書くなら義経よりこっちが先だろ!ってツッコミをいただきそうなので、頼朝と義時、二人について自分なりに整理してみようと思います。
と言いつつ、正直もうだいぶ終盤まで義経に夢中だったので、あんまり追えてないというか……ギリ義時は観るようになりましたが、頼朝については「だめだ回数が足らん!TLの頼朝の女たち、あとは頼んだ!!」ってなってたので、あんまり期待はしないでください(笑)
■平安のマリウス・アンジョルラス
…ってことですよね?今回たぶん(笑)
特に頼朝さんは中の人的にもそうだし、役柄的にも完全に踏襲されているというか……レミゼを知るフォロワーさん達と「頼朝まじポンメルシー」でだいたい意思疎通できたのだいぶ笑う。
だって、義経の死後のあれ(S17/邂逅)とか完全にカフェソングじゃん…(笑)
で、そう考えた時に義時がアンジョかって言われると、まぁ役柄的には全然違うなとは思うんですけど。でも平野さんのあのウェーブヘアで後ろでひとつに縛ってるの…偶然ですか???ってなりますね(笑)
■難儀な人 頼朝
出てきた瞬間、衣装がルドルフなのは笑うのよ。というのはまぁさておき。
個人的に歴史において、勝者にある勝者なりの悲しみや苦しみに気がいってしまう方なので、今回もまぁ頼朝さんかなぁと思ってたんですが、なんというか今回の頼朝には「難儀な人…」という感想を抱きました(笑)
理想を掲げ人心を掌握し、ビジョンに向かって突き進んでいく行動力と信念。なんというか天性のリーダー!って感じですよね。このへんたぶんムックさんの脚本から多少頼朝像に変化もあったんだろうなとも思っています。パンフの歌詞とか見てると多少打算的なところも見られるというか、「自治権とかなかった発想だけど、そう考えてたことにしよ!」て(笑) 内藤くんという人を通したことでよりピュアなリーダー像になったんだなと感じました。
一方で彼は自身が大切にしたい・しなければならない身近な人たちは大切にできなかった人なんですよね。政子しかり、義経や範頼といった兄弟しかり。冒頭の八重と千鶴丸のことから察するに彼も家族に飢えていた人だとは思うし、政子に対する「生涯かけて守ります」や義経に対しての「まだ兄弟らしい会話すらできていない」から考えても、大切にしたい気持ちはあったはずなのに、理想を前にするとそういう自分の情ですら見えなくなってしまう。良きにつけ悪しきにつけ、誰に対してもフラットに愛情深かったことが、裏目に出てしまったというか……大切にしたければ、時には特別扱いしないといけないこともあるんだよ頼朝。。。
政子との別れのシーン、すごく切なかったですね…。政子は頼朝のことを男性として愛しているし、だけどそれを素直に伝えて彼に縋るには、父・時政が頼朝にした仕打ちは酷かった。一方で頼朝も政子の愛を知ってしまって、だけど八重のようには愛せない自分の心も知ってしまって…お互いの想いが釣り合わない、初めに戻って一からやり直すこともできないとわかって、そのまま別れを告げる。…シシィ頼朝とフランツ政子による「夜のボート」だな、これ(笑) 切なく、そして祭シリーズ随一のロマンティックなシーンでもあったなと思います。内藤くんの日比谷仕込みのラブシーン力が遺憾なく発揮されていた…!!特に30日夜に水筒がゆっくり静かに倒れたところとか、偶然とはいえもはや芸術美だった……。
話が逸れました。弟たちとのことも印象的で、正直範頼も義経も、めちゃくちゃ兄上に懐いてる弟だと思うんですよ、1幕とか観てると。ただ、頼朝が自分達の持つ棟梁像だったり武士像からあまりにかけ離れてて、二人ともついていけてなくて……頼朝、圧倒的に対話が足りてないんですよねぇ、大事にしないといけない相手と。って思うけど、このあたりはそれまで他人に理解されなかった(真剣に取り合ってもらえなかった)背景が影を落としているのかなぁ、とも思います。
だからこそ、自分の考えを理解してくれる義時という相手は頼朝にとって特別だったし、出航直前の表情なんかを見ると、頼朝には珍しく人に執着も見せたようにも思いました。実際義時が頼朝へ与えた影響って大きいんじゃないかと思っていて。義経を腰越(言及はされてないけどたぶんそう)に留め置いた時、当初義時が会いに行くと言っていた義経のところに、どうして頼朝が行ったんだろう(義時が行かせたんだろう)と不思議だったんですけど、あれもしかすると、義時の「自分なら相手が時房でも斬れる」を聞いた頼朝が、事と次第によっては義経を斬る、と言って会いに行ったんじゃないか、という気がしてるんですよね。これはもう憶測の域を出ないんですけど。でもだとしたら、すごい変化だなと思うわけです。何より、頼朝の真意はどうあれ、そしてそれが義経の狙ったことであったとしても、頼朝は最後は義時と、彼と一緒に見た夢を選んだわけなのでね…。
そんな頼朝が、結局最後にはこだわり続けた自分の理想は友に託して、自身は亡き弟の想いを背負ってたった一人で大陸へ向かう、というラストはなんだかすごく感慨深いものがありましたね。
■策士策に溺れ、それを背負って生きる 義時
終盤2・3公演で急に気になる男になった義時!(個人的感想)
序盤の義時って、伊豆というせっまい世界で自分以外の他人は全員バカと思っている典型的な「井の中の蛙」なんですけど、一方で純粋に自分でも難しいような問題が出てくるのをワクワク待つ子どものようでもあり、自分を連れ出してくれる王子様を待つヒロインのようでもあるんだな、ってなんか急に思った回がありました(笑) 海の中での頼朝さんとの対話で「なんだそれは!暗号だな!解いて見せる!」のとことか、なんか絶妙に可愛いんですよね。
ただ自分のこと完璧な天才だと思っているけど、実際は頼朝が初めての友達のような男だから、情緒が全然育ってないというか、こと人の感情が絡むことになるとめちゃくちゃポンコツで。義時可愛いよ義時。
富士川で頼朝が自分の策に乗ってくれなかったときは、怒りながらもあれ裏切られて傷ついた顔してるし、「あいつの産む1は面白い、俺は0を1にはなせない」のところも千秋楽とかすごい悔しそうだったし、頼朝が海に落とされたと聞いたら泳げない彼を思って思わず走り出してしまったり…それは友情って言うんだよ義時!みたいな気持ちになる(笑)
そんな義時なので、彼の考える策は完全に、人の感情方面のことに手落ちがありまくりだったんですよね。それが終盤の破綻につながっていく。本来そのへんを補うのが頼朝の役割だったけれど、よりにもよって対義経でそこのケアが漏れてしまった。終盤の衣川、義経に対峙する義時が、ずっと悔しそうであり悲しそうな顔だったのはそういうことだったのかな、と思っています。「…わざと捨てたか」も「お前…!」も、本当にそういう顔だった。初めて、「自分の策が掬いあげられなかったもの」を認識した存在だったんじゃないかな、義時にとって義経は。
もちろん、兄に斬られようとする義経を見てしまった時に「しまった」という感覚もあったんだと思います。1幕こそ非情になれない頼朝に業を煮やしていた義時ですが、2幕になると頼朝が頼朝らしくあることを望みはじめていた。弟を斬らせたくはなかったし、斬るなら自分が、という覚悟があったから。
そういった意味で、衣川は義時にとって、頼朝・義経兄弟に対する大きな責めを負ったシーンだったんだろうなと思いました。
ただそんな感情音痴だった義時の、「頼朝に生きていてほしい」という理屈じゃない本音が、きちんと頼朝に届いたのは本当に美しいなと思います。そして数々の悲しい出来事を経て、きちんと感情を表現できるようにもなった。船出の時に頼朝と笑いあった義時の笑顔は屈託のない本当に良い笑顔で、そして彼を見送る表情はきちんと寂しそうで、あぁ彼の成長が描かれたなぁと胸がいっぱいになりました。
こうして振り返ってみると、やっぱりシンるはこの二人の物語だったんだなぁと感じますね。なんか思った以上にこの二人、「二人の世界」があったんだな…(笑)お互いがお互いに影響を与えて、一緒にひとつの夢を目指して。だけど二人でたくさんのものを傷つけて失って。ただの美しい二人としては描かれていないのが、かえってすごく魅力的だなと感じました。