甘い循環 | 群衆コラム

群衆コラム

耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

ひさしぶりに街へ出た。

ひとで賑わう大きな街である。

つぎはいつ来るかわからないので、

あの店も行きたい、この店も行きたい。

ひやかしに行くのではなく、買いたいものがある。



行ったら行ったで、必要なものだけ買って

さようならというわけにはいかない。

舐めるように棚という棚を眺め回し、

店中をうろうろする。

あいつは怪しいと

お店のひとに思われているんじゃないかと思うので、

カバンを開けるときには、

レジから見えるところで開ける。

気を遣っているつもりだが、

親切になっているかどうかはわからない。



結局1日で欲しいものは買えたのだが、

欲しいと思っていなかったものも欲しくなって買った。

衝動買いというやつである。

わたしの場合、

10万円のバッグを衝動買いすることはないので、

額としてはかわいいものだ。



すごいひとになると衝動買いもすごい。

三國連太郎さんは、

散歩の途中で車を衝動買いしてきたという話がある。

ベンツだったかBMWだったか、そんな車である。

衝動の力はなかなかすごい。



店に入れば棚にはものがいっぱい並んでいる。

だから、ものが買える。

衝動買いができるわけだけれど、

買えるものがなかったころ、

たとえば縄文時代くらい昔には、

この衝動はどこへ向けられていたのだろう。



衝動に駆られて

木の実ををとってきてしまうのだろうか。

魚をとってきてしまうのだろうか。

どれも衝動でやりそうにない。

ものが欲しいというのが

衝動の原点ではなさそうである。



衝動に結びついているのは、買うという行為だろうか。

だとすると、世の中は

なんと甘美なものの上で回っていることだろう。