私が島からバンコクへ戻ったのは、タイの旧正月ソンクラーンの最中でした。
日本人のカメラマンの方が被害に遭われたのは、その四日前のことです。
二ヶ月前に島へ渡る直前に、タクシン元首相に対する判決がことによっては騒動の火元になりそうだと言うニュースを聞いていました。
島にいる間、私たちは新聞はおろかインターネットにも殆んど近づかない暮らしをしていました。
一度だけ三月の終わり頃にバンコクから着いたばかりの人に会い、その人に赤シャツ隊のデモの様子を写した写真を見せてもらいました。
それでタクシン元首相が私たちの望むような判決を受けたことを知り、これによって赤シャツ隊が問題を起こすであろうことは容易に想像が出来ました。
その時に見た写真は、普通のデモンストレーションの様子で、人々はお祭り騒ぎのような感じに見えました。
島を出る間際に、土曜日の騒乱の話をチラッと聞きました。
それもバンコクで何か騒ぎがあったらしいというだけのものでした。
ハジャイ空港で新聞を買い、四日前の事件に関連する記事を読み、大体の事情を知ったのです。
騒乱が起きた場所は私たちが定宿としているゲスト・ハウスのすぐ近くでした。
自分たちがバンコクに居るときには頻繁に歩いたり車で通りかかっている場所なのです。
その定宿に着いてびっくりしたのは、お客が殆んど居らず、一階の部屋は私たちを除いてすべて空室。
こんな事この宿に来て以来初めてです。
10年近く利用しているけど、いつもいっぱいの人気の宿なんですよ。
それを見て、この状況が私たちの想像を超える深刻なものなんだと思いました。
宿の主人が話してくれたことによると、昔からの政治的な動きが複雑に絡まっているらしいです。なのでその彼もこれからどうなっていくのか真剣に心配しています。
軍部さえも二手に別れているようなので、内戦にまで発展しないとも限らないと言うのです。
もう10年以上も前のことになりますが、自由を求めてデモを繰り返した学生たちを鎮圧するために、軍隊を出しデモ隊と激しく衝突した事件がありました。
その時は王様がまだお元気な頃で、最後には王様の前にひざまずく両者の代表がメディアで報道されました。
しかし今、王様はご病気です。
正月の水掛祭りも終わって、また赤シャツ隊の声が大きくなってきたと言うニュースを家のテレビで見ながら、大好きな国タイのこれからの行方が気になるところです。
正月中、ついこの間本物の銃弾が行きかったその同じ通りで、水鉄砲を撃ち合う人々の心にはどんな思いが隠れているのでしょうか。
世界が荒れていますね。
平和を祈ります。