特養-1.利用者Cさんの行き場のない想い | あなたに,も一度恋をする

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母が利用していた特養。

ロングショートで、介護点数めいっぱい使って

月に25日間をそこで過ごしていました。

永久入所ではないものの、

1か月の大半を過ごしていた母は

ほぼ永久入所のようなものです。

 

介護施設には色々ありますが、

特別養護老人ホームは24時間体制の介護や

看取りを提供する公的施設と言われていて

入浴や食事の提供、投薬の管理の他、

機能訓練を目的としているものの、

実際にはリハビリは無いに等しく、

形だけの体操の時間が30分あるくらい。

時々、利用者が暇を持て余さないように、

塗り絵や計算シート、

そんなものが手渡される位。

デイサービスのような大々的に組み込まれる

レクレーションなどは皆無です。

 

出来れば利用者に関わる介護士や看護師が

会話を通じてコミュニケーションをはかれば

情緒面でも安心が得られ、

施設で過ごす時間が

わずかでも快適になると思いますが、

介護士が利用者とじっくり向き合って

話をしているのを見た事がないどころか、

目を合わさないようにしている姿を

何度も目撃していました。

 

こういう特養は大抵、入居前の説明に

本人及び利用者家族に

「干渉は極力せずに、

自宅と同じように自由に過ごして頂いてます。」

と説明してたりします。

その結果、

介護士たち、『我、関知せず!』

が往々とまかり通り、

リビングに集まった利用者を

見守る人が一人もいないのが、

この施設の当たり前の光景でした。

 

自由に過ごせる…

一見良い印象を受けそうですが、

自主性にまかせられると、

引っ込み思案の方などは、

1日、誰ともおしゃべりも出来ず

ただ時間だけが過ぎて

3食の食事を待つだけの

切なく空虚な時間になってしまう事もあります。

レクレーションも

リハビリらしきものがないので、

特養のショートスティは

長く利用すると、ほぼほぼ筋肉が落ちます。

それが老健とは違う

決定的な違いかもしれません。

 

母が入ったショートスティの棟には

母を含め、

3名のロングショートの利用者がいました。

施設が選んだ特別枠の方達です。

 

お一人は以前、記事に書いた事もある、

超難聴の女性Aさん。

90歳で認知症。

母より3つ年上で、手押し車を引きながらの歩行。

 

そしてもう一人に女性Cさん。

母よりも6つも年上の93歳でいらして、

認知機能はまったく問題のない、

頭脳の冴えわたる女性でした。

もちろん難聴もありません。

 

Cさんの近親者の多くが医師で、

ひ孫さんも医大に入学できたらしく、

それが最近嬉しいニュースだったようで、

いつもそのお話をして下さってた。

医師の家系であった事が、

Cさんの自慢のようでした。

そのため少しインテリが香る方で、

お使いになる言葉も、どこか違う。

勝気さが垣間見えるなかで、でも品のある方。

ジョークも巧みで、

たくさん笑わせてくださった。

ただお一人で座っていらした時は、

いつも険しい表情をなさってた。

 

このCさんは下半身不随のマヒがあり、

恐らく要介護5であったと思います。

車椅子での腕を使っての自走は

かろうじて出来るものの、

ご年齢からしてその筋肉は弱く、

介護士に押してもらわなければ移動がキツイ。

そしてベッドへの移動や、トイレなどは、

介護士が抱きかかえないと出来ない。

 

このCさんは、母がここに来る何年も前から

ロングショートで

ここをお使いになっていらっしゃった。

 

この方と初めておしゃべりしたのは、

母の面会に夕食が終わる頃を見計らって

通っていた時でした。

別の方と私が楽しい話をしてたとき、

後ろのほうから

「あははははは~!楽しそうねぇ~。」

とCさんの笑いが聞こえていたのが始まりです。

「さっきから聞いてたら、

何だか、こっちまで楽しくなっちゃった。

あんまり笑う事なかったけど、

久しぶりよ!こんな楽しい気分になったのは!」

と言われたのです。

 

 

 

そこで初めて自己紹介をし、ご挨拶をして、

お名前を聞いて、少し話ができました。

その日をきっかけに、

施設に行った際、

リビングでお見掛けしては

お話する様になっていったのです。

 

ある時、Cさんが(こちらからは質問していないのに)

「私がここに来たのは、自分で志願して入ったの。」

と突然おっしゃった事がありました。

聞けば、

旦那様はもう何十年前にお亡くなりになっている。

お住まいのご自宅は大きなお屋敷で、

車椅子で移動するには不自由ない位広いらしいけれど、

同居している介護をする息子さんは70歳を超えていて、

そのお嫁さんは病弱でもある。

年老いた息子に、自宅で自分を抱きかかえて

世話をさせるには、息子にとってあまりに不憫。

そう思いたって、使える施設を紹介してもらったのが、

この特養だったそうです。

 

生活はすでに亡くなった旦那様の

遺族年金などを入れると

充分すぎるくらいあって、

お金にはまったく不自由していないと

おっしゃっていました。

 

その息子さんは、時折面会にいらしてた。

背の高い、いかにもドクターされてた風格があって、

素敵な初老の息子さんだなと思ったものです。

Cさんに接する態度も優しい物腰と口調で、

お母さまを心から愛している事が見ていてわかる。

そして母親のCさんを連れ出してロビーに移動したり、

館内のファミリーマートの喫茶コーナーで

お善哉を食べたりなさっていました。

 

時にはロビーで

一族総出の20名近くのご親戚に囲まれている

Cさんをお見かけする事もありました。

可愛いお孫さんやひ孫さんらしき若者から、

「おばあちゃん、おばあちゃん!」と

慕ってお話されているお姿。

その時のCさんの幸せそうな笑顔は、

特養のダイニングでは決して見ることのない

緊張感のとけた何とも柔らかい表情をなさってた。

 

そんなわけで、私がCさんと親しくなって、

母を挟んでお喋りに花を咲かせる時が増えてきた頃、

Cさんは私との会話の中に、とつぜんこんな事を会話に入れてくるのでした。

「ここは本当に親切な介護士さんばかりだから。」

という言葉や、

「ほんとに良くして頂いているの。私。」

「感謝してるんですよ。みなさんお優しいから。」

 

実はダイニングは、

非常に声が響き渡るようになっていて、

私とCさんの会話は、筒抜けなのです。

介護士がなんらかの炊事をしてたり、

すぐそばでパソコン入力してたりすると、

私達が何をしゃべっているのかは

一語一句、まるまる聞こえる構造です。

Cさんはこの事をよく解っている。

だから介護士さんの耳に聞こえるように、

わざと気を遣って、喋っているのです。

 

Cさんのこの不自然な言葉から、

私は逆に、Cさんのここでの生活は、

遠慮に満ちた毎日なんじゃないかと思わざるを得ませんでした。

皆に嫌われないようにと気を遣っているのが

嫌でも伝わってくる。

大げさくらいに、『介護士は良い人』を連発する。

ずっと見てきてる私には、

この特養で、感謝できるほど

温かく利用者に接していた介護士は僅か数人。

いつもその役割を担っていたのは、

生活指導員のWさんだけです。

でもCさんにとっては、

身体的介護の負担を大きくかけて居る事の多大な引け目が

あるのだろうと思いました。

そしてだからこそ嫌われないように、

こうして言葉のサービスで、

介護士さんをほめちぎる。

 

このCさんの言葉が聴こえているはずの

介護士達ですが、無表情のまま。

ふぅ~む・・・

こうして同じ空間を過ごすなかで

もし『人と人』という関係が出来ていたら、

私なら喋りかけるでしょうねぇ。

(私は楽しませるのが好きですし。)

 

「Cさ~~ん、聞いたわよ~~。

私達が良い人だってぇ~?

よくしてくれてるってぇ~。

嬉しいわぁ~。おせじじゃなくてぇ~?

ありがとぉ~!これからもお世話させてもらいますよぉ~!」なんてね。

 

でも、この特養では介護士と利用者は

「人と人」ではなく、

「人と物」でもあるかのように、

1人1人に感情移入する事はない。

決まった事をプランにのっとって動くだけ。

介護士が利用者の話を聴いたり、

悩みを聴いたり、会話をする事は

もちろんない。

指示されてることだけやったらいいだけ。

やる事やったら、はい終了!

 

こんなかんじじゃないでしょうか?

 

だからこそ、

この施設には介護士と利用者の笑いはなく、

いつも殺伐としている。

そして私が別の方と笑いながら

話していたの聞いて

ひさしぶりに楽しくなって、

思わず会話に入ってこられたのだと思うのです。

 

 

そして日を重ねるごとに

私はCさんとの会話が多くなり、

やがてCさんがこの施設でどういう扱いを受けて

どう屈辱に耐えてきたかを、知る事になっていきます。

 

ここからは長くなるので、次の記事で。

 

 

 

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今日も長い記事をお読み頂きまして、

ありがとうございました。

寒くなってきました。

コロナも蔓延しています。

私も先々週、罹患してしまいました。

どうぞ、充分予防の対策をなさってくださいませ。