと書いています。

 

やはりというべきか、進歩派とよばれる知識人がほとんどいないというのも特徴的です。

 

これまで述べてきたようにトランプ大統領2.0のアメリカとはこれまでアメリカがイギリスから独立してからおおよそ80数年の周期を3回繰り返す最終段階にあたり、激動の4年間になることだけは確かでしょう。