松井玲奈短編小説集「カモフラージュ」 - アイドルだからこそ見ていること | プロムナード

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松井玲奈の処女作短編集「カモフラージュ」を読んた。小生、もともと小説って殆ど読まないのだが、松井に就いてはマジすか学園のゲキカラ役の妙演に鳥肌立って以来、また鉄ヲタトークもステキだったので、迷うことなく購入した。

 


内容に触れるとネタバレとなってしまうので書かないが、「誰もが化けの皮を被って生きている」という副題がある様に、およそアイドルとしてはタブーともいえる不倫の様な男女関係や、容姿外形に関するコンプレックス、家族間の心理的な暴力といった、深層にある「静かに潜む凶暴性と向き合う」というテーマに、真っ向から挑戦した作品である。

しかしこのようなテーマ、実はアイドルにとっても、ものすごく身近なことなのだろう。

華やかな大都会の一角に、その歪みでスラム街が発生するのは、どの国でもどの民族でも同じ。それがストレスのはけ口。だから自治体も、それを監視こそしていても、完全に撲滅させようとはしない。なぜならゼッタイに無くならないし、無理やり廃絶させようとすると、地下専行が進んで管理が出来なくなるからだ。
同様に、派手なアイドル業界にも暗黒地帯があって当たり前だし、アイドル達もよほどのポンコツでない限りはみなそれを知っているはず。

松井も、それをしっかりと見て聞いて、あるいは実際に体験してということなんだろうと思う。しかも天性な感受性を持ってそういう暗黒な部分を見てきたのだろう。

 

そう思うと、カバーを外したハードカバーの外装がシュールに見えてくる。

 


 

 

かつて大島優子が「松井玲奈の写真集を出すならロケ地は海外の砂浜とかそういうんじゃなく、団地がいい」と言っていたことがあったが、まさにそれ。
生活臭とか言った様な人間らしさがあるからこそ、こういうテーマで小説が書ける。この感性を鈍化させることなく、昇華させていって欲しい。

何の変哲もなさそうな日常の中に潜む仮面を被る自分。副題にある「化けの皮」は、深層心理に切り込むことで明るみに出る、価値観に対する二面性を表しており、この短編集は、まるで自分の事だと錯覚させる様なリアルワールドを舞台に、その仮面と向き合う心の葛藤が描かれている。まさに想定内も想定外もある物語の展開。やっぱ松井玲奈は「ぼ~~っと生きているんじゃないな」と感じさせる。

 

今後の活躍を大いに期待します。

 

ただ、惜しむべくは、本の背表紙のタイトルが著しく見難いこと。写真はある本屋で並んでいる状態だが、このピンクの帯の上部に書かれたタイトルが読めない。これは如何なものかと思った。