剣竿一如 -6ページ目

倦怠

 昨日の外出で疲れたのか、風邪気味なのかわからないが、今日は朝から高音の蝉時雨のような耳鳴りと、緩~い頭痛が続いていて、ベッドから起き上がる気になれずにいた。朝食だけはなんとか食べたが、昼食は摂る気にもなれず、ヨーグルトを一個食べただけ。食後の歯を磨きで、洗面台の鏡を見てビックリ。またしてもアンパンマンの様に、顔が真ん丸にむくんでいる。イカンなぁ……。

 ともかく、今日は一日中寝て過ごす。無理をせにゃならん理由は何もないし、したくてもできゃしない。ベッドの上でウトウト、トロトロと眠っては、時折起き上がって、トイレに行ったり水を飲んだり……。そうこうしていると、午後3時半に家内がランチジャーで熱々のお餅入り、「チカラゴボウ天ぷらうどん」 を持ってきてくれた。昼食を摂る気にもなれなかったが、うどんつゆの香りにつられて、ズゾゾ~ッと一気に完食。

 いや~、さすが名古屋下町の名店 「Cうどん」 だわ。このうどんつゆ、どうやってもマネできない。何度も挑戦してみたが、作るよりもお店に行って一人前100円で買った方が早い(笑)。うどんも自家製麺を一玉100円でテイクアウトできる。おつゆとうどんを買うと、刻みネギがサービスで付いてくるから、200円でかけうどんが食える。トッピングの天ぷらは110円~200円。店内で食べるよりも安く上がるが、そりゃお店で食べた方が、打ちたて茹でたて作りたてが食えるワケだし、後片付けの手間もかからん。ま、場所代も加わるから、若干お値段が上がるのも仕方がない。つっても、かけうどん一杯360円(一月中は270円)と激安なんだけどね。

 うどんを食べ終えて、噴き出した汗を拭いていると、いくらか気分が良くなってきた。ここは一気に倦怠感を吹き飛ばしてしまうべく、お風呂に入ってしまおう。家内は 「お風呂なんか入って大丈夫?」 と首をかしげているが、汗もかいたし、一日中横になっていたので、お風呂でサッパリするのもよかろう。お湯に浸かるワケではなく、勢いよくシャワーを浴びて、石けんでガシゴシ身体を洗う。う~ん、気持ちいい。これでスッキリサッパリ、気分も治るかと思ったら……、耳鳴りとめまいがひどくなった。ダメじゃん!

 仕方なくベッドで横になっていると、いつの間にか眠ってしまった。N尾先生の回診で気がつけばもう、午後8時をとうに過ぎている。PCはネットにつないだまま、テレビも点けっぱなし……。今日の倦怠感は、白血球増加薬のノイトロジン注射のためかもしれないらしい。背骨や肩胛骨など、造血作用のある骨が痛んだり、倦怠感を感じたりするらしい。なるほど……。

 まぁ、病人なんだから病人らしく寝てりゃよし。ましてや入院患者なんだから、身体の具合が悪くて当然だわね。入院生活も長くなると病人、それも生き死にの懸かった重病人だって事を忘れてしまいますよ、ってお話でした。あぁ、ダルい……。

月一

 今日は月に一度の自宅作業日。外出許可を取って、自宅で作業&各種データの整理やら、FAXや郵便や宅配便でのやりとり、ついでに選挙の期日前投票も済ませてこよう。

 白血球や好中球が若干低めなんだが、M95マスクに抗菌スプレーでコーティングした上着着用、アルコールジェル持参で行ってきます。食事はもちろん、加熱調理された熱々のモノをゆっくりと摂ります。ま、外食するにしてもうどんとかラーメンとかの熱々ですな。基本は家内の手作りだけど。

 いや、実は自分の大好きなラーメン屋さんの、「台湾ラーメン」が食べたくて仕方がない。スープたっぷりのジャージャー麺って感じなんだが、これが美味いンだ。ちなみに、台湾ラーメンって名前だけど、台湾にはないラーメンです。「名古屋に住んでいる台湾人が生み出したラーメン」なんだよね。本家本元は今池って街にある”味仙”って中華料理店。何店かチェーン展開もしてるけど、どこのお店も美味しいです。一品一品もリーズナブルだし、台湾ラーメンはお取り寄せも可能。
【味仙】 http://www.misen.ne.jp/

 まぁ、こんだけ味仙を取り上げておいて、自分が行くのは別のお店だったりするンだけどね(笑)。どこへ行くンだって? そりゃナイショですよ。いっつも満員で、駐車場も3台分しかないお店なんだもの。晩ご飯は午後6時頃に、せいろ蒸しのカニ、蒸した常陸タコの酢の物、本物の赤だしの味噌吸い物、炊きたてのご飯の予定。

 そんなワケで、今日は久々にシャバの空気を吸い、シャバの飯を食ってきますよ、ってお話です。ジンマシンがまだ痒いけど……(笑)。

薬疹

 抗ガン剤の副作用で、白血球が基準値(4~9ユニット)なのに対して、1.1ユニット程度にまで下がった所で風邪を引いちまったモンだから、抗生剤セフェピムの点滴を受けているんだが……。最初は太腿にジンマシンが出て、痒みは感じなかった。それが夜には手の甲や手の平に出て痒くて目が覚め、翌々日には腰にもジンマシン、とうとう昨夜は腕やお腹にまでジンマシンが出て、痒くて眠れなくなった。生まれて初めての、お薬によるアレルギー反応。先生に相談したら、抗生剤の投与は中断しましょう、との事。

 でもなぁ、風邪の症状は確実に軽快しているンだよなぁ。熱もいつもの微熱程度に下がったし、咳も出るには出るけど、咳き込む事はなくなった(咳止めのコデインシロップも飲んでるけど)。やっぱりクスリは逆から読むとリスクってンだから、効果もあれば副作用もあるんだね、ってお話です。

 あ~、お腹と腕が痒い! あ、痛ッ! 点滴針刺さってるトコまで掻いちゃったよ。 ヾ(`皿´)ノ゛ムッキー!!

黒斑

 病院の飯が不味いだの、すき焼きに入れたダイコンが美味いだの、偉そうな事を書き殴ってきたが、とうとう味覚と嗅覚のほとんどが失われてしまった。旨味と酸味はかろうじてわかるンだが、甘味、塩辛味、辛味、苦味、渋味などほとんど感じない。ミカンが少しも美味しくない。むしろスイーティオやグレープフルーツの方が、キリッとした酸味を感じて美味しい。

 まぁ、抗ガン剤治療の副作用で、そんな状態に陥ってしまってガッカリなんだが、今朝、歯を磨いていてガッカリに追い打ちを掛ける症状に驚いた。目で見てハッキリとわかるほど、舌の黒斑が大きくなっていた。これじゃ犬の舌ベロだよ……。両手両足の爪も黒変し始め、両腕の肩口にも虎柄の色素沈着が出ているし、生き腐れのリアルゾンビだね、こりゃ。

 こうして自分の身体に現れ始めた異変を、「うわ~、こりゃすげェわ」 と受け止められるのも、治療が順調に効果を上げているからですね、ってお話でした。

 とは言え、ガンの治療は桶と同じで、チョイとタガが緩んだら、一瞬にしてすべてがバラバラになってしまう。やっぱりカミソリの刃の上を、裸足で歩いているような状態なんだよなぁ。強く踏み込んだら切れる。ビビって摺り足にしても切れる。当然、後戻りって選択肢はない。ゆっくり、慎重に足を運びながら進むしかないンだよなぁ。良いドクター、良い看護スタッフに恵まれている自分は幸せです。

下劣

 朝日新聞WEB版に掲載された、山口県下関市の職員のこのコメント……。

> 山口県下関市内の女性が18日、匿名で市に300万円を寄付した。
> 過去にも5回計700万円を寄付しており、総額は1千万円に。
> 市は「ブームのタイガーマスクと違って息の長い手助けをして頂き、感謝に堪えない」と話す。
   【引用元 http://www.asahi.com/national/update/0119/SEB201101190018.html 】


 オイコラ、調子こいてンじゃねーぞ! なんでタイガーマスク運動にケチ付ける必要がある。この職員の身元洗い出し、取材名目でコンタクトして写真入りでさらし上げてやりたいなぁ。公務員の公務中は肖像権がないし、実名、所属、役職を公表されても、文句は言えないンだからな。

 ったく、この長州の大カッペ市職員は品が無いわ。人の善意や情けに対する礼の述べ方かよ! 片方を持ち上げるために、もう一方を腐すって、どんだけ品性下劣な人間だよ。日本人だったら、

 「タイガーマスク運動により、全国で多くの善意が寄せられる中、
  出来る範囲で支援の手を差し伸べてくださる方にも、
  こうして息の長い手助けをくださる方にも、感謝いたしております」

こう礼を述べるのが当然だろうがッ! 礼儀も誠意の欠片もないゲス野郎め。この増長慢(=増上慢)のゲス野郎は、一度こっぴどく痛い目に遭わせて鼻をへし折ってやらんと、礼儀や誠意ってモンがわからんだろう。

 下関周辺在住の方で、下関市役所に匿名で3千円程度の寄付金を持って行き、「朝日新聞でコメントをしておられた職員の方にお渡ししたい」と、相手を特定し、名刺を頂戴して、にこやかに贈呈写真を撮ってくるスネークはいないか? で、職員の名刺と顔写真を、「朝日新聞にコメントを出していた、下関市役所○○課△△さんに、善意の寄付を届けてきた」 と題して、ニュースサイトに投稿しちまえばいい。寄付を渡すのはこの職員の上司でもイイよ。飼い犬の不始末は、飼い主の責任だからね。

 「この方の部下が品性下劣なコメントを出したんだよ。
  この上司もご苦労が絶えないでしょうなぁ……。
  でも、部下にろくな指導も出来ていない、無能な上司と見なされても仕方ないね」

ってなコメント入りで、上司の名刺と顔写真を投稿すりゃイイ。

 市職員本人であれ、上司であれ、年頃の子供がいたら、その子はいたたまれないだろうなぁ……。学校中で評判になっちゃうモンなぁ。「アイツの父ちゃん、タイガーマスク運動に文句あるんだって」「品のない公務員の子」「カエルの子はカエル、ゲスの子はゲス」って言われる事、間違いない。

 これは左翼や人権団体が昔っから使ってきた、違法性がない上に、家族という最大の弱点を間接的に攻撃する、古典的な嫌がらせ手法。みんなも覚えておくとイイですよ、ってお話でした。

 最近の眠釣はコワイって? そりゃ、鬼に近い生き物だモン。コワイ一面もあるさ(笑)。その代わり、どんな状況にあっても、善意には善意で、義には義で、礼には礼で、誠には誠で応えますよ。D病院の調理請負業者とのマジ喧嘩中だって、支店長や調理員にはちゃんと義・礼・誠を通してきたでしょ?

連携

 D病院栄養科の調理請負業者との和議以降、目に見えて……じゃない、舌に感じて味付けが良くなった。そりゃまぁ、限られた予算(食材費)と、栄養士の先生によって定められた調味料や成分比率、マニュアルによって調理方法が定められている中での事なので限界はある。付け合わせの副食に関しては、お世辞にも美味しいとは言えないが、手抜きや妥協は感じられなくなった。

 が、自分も他の患者さんも、「――ッ! 美味しくなったよな?」っと目を丸くしたメニューがある。スープと味噌汁だ。特に食事規制のない通常食の患者は、朝食はご飯とパン食のどちらかが選べるのだが、コンソメスープが付く事が多い。このスープの味が格段に良くなった。腎臓療養食や重湯の患者さんには味噌汁が付く。しかし、塩分は極端に控えた超薄味。だが、腎臓療養食の患者さんも、重湯の患者さんも、「「んんん~? 味噌汁がウマイ!」と首をひねっている。てか、美味しくて首をひねるのもおかしな話なんだが、間違いなく美味しくなった。

 良い仕事をしてくれるようになって喜んでいたら、栄養科の栄養士さんと調理員さんが部屋を訪ねてくれた。

  「眠釣さん、お食事は改善されましたでしょうか?」

  「ご自分でどう思われますか?」

  「気付きの足りなかった部分を話し合い、改善しました」

  「うん。スープとサラダで、皆さんのお気持ち、お心遣いを感じてます」

  「どのように良くなりましたでしょうか?」

  「僕だけじゃなく、患者さんみんながね、『スープと味噌汁が美味しくなった!』って」

  「うれしい! 実はスープやお味噌汁のダシの取り方に注意を払う事にしました」

  「付け合わせも、イイお仕事をされているのがわかりますよ。
   残念ながら、まだ美味しくはないけど(笑)」

  「そうですか……」

  「でもね、手抜きや慢心や妥協は感じられないよ。
   皆さんが一所懸命やって、もうこれ以上はどうにもならない、ってわかります」

  「……、おわかりになるんですか?」

  「僕だけじゃないよ。みんなそう言ってる」

  「調理手順や調味料は、厳密にマニュアルで定められてますから……」

  「わかってるよ、僕らはお豆腐をシャブシャブにしろ、なんて言わない」

  「???」

  「湯豆腐はどうやったって湯豆腐にしかならんでしょ。
   お豆腐でしゃぶしゃぶは作れないのは当然じゃん(笑)」

  「努力や気遣いを評価してくださる……」

  「うん。何度も言うけど、不味くて食えなくても、お年寄りの患者さんは
   『不味くて食えない』って絶対に言わない。いや、言えないんだよ。
   その結果、持続点滴による強制栄養に切り替えられてしまう。
   これで退院できなくなるし、口から物が食えないと心が折れ、弱っちゃう。
   だから僕は貴女たちの慢心、手抜きが許せなかった」

  「ご指摘、本当に申し訳なく、身に沁みています。
   これから時々、ご意見を伺いに上がってよろしいですか?」

  「もちろん! 僕だけじゃなく、何人かの患者さんにも聞いてみて」

  「はい、私達作り手と患者さんとの距離を埋めたいと考えました」

  「直接のコミュニケーションって大事だよね。
   お互いの顔が見える、思いがわかり合えれば、美味しくなくても許せる(笑)」

  「はい、申し訳ないですけど(笑)」

  「これからも良い仕事をお願いしますね(笑)」

  「はい、暖かいお言葉ありがとうございます。
   調理員全員に申し伝え、心引き締めて参ります」

  「皆さんを信じて、頼りにしてますからね。信頼してますよ!」

  「はい!」

 今後は時々、自分に限らず、栄養科の方が患者さんから意見を聞き、自分達の仕事の評価を直接聞く機会を持つとの事だ。作り手と食べ手の患者が連携できれば、不平不満も激減するってモンだ。

 なんとも良い気分だった。自分も、調理員さんも笑顔で話し、気持ちが通じ合った。もっと前から、こういったコミュニケーションが取れていればよかったンだけど、今からでも遅くはありませんよね、ってお話でした。

舌楽

 某さんからお見舞いに、自家製燻製と見事な丹精のダイコン、そして過分のお心遣いまで頂戴してしまった。なんとも有り難く、また恐縮至極……。

 早速、ダシで炊いて粉山椒を振り、熱々を炊きたて飯と共に……、ってワケにはいかないのは、先日の日記に書いた通り。
<舌悦 http://ameblo.jp/minchoh/entry-10768104410.html >
なればランチジャーで運べる、最善の調理方法を考えねばならぬ。脳内の引き出しを開けたり閉めたりしながら、ツラツラと考える事、小一時間……。

 メイン食材は旬のダイコン。身体が温まり、休薬中の体力回復に適した栄養価の高い料理で、塩分や糖分は控え目にするにはどうすればよいか? ダイコンと粉山椒の相性は非常に良く、かつ薄味仕立てでも美味しく食べられる。運動不足と抗ガン剤治療の副作用による便秘予防に食物繊維をより多く摂取し、さらに若干貧血気味なので、赤血球・血小板を増やすために鉄分豊富な春菊や肉類も摂りたい。滋養豊富で消化吸収の良い卵も欲しいな。と、なると最適の調理方法は……。

  「 ダ イ コ ン ・ ゴ ボ ウ ・ 春 菊 ・ 牛 肉 の 柳 川 風 鍋 」

 よっしゃァ、調理方法は決まった。早速、家内に携帯メールでレシピを送信。作り方は簡単。

 1.ダイコンを薄い銀杏切りにして、フキンかペーパータオルで水気を取る。
 2.ゴボウはささがきにしておく。
 3.ダイコン、ゴボウを上質な牛脂、砂糖、醤油、日本酒で甘辛く味付け。
 4.牛肉を加えてすき焼き風に焼き、手ちぎりした春菊をサッと炒める。
 5.火を止めて溶き卵を流し込み、柳川鍋風の半熟状態に仕上げて完成!

 ダイコンをすき焼きに入れる家庭は少ないと思うが、我が家では定番のすき焼き食材。それを柳川風に応用しただけなのだが、一味唐辛子や粉山椒を振り、飯と共にアフアフ、バクバクとかき込む幸せ……。もうね、想像しただけお腹はグーグー鳴る、よだれは垂れてくる。コレは舌の悦楽、「 舌 楽 」 ですよ、ってお話でした。

 家内からメールの返信が来たンだが、「今日は作ってらンねー!」 だって。じゃ、明日のお昼にお願いします(笑)。

 明日の牛肉も飛騨牛A5かって? いや、明日は地元ブランドの知多牛(ちたうし)の特選すき焼き用ロース肉です。【知多牛 http://www.chitagyu.co.jp 】 乳牛のホルスタイン種と黒毛和牛との交雑種で、飛騨牛や松阪牛などの和牛肉牛と比べたら相当に格下なんだが、飼育方法の工夫や、交配する和牛の変更により、今では相当に美味しくなった。交雑牛なので 「 和 牛 」 を名乗る事は出来ないが、すき焼きやビーフシチュー、カレー、ハヤシ、ハッシュドビーフなどに最適。コストパフォーマンス抜群で、国産牛としてかなりお買い得なお肉です。

 某さん、本当にありがとう存じました。重ねて御礼申し上げます。

奇跡

 抗ガン剤治療第三クールの休薬期間に入り、昨夜から抜針(ばっしん)と言って静脈に刺してあった留置針を抜いてもらった。抗ガン剤による肉体的疲労、それと静脈を休ませる期間ね。強いお薬を流し込まれていた静脈は、炎症を起こしてカチカチになってしまうのだよ。

 で、この休薬期間になると、血液検査による白血球数や貧血状態など、各種チェック項目で問題が無ければ、お風呂に入ったり、外出・外泊許可を受けて出掛ける事が可能になる。まぁ、点滴刺し、点滴台引っ張りながら外出、ってのはあり得ないワケです(当然だわな……笑)。

 そんな入浴可能になったから、ってワケはあるまいが、先ほどの深夜2時30分。首筋から背中にかけて、凍り付くような寒さと冷たさ感じて飛び起きた。名古屋の最低気温は0度……って違う! むくんでバッツンバッツンに膨れ上がった首筋を冷やすために当てていた、氷枕がパンクしたのだッ! 枕もシーツもベッドパッドもマットもズブ濡れ……。大慌てでナースコールを押し、看護師さんを呼ぶ。看護師さんが状況を言わずともスッ飛んできた。昨日、抗ガン剤ブレオの追加投与を受けてるから、体調不良が起きた、と思ったンだろうなぁ。

  「どうしましたッ!!」(血相を変えた看護師さん)

  「えっと……、あの……、氷枕がパンクした……」(上半身びしょ濡れの眠釣)

  「えっ?」

  「突然、氷枕がパンクしたらしく、氷水でビショビショになっちゃった……」

  「身体は大丈夫? 気分は? 自分で着替え出来ます?」
 
  「うん」
 
  「早く着替えて。タオルと着替えはありますか?」

  「うん。大丈夫」

  「じゃ、シーツ、枕、ベッドを直しますから」

  「は~い」

 応援の看護師さんも駆け付け、二人でテキパキとベッドを直してくださった。やれやれ……。よもや病院、それも病床で寒中水泳する羽目に遭うなんてねェ……。やっぱり眠釣ってなぁ、あり得ない事を次々と引き起こす鬼籍……じゃない、奇跡の男だと思うよ、ってお話でした。

 いや~、マジで心臓に 「ギクンッ!」 ときたし、本当に鬼籍に入っちゃいそうだったわ……(笑)。

舌悦

 食材にはそれぞれ 「旬」 ってモンがあって、冬には冬に旬を迎えるモノを食うのが一番なのは言うまでもないんだが、栽培技術、品種改良、海外輸入ルート、輸送技術、保存技術の進んだ現代では、真冬でもトマトだろうが、スイカだろうが、買い求めようと思えば何だって手に入れられる。

 自分は肉類や魚類も好きだが、40代末から野菜類の美味さに目覚め、とりわけ根菜類を好んで食うようになった。今の時期、一番好みの料理は、ダイコンをシンプルに出汁で炊き、粉山椒を振って、炊きたての飯と共にフゥフゥと食う。他におかずなどいらない。あぁ、言い過ぎた。ダイコンの葉の塩もみ、程度の香の物は欲しいな。残念ながら入院中の身の上では、この至福の一品を味わう事が出来ない。

 病室の天井を見つめながら、「ダイコン炊いて、食いてェなぁ……」 と独りごちていたら、不意に牛肉のタタキが思い浮かんだ。なんだ、この思考の飛躍は? ともあれ、思い浮かんだら最後、食べたくて食べたくて、どうにもならなくなってきた。しかし、今日は抗ガン剤治療第三クールで、ブレオマイシンの追加投与日。ブレオマイシンは自分にとって、微熱、吐き気、耳鳴り、血圧低下などの直接的な副作用が最も出やすいお薬。投与されたら、牛肉のタタキなど食べたくなくなってしまうに違いない……。そうだ、そうだ、気分が悪くなってしまうかもしれないから、やめた方がイイ。うん、諦めよう……。

  「あ~、もしもし。あのさ、今日のお昼なんだけど、牛肉タタキってお願いしてイイ?」

 お~いッ、眠釣! オマエは何を頼んでいるんだ? 吐き出しちゃうかもしれないぞ!

  「お肉食べられるの?」

  「う~ん、ブレオ投与なんだけど、今の気分はどうしても牛肉のタタキなんだ……」

  「生肉ダメじゃない? 白血球の値は?」

  「大丈夫、7千ユニットあるから正常値の上の方」

  「ホントだね?!」

  「ウッソじゃねーって!」

  「ローストビーフじゃダメなん?」

  「グレービーソースじゃなくて、ポン酢味で食べたいんだ」

  「う~ん、じゃぁ、作ってあげるけど、気分悪くなっても知らないよ」

  「大丈夫だと思う。根拠はないけど(笑)」

  「わかった。残したら私が食べるからイイよ(笑)」

 抗ガン剤の追加投与は午前中で終了。それも耳鳴りだけの、ほぼノーダメージ。正午……。家内が昼食を持って登場! ランチジャーを開けると……。

 1.上段保冷パック=牛肉のタタキ&茗荷刻みサラダ
 2.中段保温パック=芝海老とネギの焦がし醤油風味チャーハン
 3.下段熱蔵パック=モヤシとシイタケと生ニラの中華スープ

 やった~ッ! 大好きメニューばっかりじゃーん。ベッド上で小躍りしながら、牛肉のタタキを……、ウッマァ~イ! 時季外れだが茗荷の風味がビンビンに効いていて、ポン酢+ワサビとの相性も最高。このお肉……、高かっただろうなぁ……。サシの入り方、色合い、脂の甘味、どれもこれも申し分無い。目を閉じ、肉の出自を探るような表情で食べていると、家内が一言。

  「飛騨牛A5だよ!」

  「ゲッ! マジで?」

  「お肉食べたいって言うから、”最高のモン食べさしたげよう” と思った」

 ここで ”松阪牛” じゃないトコが家内らしいね(笑)。いやいや、飛騨牛は最高のお肉ですよ。自分も松坂、飛騨、神戸、米沢など、どれも美味しいし、味にどんな差があるなんてわかりません。ともあれ、今日は「口福」 ならぬ、舌の悦び、「舌悦」 を楽しんでしまいましたよ、ってお話です。

 贅沢しすぎだって? うん、自分もそう思います。でもね、それができるように自分は頑張ってきたンだよ。そして我が身の幸せを噛み締めながら、闘病の日々を過ごしてます。

 俺ァ、末期ガンなんだよ。いつ死んじまうかも知れないんだから、自分で稼いだ金で贅沢したってイイじゃん(本音)!

出処

 全国に波及し、善意の輪の広がりが留まるところを知らない 「タイガーマスク運動」。見返りを期待しない匿名での寄付、寄贈。イイね、素晴らしい、それなら自分も……。って、な流れになって、善意の連鎖が続いているンだが、自分は初めて児童擁護施設に匿名での文具寄贈を申し出た時に、

 「 ま っ た く の 匿 名 で は 頂 戴 で き ま せ ん 」

と、キッパリ断られた事がある。なぜか……。

 「 申 し 訳 あ り ま せ ん が 、 寄 贈 品 が 故 物 ( 盗 品 )
   で は な い 証 と し て 、 お 名 前 を お 願 い し ま す 」

 その施設では寄付や寄贈のお礼として、子供達が手作りした、施設名入りの湯飲み、箸置き、小皿などをくれる。手染めの手拭いやハンカチもあるなぁ。ゆがんでいたり、ガタついたり、柄が滲んでいたりするけれど、それはそれで味わいがあって愛用している。

 今回のタイガーマスク運動、自分は匿名でも、実名でもどっちでも良いと思う。ただ、注意して欲しいのは、一方的善意は時に相手先の迷惑となる場合があるので、気をつけて欲しい。

 食品類は安全性の問題もあって、破棄される可能性があります。それと古着類も困るそうです。そうそう、寄贈品の置き去りは拾得物として警察に届けねばならなくなるので、スグに活用できません。寄贈目録なりメッセージは必須です。 匿名での寄付でも、事前に施設側に連絡をしておかれる方が、確実に善意が届きますよ、ってお話でした。

 おかしなエセ団体や、政治的意図のある団体が背後に潜んでいそうなトコに寄付するよりも、本人に何ら落ち度がないのに、ツライ境遇にある子供達の支援を、自分は強く支持します。人の情けに縋る分際で、「ナンチャラ闘争」だの「ホンニャラ要求獲得」だの「スットコ運動完徹」だのと、クソ生意気なスローガン掲げやがって、結局は酒喰らって、タバコ吸って、パチンコで遊ぶクズどもになんかに支援など無用ッ! そんな連中には公園の炊き出しだけで充分だよ。