胡蝶の夢の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

第17回は、蝶に始まり蝶に終わりました。冒頭では、病み上がりのまひろが眺める庭に蝶が舞いました。ラストでは、憑き物が落ちたように穏やかな表情になった道隆が、愛妻 貴子と最期の別れを惜しむ庭でも、2匹の蝶が黄色い花の周りを飛んでいました。旧暦4月に咲く花だから、ウマノアシガタ(金鳳花)でしょうかね。

 

ウマノアシガタ

 

日本文学史上の大きな謎なのですが、『万葉集』には蝶の歌がないんです。〈かはひらこ〉という和語があるのに歌に詠まれず、平安時代に漢語の〈蝶(てふ)〉が定着するんだけど、それでも「なんか中国っぽいもの」と思われて、やまと心を表現する歌にならない。もちろん、日本に蝶がいなかったわけじゃないのに。誰か、この謎を解いてみませんか?

 

 

例によってまひろはお金稼ぎの書写をしていました。今回は『荘子』斉物論から、胡蝶の夢のくだり。荘子は中国 戦国時代の思想家。孔子の弟子 曽子との混同を避けるため、「そうじ」と読まれます。

 

荘子が昼寝をしていたところ、蝶になって飛びまわる夢を見たといいます。目覚めてから思ったのは、

「俺ってじつは蝶なんじゃないの?」

ということ。蝶が理屈っぽい小役人のオッサンになった夢を見て、困惑しているのかもしれない……。

 

夢と現(うつつ)を区別する方法はなく、現世の出来事に執着する必要もない。蝶が見る夢に過ぎないのかもしれないのだから。

 

 

さわさんは、まひろから受けとった文を書き写して持っていました。紙の上に墨書きされた線の集合体でしかないものが、まひろを逆恨みしていたさわの心をほどくほどの力を持っていた。それを知ったまひろは、なにを書けばいいかはわからないものの、筆を執ります。

 

現実世界のまひろは婚期を逃し、将来の展望もない貧乏貴族です。でも、夢の世界を舞う蝶こそが、本当の自分なのかもしれない。まひろがやがて紙の上に展開する夢の世界は、現実以上の現実として千年の命を得ることになります。