億劫が邪魔をする | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

誰にでも着られる服が

山のように売られていると思った

カジュアルウエアの量販店。

わたしが行けば選び放題の店だけれど、

祖父母が行ったら選べない店となる。

たくさんあるのは若い世代にあった服で、

祖父母の年代の体型にあったものではなかった。



体型といえば、

やせ、ぽっちゃりくらいのことと思っていた。

大きい小さいではなく、

年代が変わるとウエストとズボン丈のバランスが変わる。

自分じゃ買いに来れん。

祖母が言ったのはもっともだった。



自分じゃ来れないのには、まだいくつか理由がある。

祖母の場合、

近年歩くことがむずかしくなってきている。

歩けるが、異様に遅い。

うちでは極力移動しない生活らしい。

杖をつけばいくらか安定するが、

それは断固拒否している。

人の肩につかまって歩くのはよい。

それは、祖母の意地であると思う。

でも、近所の老人施設には

喜んで通っているらしいから、

どんな意地かはよくわからない。



歩くのにも一苦労だから服の脱ぎ着も一苦労で、

こちらも極力しなくていいようにする。

寒い季節だから余計にやらない。



服が欲しいから買いに行きましょう、

というのがわたしの世代の感覚である。

買いに行くことに、なんの障害もない。

祖父母の世代になると、

障害というか億劫なことだらけになるのだと思う。

店にたどり着くだけでもやっと。

それなのについた店のなかは、

見渡す限りの服の山。

ある人たちには心踊る光景も、

祖父母にしてみれば心折れる光景となりうる。



今回訪れた店は、

祖父母にとってどんなふうに見えていただろう。

いい正月であっただろうか。