『光る君へ』第19回「放たれた矢」の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

フゥ……まさか一条天皇の〈おほとのごもり〉を実写で観る日が来るとは思わなかったぜ! むしろ、これを実写化したいがための脚本家 大石静の起用だったのか? さすがNHK、民放にできないことをやってのける!

 

〈大殿籠る〉とは、「寝る」「寝室に入る」の尊敬語です。作中でまひろがビックリしていましたが、あれ、ほぼほぼ史実なんですよね。『枕草子』に記録があります。

関白 道隆が亡くなる2カ月ほど前の995年2月。前月に春宮妃となった淑景舎女御(中宮 定子の同母妹)が、登華殿 東廂(定子のプライベートな客間)を訪ねました。中関白一家も同席し、団欒を楽しんでいたところ、午後2時ごろに一条天皇がお越しになりました。

 

一条天皇は定子を従え、登華殿の身舎(もや。建物の本体部分)で大殿籠らせ給いました。その後、日の入りごろに一条天皇がお出ましになるまで、お供の殿上人たちは登華殿 南の簀の子縁(外廊下)で酒食のもてなしを受けました。

 

一条天皇が還御遊ばすと、中宮は家族の元に戻って歓談を続けました。しかし夜になるとまた一条天皇のお召しがあり、清涼殿にお渡り遊ばしました。

……お供を待たせて何をしてるんだ、なんて思っちゃダメだよ。相手は天皇なんだから。儀式や物忌みで精進潔斎しないといけない夜も多いので、寝られる時に寝ておかないとね。一般的な〈寝られる時に寝ておく〉とは意味が違うけど。ちなみに、袴だけを脱いで致すので、すぐ人前に出られるそうですよ。

 

 

そして、もうひとつの〈これって史実なの???〉案件、長徳の変が勃発しました。きっかけのアホ臭さとのちの歴史に与えた影響の重大さの落差が、おそらく日本史上一番のバカ事件です。これで道長の長期政権が確定しちゃうんです。主役は10年ぶりに登場の花山院。ぼくの期待を上回る見事な飛びのきっぷりを拝見できました。眼福。

 

なにが起きたか、正確にはわからないんです。ただ、事実として認められることは、大内裏の北東隅に隣接する一条殿(故 藤原為光邸)の付近で、中関白家の従者と花山院の従者が争い、弓矢が用いられたということだけ。花山院方の童子ふたりの首が切られて持ち去られたとか、院の袖を矢が貫いたとかいった尾ひれのついた噂は、本作では採用しなかったようです。

 

坊さんを傷つけることは一般人を傷つけるより法的罪が重いし、宗教的な罪でもある。これだけでも出仕差し止めに値する罪なのに、その坊さんは上皇さまです。この時代、貴族に対する死刑は行わない慣例ですが、大逆罪は死刑の復活を検討すべき案件でしょう。

 

しかし、花山院側にも落ち度はある。上皇が夜歩きをするだけでも不適切なのに、花山院は最愛の弘徽殿女御を弔うために出家してますからね。お相手が弘徽殿女御の妹 四の君だからセーフなのか? いや、それならちゃんと結婚を申し込んで、上皇御所に女官として迎えればよかったんだよ。この当時の出家者は出家前と変わらない生活を送るのが普通だったので、結婚してはいけないってこともないし。

 

いずれにせよ、花山院は被害を訴えることもできず、泣き寝入りするつもりだったようです。しかし、どこからか情報が洩れます。いったい誰がなんの目的で情報を流したんでしょうね? ここでブラック道長爆誕ってことになるんでしょうか。期待して待ちたいと思います。