「ねじまき鳥クロニクル」 村上春樹
何年か前から、村上春樹の長編を発行順に読んでいる。
データは、wikiの作品一覧「長編小説」を参考にしている。
第1作「風の歌を聴け」から、本作で8作目になる。
文章は相変わらず素晴らしい。名文だと思う。その上、とても読みやすい。
本作も出だしはゆっくりしてる。
スロースターターなのは、雑誌連載ではなく書き下ろしだからなんじゃないかと以前に他の作品を読んた時にも書いた気がする。
第一部の半分くらいまではまるで面白くなかった。
物語の舞台など、今回はこれまでの長編にあった“無国籍感”とでも言えるものが少し薄れた気がした。
その分、現実的でリアルな世界に少し寄せたのかと思った。
“加納クレタ”とか“赤坂ナツメグ”とか、キャラの名前は抽象的で、ストーリーは相変わらずシュールなんだけど、印象として。
当然ながら、昔の作品とは変化してきていると感じた。
個人的には、これまで好きだった世界にまた触れたいと思っていたので、予想を裏切られた感じはあった。
これは、悪い意味ばかりではなく、いい意味でもある。
作り手はやっぱり、受け手の予想を超えて進化して行くべきものだと思うので。
この後の作品がどうなっていくのかは、まだ読んでいないから分からない。
下手に検索して知ってしまうのも嫌なので、作者についてもあまり調べないことにしている。
(wikiも作品の順番を見る程度にしていて、全部は読まないようにしてる)
間宮中尉の話は残念ながら、事前にある程度知っていた。
情報を完全にカットすることは出来ず、何かで見てしまった。
それでも、読んだ時はやはりびっくりした。これがそうか、と。
村上春樹の文章世界で、こういう残酷な生々しさを描いているのが不思議な感じだった。
奥さんの「クミコ」の印象がずっと悪かった。
主人公への態度に刺を感じた。
なぜ、主人公はこの女性を愛し続けているのか。よく分からなかった。
と思ったら、第二部で出ていってしまった。
主人公が井戸に降りていった辺りから、これまでの作品で読んだような世界が始まるのかと思った。
特に、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を想像した。
(我ながら、いささか想像が安直だ。笑)
でも、ここからの展開も期待したイメージとはちょっと違った。
「世界の終わり〜」で感じた緊張感とも違う。
おどろおどろしい、気味悪さを感じた。
初期の、おしゃれでどこか牧歌的な世界はもう出てこないのかな。
と、少し寂しい気持ちがした。同時に、新しい世界に期待した。
第三部では本格的にエンジンがかかって、物語がオムニバス形式のように多層的になってさくさく進んだ。
先が気になって、読むスピードも上がった。
個々の話はとても面白かった。本当に見事な小説で、どうしてこんなものが書けるんだろうと思う。
ただ、全体像を理解出来ているとはとても言えない。
相変わらず難解だった。
どうしてこんな妙な小説を書いたんだろう、と思った。
(大変失礼だとは思うんだけど、市井の一読者の戯言だということでご容赦頂ければと。これが、学校のレポートや仕事なら何とか理屈をひねり出して体裁を整えるんだけど、ここでは正直な感想を書きました)
以下は印象に残ったところ。本筋とはあまり関係ないかも。
新潮文庫(38刷改版以降)で読みました。
【第1部】
P19、60 やれやれ(おなじみの表現が今回も出てきた。ただ、大分減った)
P136 5月のメイ(これも以前にどこかで出てきた)
P256 (主人公の叔父が笠原メイの近所に住んでいた宮脇という人物を評して)
苦労を知らんのか、それとも苦労が身につかんのか、いずれにせよ年相応に年が取れないってタイプだ。
P284 謎の女性からの電話
あなたの記憶にはきっと何か死角のようなものがあるのよ。
【第2部】
P104、111、238、264 やれやれ
P118 病院の待合室について。
(前略)難しい陰気な顔をしていた。それはムンクがカフカの小説のために挿絵を描いたらきっとこんな風になるんじゃないか(攻略)
純粋に、面白い表現だと思った。
P200 笠原メイが主人公を分析して。
(前略)だからきっとあなたは今そのことで仕返しされているのよ。(中略)たとえばあなたが捨てちゃおうとした世界から、たとえばあなたが捨てちゃおうと思ったあなた自身から。(攻略)
シュールだけど論理的。
P357 私はその質問に答えなくちゃいけない?と問いかける笠原メイに主人公が。
(前略)君がその話をはじめたんだ。
うまい切り返しだと思った。
P370 主人公に対して、叔父がアドバイスを送る。
それをうまくやるためのコツみたいなのはちゃんとあるんだ。
(中略)コツというのはね、まずあまり重要じゃないところから片づけていくことなんだよ。
この叔父は銀座に何軒もお店を持って成功していて、その体験を踏まえてアドバイスしている。
村上春樹のお店は国分寺かどこかだったと思うけど(エッセイで読んだ気がするけど、忘れてしまった)体験が反映されているのかなと思った。
【第3部】
主人公の元を去った笠原メイは何度も手紙で登場する。
このキャラが出てくるとゆるい雰囲気になるのが楽しい。
主人公と奥さんのクミコがチャットするシーンでは、相変わらずクミコに魅力が感じられなかった。
そのせいで、主人公が「帰ってきて欲しい」と願う気持ちに共感出来なかった。
これは私だけじゃないと思うんだけど、どうだろう。
P139、598 やれやれ(コンスタントに出てくる)
P432 牛河が主人公に、綿谷ノボルについて話す
一人の人間が誰かを憎むとき、どんな憎しみが一番強いとあなた思いますか? それはね、自分が激しく渇望しながら手に入れられないでいるものを、苦もなくひょいと手にいれている人間を目にするときですよ。
P499 皮剥ぎボリスが間宮中尉に対して
この国で生き残る手段はひとつしかない。それは何かを想像しないことだ。想像するロシア人は必ず破滅する。
P506 皮剥ぎボリスが間宮中尉に対して
君は自分が私を殺すところを何度も頭の中で想像していた。(中略)忠告したはずだ。想像することは命取りになるとな。(後略)
P569 えへん(これは、おなじみの表現ってほどではないかも)