体力のいまむかし | 群衆コラム

群衆コラム

耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

強いといえば、

幕末当時の人は体力もある。

ものすごく、ある。



坂本竜馬は土佐から江戸へ剣術留学しているが、

少しだけ舟を使い、

その他はほとんど歩いている。

土佐から江戸まで自力で行くなど、

一生に一度の大旅行に思えるが、

竜馬は何度か往復している。

それだけでなく、

京都へ行ったり、大阪へ行ったり、

福井へ行ったり、江戸へ行ったりと何か思いつくたびに、

ちょっと行ってくるという感じで出かけていく。



本の中では、旅程が省かれるので、

出発した途端に着くのだが、

もちろん歩いていっている。

にもかかわらず、そのフットワークの軽さは

現代の交通機関を利用して

移動しているかのような錯覚を起こさせる。



まだわたしが小学生だったころ

不思議に思ったことがある。

日本の歴史で

たとえば武田信玄が川中島の戦いをするけれど、

戦ったということは、

武田信玄が川中島まで行ったということである。



かりに甲府から川中島まで電車で行ったとすると、

2時間18分かかる。

これは特急に乗った場合である。

こんなに長い距離を移動してたら、

戦どころではないじゃないか、と思った。

武田信玄は馬に乗っているからまだいいが、

足軽は自分の足で歩き、

いざ戦いになったら、

これまた自分の足で駆け回り

おまけに生きるか死ぬかの殺しあいをせねばならない。



わたしだったら、いやである。

川中島まで歩いただけで、

もう十分。

それなのに戦国の世の人は、

歩くだけでは飽き足らず、

命がけの戦いをし、さらに歩いて戻ってくる。



これが本当のことと思えないということは、

当時の人と今のわたしとでは、

体力がちがいすぎるのだろう。

時代は下って幕末になっても、

この日本人古来の体力は守られていたように思う。