いやーー君だよ君、佐奈。あとムックさん。やってくれたな!!という気持ち(笑)

佐奈義経、非常に魅力的でしたね…。

我ながらこっから書くんかい、って感じなんですけど。ええええ私ってこんなに(今回はまさに文字通りの)判官びいきだった!?なんならどっちかっていうと勝者の苦しみに寄り添いたい方じゃない!?るフェアとか後半頼朝さん派だったじゃない!?ってなってるんですけど!笑

それでも今回はここに触れずにはおれまい、という感じなので。

 

■悲運の英雄だけではない義経

ふせったーで書いた内容の繰り返しにもなってしまいますが、初見こそ義経が病魔に蝕まれる・直接兄に斬りかかる等の大胆脚色に振り回されたものの、振り返ってみるとそれは瑣末なことで。むしろ「戦働きでないと輝けず、幕府の中にいたところで担がれるリスクがあるだけ」という、悲運の英雄以外の彼の側面を真正面から描いてたと思います。

そんでそれを裏付ける時政の暗躍、というのは史実とは違ってもお話としてはうまいなぁと。

るフェアのときにも書いたかもしれませんが、義経の持つ力って実際鎌倉に置いとくと危ないんですよね。本人にその気がなくとも、不穏分子になりかねない。実際後白河法皇にはいいようにもされちゃってるので。そういう私の解釈と一致したというところも大きいかもしれないです。
…今回残酷なのは、義経がそれを自覚してることで。

 

■兄への憧れ

義経って1幕、ずっとお兄ちゃんのことをキラキラした顔で見てますよね。静に「お兄さんに会えるの楽しみだね」って言われたときに「うん」って返すのも本当に嬉しそうだし(特に千秋楽は照れるでもなく過去イチ素直で可愛くてなんかもう心臓搔きむしりたくなった)、富士川後の頼朝と義時の喧嘩の間も、静や弁慶は広元に気を取られたりしているんだけど、義経はずっと頼朝をじっと見つめてて…極めつけは1幕ラストの緞帳が下りる直前の表情よぉぉぉぉぉお!!!皆さんご覧になりました!?(何) それまでの義仲を討った嬉しそうな顔から、鎌倉幕府を成立させる決意を新たにする兄の方を向いて、とてもキラキラした笑顔をするんですよ!!!あれ、兄ちゃんに認められる期待をして、という風にも取ることができるし、それはそれで辛いんだけど、私にはどちらかというと、ただひたすらに兄の役に立ちたい、兄の目指す鎌倉幕府を自分も支えたい、って顔に見えて、2幕の展開を思うとその数秒間でマジで情緒をむちゃくちゃにされました。そしてそのまま休憩を迎える毎回…。

もちろん義経も、棟梁の座を狙っているようなことを匂わせたり、戦をしようとしない兄に困惑しているような節も見られるんですが、もともとの彼の動機的にはそのあたりどうでもいいというか、だって出会う前から、自分を「頼朝の弟」と名乗るぐらいには兄に焦がれてたんですよ(これは2幕のシーンですが)。純粋に家族の愛情を求めている(これについては後ほど)だけなので、結局1幕の時点ではストレートに、自分が一番力を発揮できること(戦働き)で兄の役に立ちたいというのが彼の根幹だと思うんですよね。

 

■兄のために散る、戦場に咲く花

で、2幕ですわ。幕府構想に見当たらない義経の役職…幕府に自分の居場所がないことをすぐに悟ってしまう。

頼朝はできるだけ多くの役職…って言ってたけど(これについては特別義経を意識したわけでもないだろうけど)、とにかくそんなこと義経は知る由もなくて。知ったところで義時が知恵絞って幕府構想を考えて、そこに義経の活躍できるような場はなかったって結果が、より辛くなるだけだよな…。

そして平家追討を、自分の存在価値を示す好機ととらえた。戦で活躍すれば、法皇から認められれば、兄は自分を見てくれるんじゃないかと期待して。平家追討ダイジェスト、義経がどんどん余裕がなくなって表情が曇ってくのが辛くてね…ブロマイド売れたとて嬉しくないのよね…。兄を慕って本当は支えたかった鎌倉のことも「まるで貴族の幕府」「こんな小さな国」とこき下ろさなければ心を守れないほどに、彼は絶望していく。

 

今回の義経、政で活躍したり暗躍したりするほど賢くはないけど、でも聡いんですよね。そして速い。(余談ですがこれが戦働きでは大いに役立ったのかなとも思います。)

るフェア厨の戯言なんですけど、それこそあっちの義経くんは、まじで兄がどうして自分の排除に出たのかわかってなくて、ずっと「兄ちゃんはそんなことしない!」の一点張りで、死の間際も兄を(あるいは兄の偶像を)信じていたわけで、それはある意味幸せだったかもしれないですよね(その分頼朝さんは地獄だけど)。

ところがシンる佐奈義経は自分の立ち位置も、役立てる領域もよく理解している。終盤は、理解していった、の方が正しいかもしれない。

時政の登場から梶原に殺されるところまで、舞台上フォーカスが当たるのは時政ですが、義経は舞台上手でどんどん項垂れていっていて、そしてそれには段階がいくつかあって、これはあくまで私の解釈ですが、そこで彼が何を悟っていったのかまで見えるようだったんですよ。

まず自分が担ぎ上げられたということ(時政登場)、自分には担ぎ上げられるだけの価値はある・自分の意志に関わらず危険分子になりえるということ(時政の真意を聞いて)、頼朝と義時の絆(頼朝が登場してからの二人のやり取りを見ながら)、旧体制側の自分は役に立てないどころか二人の邪魔になるということ(時政の最期)、そうならないために自分はどうなればいいのか(手から離れた刀をじっと見つめながら)、といった具合に。

頼朝に向けられた「誰よりもわかってる!」にはこういうの全部含まれてて、そうだなわかってないのはむしろ頼朝さんだよな…って泣いた。

そして彼は、敬愛する兄の理想とする鎌倉の人柱になることを自分の役割と信じて、「主のために命を張る」最期を選ぶ…兄であり主である、頼朝のための命。武士として死にたい、戦場でしか咲かない花として散りゆきたい自分の思いも遂げる形で。

義時に斬りかかりながら背中で頼朝が刀を抜くのを待ち、その時が来たのを知ってその刃を自ら受けに行きますが、振り返る直前に微笑んだあの笑顔が、義経の想いのすべて。


■素直じゃない義経の理解者 静

もう井深の静が本当に良くて~~~~~……。

静って、冒頭からずっと義経の「本心」…特に兄への想いかな、それに寄り添うことだけを考えていて。1幕から義経の本音を見抜いてましたが、2幕衣川はもうめちゃくちゃ泣かされましたね。

前述の時政の真意がわかった時に項垂れていくところ。静が義経の背にそっと寄り添ったところで、義経が一気に小さくなるんですよね…。静が義経の張りつめた心を少し解いたようで、悲しいけれどすごく美しいシーンでした。弁慶の手前(というか義経にとっては弁慶も静も同じくらい大切だっただけだと思いますが)、素直になれなかった義経ですが、常に義経の心に寄り添ってくれる静のことを、義経も心から愛していた。

そして静から義経への深くて激しい愛がわかるのが頼朝との対峙。ここで静が義経と頼朝との間に割って入るところが2回あって。一度目は「この俺が切り捨てられる時代になどさせない」と頼朝に刀を向けるところ…邪魔だと突き飛ばされても飛び込んだところ。二度目は義経が喀血しそうになるところ。ここ、もちろん隙を突かれて義経が斬られないようになんですけど(それも十分すごいんだけど)、喀血を頼朝さんに見せないように立ち塞がったようにも見えるんです。本当は兄に刀なんて向けたくなかっただろう想い、病に冒された自分なんて兄に見られたくない想い、義経のそういう想いを汲み取って静は動いてたんだなって思いました。飛び込むときの静は、とにかく迷いがない。それこそ鎌倉で「しずやしず」を謡い踊った静御前の強さだなぁと思います。

一方でそれ以外はずっと泣きながら目の前の出来事を見てて…きっとどうしてこうなってしまったのか、って思ってたんだろうな…って思ったら静に感情移入して涙止まらなかったです。

静の最期の台詞、「安心おしよ、今度は必ず家族に生まれるから。もうひとつも寂しくない」。

これが義経のすべてなんだと思いました。家族への渇望、寂しさ。

義経は静や弁慶、子どもたちに強くて頼れる親分としての姿ばかりを見せようとしたけれど、静が愛したのは、救いたかったのは、そういう義経の子どものような魂だったんだと思います。

 

■最期の同志 義時

皮肉なことに、本当に皮肉なことに。義経の最期の理解者は、頼朝ではなく義時でした。

わたし今回日に日に義時が好きになっていったんでたぶんまた別記事でも書くんですけど、義時という人を義経サイドから見てみた時に、最初の印象から最悪というか。富士川の戦いの後、頼朝に「能無し」って言ったあそこが、第一印象なんですよね…最悪(笑) そのうえ大好きな兄は義時にばかり構うし、そりゃあ悔しくもあるし、憎かったと思います。

だけど、最期に義経の想いを汲み取ったのは義時だった。千秋楽配信では映ってなくて、かつアングル的にたぶん下手でしか拝めないんですけど、喀血した義経に「なんだその血。頼朝は知っているのか」とかと問うたあそこ。すごい形相で振り返った義経を見て、義時が発した「お前…!」、義時もすごい顔してるんですよ。義経が今何を望んでいるのか、どこに着地させようとしているのか、全部察してしまった顔。

本当は頼朝の身内の命を奪うのは本望ではないというか、三種の神器のこともあるし義経を討たなければならないというのはあったけれど、義時としてはおそらく想定もしてない割と最悪の状況に至っていて。だけど当の義経は全部わかってて、その覚悟を以てこの場に臨んでいることを、そして残り少ない命を咲かせようとしていることを知ってしまった。

すごく悲しそうで、すごく悔しそうな顔をしてました。それはまぁそうですよね。どう考えても頼朝さんが深く傷つく展開で、だけど義経がやろうとしていることは最適解に近いもので。「頼朝の望む正解」が絞り出せなかった義時の失策(だと彼自身が思っていそう)でもあり、なんというかもうここは観ていてすごく苦しかったです。

それと同時に、義時も義経と同じく、頼朝が望む世界を作りたくてそこに居たから、義経の想いが誰より理解できた。だからこそ、義時はもう義経の策に乗るしかなくなった。

「義経追討」を鎌倉の、頼朝のためにする。頼朝の役に立ちたい。その義経の願いを遂げさせる。

決して相容れなかった、憎んですらいた義時は、最期に義経最大の同志になった。

戦の鬼才と、鎌倉の策士。手を組めば最強だったのに、唯一手を組んだのがこの結末を迎えるための策、というのがストーリーとしてはたいそう美しく、そしてなんとも悲しい。

 

 

……って義経だけでなんぼほど書くん!!?って感じになってしまいましたが、まだこれでも足りてないんじゃないかと思うくらい、佐奈義経が大好きでした。

そしてあらためて、源義経という人が持つ物語性も認識せざるをえない。

寂しがり屋で意地っ張りで、賢くないのに聡くて、美しくて悲しい、魅力的な義経でした。