71720円。
あたしにとっては
「はした金」じゃない。
むしろ清水の舞台から
飛び降りるくらいの金額だった。
でも買った。
カリモクの椅子を。
しかもオーダーメイドで。
天然木も。
座面の生地も。
それを包む素材も。
全部自分で選んだ。
完成まで二ヶ月。
今年の誕生日。
たぶん
自分が自分に贈った
プレゼントとしては
一番高価なものだったと思う。
実はあたしは四年前にも
この椅子に恋をしている。
実の父母と同居を決めて
今の家に引っ越す頃だった。
ショールームで見つけた瞬間
「あ、これ好き」
と思った。
お尻が「ひと目惚れ」ならぬ
「ひと尻惚れ」した。
腰痛持ちのあたしには
夢心地の座り心地だった。
でも買わなかった。
いや。
買えなかった。
その頃のあたしは
介護しかしていなかった。
コロナでライブは全部飛んだ。
収入もほとんどなかった。
そして何より
あたしなんかにこんな椅子は
もったいないと思っていた。
振り返ると
腰痛が始まったのは
もっと前だった。
2016年。
義理の父が不慮の事故で
身体障害者一級になった。
寝たきりだった。
同じ頃
実の母は長年の糖尿病患者。
毎月の外来に付き添い
インスリンを学び
食事管理をし
血糖管理の機器とも格闘した。
もちろんダウン症のある娘もいる。
三人のキーパーソン。
それがあたしだった。
その上で歌も歌っていた。
発信もしていた。
相模原事件もあった。
デモにも参加した。
講演もした。
曲も作った。
元気そうに見えたと思う。
でも正直に言う。
限界は近づいていた。
もっと頑張らなきゃ。
もっと作らなきゃ。
もっとしっかりしなきゃ。
そして心より先に
身体が悲鳴を上げた。
腰だった。
最初は違和感だった。
でもやがて激痛になった。
保護者会で座れない。
湿布臭い毎日。
病院も行った。
整体も行った。
本も読んだ。
薬剤師さんに勧められて
夏樹静子さんの
『椅子がこわい』も読んだ。
なるほど!と膝を打った。
もちろん本の内容すべてに
納得したわけじゃない。
でも、
「椅子が怖い」
という感覚だけは痛いほどわかった。
なぜならあたしもそうだったからだ。
2020年。
義理の父を見送った。
悲しみと寂しさと同時に
おとーさん、お疲れ様。
闘いがやっと終わったね。
そしてあたしの闘いも。
そう思った。
でも人生はそう簡単じゃなかった。
今度は実の母が認知症になった。
2022年。
同居を決意した。
2023年。
今度は実父が指定難病になった。
衰弱していった。
正直、
じいじの方が認知症の母より
先に逝ってしまうかもしれない
本気でそう思った。
家には三人の障害者。
キーパーソンは私。
あの頃は、
生きていることそのものが
苦しかった。
この地獄はいつ終わるんだろう。
そう思ったこともある。
だから今回、
椅子を買った話を書こうと思った時
途中で気づいた。
これは椅子の話じゃないぞ、と。
これは
あたしがあたしを
抱きしめるまでの物語だ。
椅子に包み込まれながら。
オフィスチェアもたくさん試した。
高機能チェアも試した。
ヘッドレスト付きも試した。
このケツで試乗した。
数えきれないほどたくさん。
何年も何年も探した。
途中、椅子迷子になり
結局いちばん腰が楽な椅子は
トイレの便座だと気づいた。
「そうか便器か!」
全力でパパに
購入を止められた日もあるぞ。
そして椅子についてもう一度
よーく、よーく考えた。
あたしは椅子に座って
寝る人じゃない。
あたしは書く人だ。
歌を作る人だ。
キーボードに向かう人だ。
だから私にはヘッドレストよりも
自然に背筋が
伸びることの方が大事だった。
そして最終的に、私の答えは
ダイニングチェアだった。
天然木は歳を取る。
少しずつ飴色になるらしい。
経年劣化ではなく成熟。
それがなんだか
人間みたいで好きだ。
あたしも若くはない。
老眼もある。
腰痛もある。
でも昔より深く笑える。
昔より深く書ける。
昔より深く人を愛せる。
だからこの椅子と一緒に
歳を重ねたいと思った。
71720円。
あたしにとっては安くない。
本当に安くない。
でも買った。
なぜなら、
その時のあたしは思ったからだ。
明日も書きたい。
明後日も書きたい。
来年も書きたい。
もちろん未来なんて
誰にもわからない。
あたしだって
病気になるかもしれない。
事故に遭うかもしれない。
寿命なんて誰にもわからない。
これから先、
あと何本
ブログが書けるだろう?
あと何曲歌えるだろう?
あと何回あーちゃんに
笑わされるだろう?
あと何回じいじに
振り回されるだろう?
そんなことは
誰にもわからない。
それでも。
椅子をオーダーした日のあたしは
まだ生きたいと願っていた。
だから買った。
振り返ると不思議だ。
2016年のあたしは、
たぶんこの記事を書けない。
忙しすぎたから。
苦しすぎたから。
あの頃はただ、
毎日を生き延びることで
精一杯だった。
でも2026年の今だから書けた。
ようやく答え合わせが
できるようになったからだ。
そして今。
カリモクに座って
このブログを書いている今
この椅子をもう
高い買い物だったとは
これっぽっちも思ってない。
お尻が喜んでいる。
あぁ‥‥やっと出会えたね。
シンデレラフィットの椅子に。
ただただ職人さんに
感謝とリスペクトしかないぞ。
人はよく言う。
寝具にはお金をかけろと。
人生の三分の一は
布団の上だからね。
だったらさ
椅子にだって
お金をかけていい。
だって私は
人生のかなりの時間を
ここで過ごすのだから。
命を預ける場所なのだから。
でも‥‥
もっと大事なことがある。
それは‥‥
どんなに良い椅子でも
座り続けないことだ🤣
あたしの腰痛の最大の敵は
安い椅子ではなかった。
諸悪の根源はなんと‥‥
同一姿勢だった😱
だからあたしは立つ。
掃除をする。
あーちゃんのお世話する。
ご飯を作る。
介護をする。
洗濯をする。
また書く。
時に筋トレ
ストレッチもしながら。
あたしは机の上だけで
生きているわけじゃない。
生活者として生きている。
そして生活者として書いている。
たぶんこれが、
あたしの作り手としての
答えなのだと思う。
生きながら書く。
暮らしながら書く。
その中で見つけた小さな光を
言葉にして残していく。
腰痛と介護と創作を越えて。
あたしはようやく
自分のケツにカリモクを許した。
自分を後回しにしてきたあたしが
ようやく自分のことも
ちょっと労わってあげようねって。
たぶん一生この椅子に
あたしのケツを預けるだろう。
大事に大事に使おう。
壊れたら直そう。
あたしと一緒にゆっくりと
熟成させていきたいと思う。
愛すべき、この椅子を。
暮らしの中で笑い
時々泣き
家族に振り回され
またネタを拾い
「聞いて聞いて🤣」
と読者の皆様に
語りかけるような
ブログを書いていきたいなぁ。
そんなことを思いながら
今日もあたしは
