小田原 | 群衆コラム

群衆コラム

耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

とある方面から

来週キャンプをやりますがいかがですかと

お誘いをいただいた。

場所は千葉県。

ここは長野県。

そんなに遠くまでキャンプに行ったことなんて

ないよなあと思ったのは一瞬で、

いや、あったあったと思いなおした。



千葉ではないが、小田原まで行ったことがある。

わたし以外はみな東京の人で、

たしか小田原の駅で10時に待ち合わせるはずだった。

そこからさらに電車に乗って

キャンプ場に行かねばならなかったのだが、

その場所を知っている人がひとりだけだったので

みんなで集まって行かざるをえなかったのである。



それなのに、わたしは待ち合わせに大幅に遅れた。

高速道路が渋滞したからなのだが、

遅刻は遅刻。

じゃあみんなに連絡をしようと思ったときに、

はじめて携帯がないことに気がついた。

うっかり忘れてきてしまった。

少し焦ったが、現地に行けばなんとかなるだろう、

キャンプ場なんてそうたくさんあるもんじゃないし、

と動かぬバスの中で開き直った。



当たり前だが、待ち合わせ場所にはだれもいなかった。

最寄り駅は、うろ覚えだった。

その情報も携帯電話に入っていたから、

しっかり見ていなかったのである。

しかたがないので、

たぶんこの駅、という駅を目指した。



着いてみたら、無人駅だった。

駅員さんにキャンプ場の場所をきこうと思っていたのに、

あてが外れて途方に暮れていると、

1台の車がやってきた。

レンタカーだった。

そこにキャンプ仲間が乗っていた。

まるでわたしがこの時間に来るのがわかっていたかのように

車が現れたので、

「なんでわかったの?」ときいたら、

「なんでここにいるの?」と言われた。



仲間たちは時間をすっぽかし連絡もよこさなかったわたしを

とっくにあきらめていたのだった。

じゃあなんで駅に来たのかというと、

道に迷ってUターンしようと思ったのだという。

そしたら、わたしがいて相当おどろいたらしい。

じつは携帯をうちに忘れてきましてと白状すると、

さらに驚いていた。



今度のキャンプに参加するかどうかはまだ決めていない。

行くならば、携帯だけは忘れないようにしたいところだが、

携帯忘れてなんとかたどり着くドキドキもまた捨てがたい。

狙ってできる経験ではないから、

あの小田原キャンプは貴重だった。

いま思えば、そうだ。