我々人類が日々生活する上で下水の完備や整備、その完全なる稼動は衛生面から考えて最も大切な設備のひとつなのだが、その機能や実際のネットワークなど、実のところ殆ど知られていないのが実態だろう。
それはもちろん、興味ない人が圧倒的に多いことや、「臭いものには蓋をする」といった考え、或いは衛生上の問題から人々を遠ざけさせているということもあるとは思うが、意外な盲点として、その存在や機能などが殆どアピールされていないということに原因がある気もするのだ。その意味、この施設の様な積極的な公開は、大変好ましいことだと思う。
この施設は、地上2階、地下5階立て構造となっていて、1階から地下4階までが下水に関する歴史や仕組みなどが陳列されている資料室となっているが、なんといってもここのウリは地下5階にある下水道管への潜入だ。昼の12時から13時の間を除く開館時間帯であれば、扉が開かれているのでそのまま「桃源郷」へ入ることが出来る。
扉の向こうへ行く前に、勿体ぶってこの下水道について記しておこう。
この下水道は、その名称を「小川幹線」と言い、昭和54年-56年に竣工された、家庭からの風呂や台所、トイレ等の生活排水や工場排水と雨水の合流式下水道幹線である。従って雨の日には水位が高くなるので、大雨の時には見学は出来ないと言う。
この小川幹線は、付近から約9km先にある多摩川近くの北多摩処理場で浄化された後に多摩川に放水される。逆に言うと、この施設は文字通り「垂れ流された下水そのもの」を見学させるという、極めてエキサイティングな体験をさせてくれる教育場なのだ。
下水管の直径は4.5m、流量としては47.7m^3/sec(2,863m^3/m)を誇り、幹線という名前に相応しい堂々とした体格を持つ。管内は気温18-20℃で、湿度100%。つまり中は雨模様の小春日和な気候というところか。勾配は1.3パーミル(0.13%)、つまり1m毎に1.3mmの勾配を持っており、下水はその中を緩やかに流れるということになる。
都内には、いくつかの幹線があり、いずれも重要な役割を担っている。小川幹線はそのうちのひとつで、西東京エリアの下水を担う幹線である。
そういう予備知識を持って、いよいよ土管の中へ潜入するとしよう。
先に述べた様に、大雨の際には土管が満水になるほどの下水が流れるので扉は極めて頑丈なつくりとなっており、処々にセンサーやWebカメラが装備されている。ただし、下水は様々なイオンを含んでいるため、電気系統の絶縁性については少し疑問を持った。
さて、その扉の向こうへ行く。
むっとする湿気、確かに100%だ。この感覚は鍾乳洞探検でさんざん体験済みなので、懐かしい感じすらする。がしかし、違うのは気温だ。なんというか、超低温サウナの様なのだ。だが、もっと異なるのは、やはり匂いだろう。これはある意味当たり前なのだが、驚くべきは「期待値を裏切る」という軽度な匂いなのだ。
一般家庭から排水される、つまりトイレやキッチン、風呂から排出される排水の中でダントツに存在感を出すのはトイレで流れるウンコだから、フツーに考えて下水はウンコ臭いはず。
しかし、真の下水は、ウンコ臭くないのだ。
これは大変ショックだった。
答えは、拡散にあった。つまり、ウンコの量と水の量とのバランスだ。確かにウンコは水に溶けて(溶解という意味ではなく、拡散して茶濁する)、薄まるために匂いも分散される。
しかし、それ以上の理由があった。
それは、水中の微生物の活動にあるのだ。
菌類を含む微生物には、好気性と嫌気性の二つの種類がある。好気性とは酸素を好む種、嫌気性は酸素を嫌う種だ。好気性の微生物は、酸素を取り込むことによって嫌気性生物の活動を阻止する。この嫌気性の生物こそが汚臭の根源なのだ。
メタン細菌・硫酸塩還元細菌などの嫌気性微生物が作り出す硫化水素やメタン(ちなみにメタンガスは無臭)が汚臭となる。メタンガスが臭いという定説は間違いで、メタンが発生するときに硫化水素の様な汚臭を伴う物質が同時に発生するためにメタンが臭いと言われるだけのことだ。その他、嫌気性微生物(細菌)としてよく知られているのは、乳酸菌や大腸菌だろう。
整理しよう。
下水は、汚臭を発生させる嫌気性微生物の活動を抑える好気性微生物を活性化させるべく、酸素が送り込まれるために、汚臭が少ない。先に述べた1.3パーミルの勾配は、常に水を動かくことによって酸素を取り入れる様に設計されているということなのだ。
そういえば、汚臭は汚水が滞留しているところで発生している。どぶ川にしてもそうだ。
かつて小生は神田川が生成する汚臭で難儀した覚えがある。万世橋から秋葉原駅まで漂うその「香り」だ。当時、そう、高校生だった頃、地学部の合宿として岩手に行く切符を買うために秋葉原駅で徹夜したときに、神田川から送られてくる「アレ」に目がしょぼついたくらい。確かに当時の神田川は流れは殆ど見えず、滞留していた記憶がある。
人間は、酸素で生きている。故に好気性だ。だからそこから好気性微生物から発生する臭いに対しては不快を感じない。しかし、嫌気性が排出する気体に対しては嫌悪感を感じる。つまり、臭いと思うのは人間の勝手なのだ。
なるほどと思った。
一方、それら好気性微生物は簡単なことで死滅する。それは薬や油だ。薬はともかく、
我々が生活排水として捨てている油で彼らは意図も簡単に死んでしまう。
となると残るのは嫌気性微生物。。。
人間の都合だけで良し悪しを決めるということは、自然の秩序を破壊しているのかもしれない。
尚、現在ビッグサイトで開催されているエコプロダクツ2014展示会に、次のような展示があった。こういう訴求は今後も続けていくべきと思う。




