ぼくが かんがえた さいきょうの たいが の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

※約2600文字。自分の考えをまとめるために書きたいだけなので、読まんでいいです。

 

 

大河ドラマはただの長編ドラマではないと思います。視聴者側にも1年のドラマに付きあう覚悟が必要です。90分の映画なら主人公はクズ野郎でいいし、1クールの連ドラなら主人公が自己中野郎でもいい。しかし、大河の主人公は、みんなのために頑張る人であってほしい。素直に応援できる相手でないと、1年もたないから。できれば第1回で、せめて1月中に主人公を好きになりたいところです。

 

2020年『麒麟がくる』は、第1回冒頭、盗賊に襲われた村にハセヒロ明智光秀が駆けつけます。文句なくカッコイイ。盗賊を倒した光秀は、「弱いものを守るためには、強い国、大きな国を作らねばならない」と決意する。光秀を弱きもののために戦う好青年として描いたからこそ、最悪の裏切りである本能寺の変がなぜ起こったかという謎もまた深まる。うまい引っぱりです。

 

2021年『青天を衝け』では、子役時代に作品のテーマが示されました。主人公・渋沢栄一に母が商売の心得を教えます。

「商売というものは自分だけ儲かればいいというものではない。みんなが笑えるようにするのが良い取引だ」

渋沢栄一の両親は農家であり商工業者であり、当時としては洗練された教養を身に着けた人物で、しかも頭が固くはない。こういうまっとうな夫婦に育てられた渋沢栄一が視聴者を変なかたちで裏切るはずがない、と素直に信じられる。

 

2022年『鎌倉殿の13人』は、視聴者の愛着を形成するのがちょっと難しかった。序盤の物語を牽引するのが、源頼朝の個人的な復讐心だから。

 

頼朝は父・源義朝を死に追いやった平家に復讐したい。しかし、いま平家政権のもとで日本が安定しているのなら、安定を崩すことは悪と言える。応援しづらいキャラクターなんです。そこで脚本家・三谷幸喜の技が必要になる。

 

まず、第1回で脳筋野郎・和田義盛にこう言わせます。

「平家の奴らは、みんなイヤな奴だぞ」

そんなわけあるかーい! 視聴者は内心でツッコミを入れる。主人公・北条義時も視聴者同様にツッコむ。

「あなたが関わった平家の人が、たまたまイヤな奴だっただけでしょ」

そうだ、そうだ。義時の言うとおり。この時点で視聴者は義時の感性を信用してしまっている。

 

ところがこのあと、義時自身が平家の奴らのせいでイヤな目に遭います。平家方の代官に丁重に挨拶したのに手土産を馬鹿にされ、土下座を強要される。あれ、もしかして平家の奴らはほんとに全員イヤな奴なの? 平家のせいで苦しむ人が日本中に沢山いるのなら、頼朝の個人的復讐心に乗っかって平家を倒すのは、みんなのための行為と言える……。

 

第1回で北条義時が視聴者の信用を得ると同時に、義時役・小栗旬の技量を見せたのもうまい構成でした。小栗旬は乗馬の師匠から「特技の欄に〈乗馬〉と書いていい」とお墨付きをもらうほど稽古したそうです。終盤で義時は〈姫〉を馬のうしろに乗せて、敵に包囲された北条館を脱出します。第1回冒頭で見たシーンが再現され、〈姫〉の正体が明かされて小笑いを取るのが三谷節ですよね。

 

『新世界より』の荘重な響きの中を駆け抜けながら、未来の敵たちの映像が浮かび上がるのもワクワクしました。平清盛、木曽義仲、源義経……。第1回の引きはとりあえず成功。まあ、ぼくは三谷幸喜アンチなので、見つづけるかどうか迷ってはいましたが。関西人は東京の笑いを寒いと感じちゃうんだよな。でも、質のいいものを持ってこられれば、寒くても評価はします。好き嫌いと良否は別問題。

 

 

 

大河ドラマの視聴率ワースト1・2の2作は、一月中に視聴者の愛着を形成するという課題に失敗したのだと思います。ワースト1の2019年『いだてん』は第6話以降いちども10%を越えず、世帯視聴率平均8.2%という惨状でした。

 

第1回が失敗でしょう。明治時代~を描く前半と昭和の東京オリンピックを描く後半に分かれる構成なので、第1回で後半の登場人物の顔見せをしておいたのです。が、どんな人物なのか分からないまま、半年後にしか見ない人物をいま見せられてもね。普通に金栗四三誕生からやっとけば、少なくとも第2回は見てもらえたはず。

 

第2回以降も、スポーツの話と落語の話、明治の話と昭和の話がひんぱんに行き来し、明治ファッションを見たいだけのぼくをイライラさせました。けっきょく〈見られる時だけ見る〉というスタンスになってしまい、ラストの落語の伏線回収がチンプンカンプンでした。時間の行き来と落語さえなければ、とくに後半は名作だったのにねぇ。クドカンのやりたいことを全否定してますが。

 

 

ワースト2の2023年『どうする家康』は、家康の性格がね。能力値は高い(少なくとも大高城の兵糧入れ以前は)のに、家臣や領民のためにそれを使う気がなく、ただ好きな女の子と結婚するためだけに隠していた能力を見せるという設定。自己中すぎて応援しづらいわ。

 

兵糧入れ以後も「わしがみんなを守るんじゃー!」と叫びはするけど、叫ぶ以外に具体的にはなにもしない。こんな魅力のない殿様なのに、なぜ家臣団が慕うのかサッパリわからん。

 

脚本家が〈斬新な発想〉と思って、あえて魅力のない家康を書いているのかもしれない。でも、なぜ斬新かと言えば、前作までの脚本家が誰もやらなかったからであり、なぜ誰もやらないかと言えば、失敗するからです。好きになれない奴の人生に、丸一年も付きあってられんわ。

 

 

ワースト同率3位のひとつ、2015年『花燃ゆ』も愛着を持ちづらい主人公。「幕末版男はつらいよ」「イケメン大河」「セクシー大河」「幕末男子の育て方」というまったく胸を打たないキャッチコピーが発表された時点で不安でした。幕末男子たちがワーワーやってるうしろで、主人公がおにぎり握ってるだけ、という映像ばっかり。いてもいなくても同じだよ。

 

おなじく3位の2012年『平清盛』については、主人公はいいんだけど、〈平○盛 多すぎ問題〉がどうしようもなかったね。史実だからしょうがないんだけど、いっそ全員の衣装に名札を付けるぐらいの思い切りが必要だったかもしれない。

 

 

そして〈多すぎ問題〉といえば、2024年『光る君へ』も不安です。〈藤原道〇 多すぎ問題〉をどう解決するんでしょう。こんな過疎ブログを読んでくださる方のために、ぼくも解説記事を書いていこうとは思っているんですが。