特養-続4・利用者Cさんの行き場のない想い | あなたに,も一度恋をする

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母の特養で知り会ったCさんの続きです。

連載になっていますので、

最初にさかのぼってからお読み頂ければ

内容が理解しやすいと思います。

 

過去記事

 

 

 

Cさんは常々、施設内で放置されてる事を

私に打ち明けてくれた。

こうした事を息子さんに伝えていたかはわからない。

ただ、それを聞いた息子さんが、

よほどの権幕で施設にクレームを入れない限り、

この施設は何の改善もしないだろうと

容易に想像してしまうのでした。

 

万が一の時にと、持って行ったSOSのベル。

 

 

Cさんに見せながら

「持ってきましたよ~。」と言うと、

Cさんは嬉しそうなお顔をされて、

手を合わせてお辞儀をされた。

 

そしてCさんの耳元に、こっそり小声で

「今からCさんのお部屋の前で鳴らしてみますからね。」

と言って、一番奥のCさんのお部屋のドア前で鳴らしてみた。

 

ベルは小さいながら、反対側の奥の廊下まで

充分響き渡る音。

周波数が高い音だから、良く通る。

 

ダイニングにいるCさんに

「どうでした?聞こえてましたか?」と聞くと、

「響いてた。よく通ってる。」

「なら大丈夫ですね。」

そうしてベルをCさんに手渡し、

耳元でこっそり

「万が一の時は、これで助けを呼んでくださいね。」

と言って、目くばせした。

 

Cさんは何度も

「本当に親切にしてくださって、

なんてお礼を言ったらいいか…。

ありがたい。

ほんとにありがたい。」と。

 

その時、夕食の配膳を片付けていた

背丈の低く年はまだ30位の小男の男性介護士が

ずっとコチラを凝視していた。

(まぁ、そりゃそうですよね。

ベルがカンカン鳴ってるわけですから。)

 

そしてこの後、私が施設を出た後、

この小男介護士はCさんからこのベルを回収した。

実はこの小男、理屈っぽく、

私には実に印象が悪い。

いつも年配の介護士を押しのけて、

自分が自分がとリーダーのごとく振舞って

説明しにくる。

 

小男介護士がCさんに言ったのは、

 

「この施設では家族の許可を得ないと、

人から物はもらえません。

施設としては容認できないので、

一旦預からせて頂き、息子さんの許可を得た後で

あなたにお渡しします。」だったそうだ。

 

これを次の面会時に小男介護士から

私も説明を受けたのですが、

「認知症の症状のない、Cさんでもですか?」

と聞き返すと、

「そうです。」との事だった。

「そうでしたか。その事を知らず、

お手間をおかけしました。」

とだけ、言っておいた。

謝る気はしなかった。

 

母のケアマネに、後日その事を伝えると

「そうなんよ。

施設には色々規則があってね、

家族が知らないところで、

物のプレゼントって、でけへんのよ。

どこから持ってきたん?

ぬすんできたん?

なんでこんなん持ってんの?

って事になるから。」

 

それは認知症であろうとなかろうとだそうです。

施設側の規則でもあるからと。

それを聞いて自分なりに納得しました。

そうね、そういう事なのね…と。

しかし!…です。

なんで大きな音の鳴るベルを

Cさんがもらって喜ばれてたか、

あなた方、施設側は解っているの?

と問いたい。

こんな物を施設に持ち込む人なんて

いないでしょう?

なんでこれをお渡ししたか、

解ってる人は、

いったいここに何人おんの?と。

 

その後、再び母に面会に施設に伺った際、

小男介護士から

「Cさんにお渡しした鈴の件ですが、

ご家族から了承を得たので、

Cさんにお返ししましたので。」

と報告を受けた。

 

「そうでしたか。それはよかったです。」

とだけ答えておいた。

 

その後、何度か昼間施設に行きましたが、

Cさんと会えない日が続きました。

母と同じくロングショートですから、

月に何日かは帰宅しなければならない事、

また、施設にいても、

ご自分のお部屋にいらしてる時は、

その個室のドアを叩いてまでは

訪問できない事、

そんな事もあって、いつもお目にかかれるとは

限らず、次にお会いしたのは

1か月後くらいだったと思います。

 

その間、Cさんは

夜にまた部屋の前の廊下で

待たされていないだろうか、、、

と心配すると同時に、

Cさんは同じ状況になった時、

果たしてベルを鳴らすだろうか…という疑問が

頭をよぎりました。

 

自分が下半身不随の重度の障害で

介護士には大きな負担を強いている事に

多大な遠慮があるCさん。

少しでも嫌われないように、

少しでも介護士から良くしてもらえるように

毎日、介護士の顔色を見て、

敬語でお礼を言い続けているCさん。

 

そのCさんが、ベルをカンカンと鳴らし、

自分の事を忘れている介護士を

果たして呼びつけれるのだろうか…。

自分の行為で介護士を怒らせるのではないかと

おじけづかないだろうか…。

 

そう考えると、

Cさんは、恐らく同じ状況になっても

ベルを鳴らす事なく、

いつ来てくれるかわからない介護士を

ドアの前の、あの冷たく暗い廊下で

待ち続けているのかもしれない。

 

それでも誰かが自分の置かれた環境を

知ってくれてるという事は、

ほんのわずかでも救いになる事もある。

私は自分が渡したベルをCさんがみる度に

「自分の事をわかってる人がいる」

と少しでも感じてもらえば、

それでよいのだと言い聞かせていました。

 

 

話にはまだ続きがあります。

それはまた次の記事で。

 

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今日も長い記事をお読み頂きまして、

ありがとうございました。

寒くなってきました。

コロナも蔓延しています。

私も先々週、罹患してしまいました。

どうぞ、充分予防の対策をなさってくださいませ。