虎太郎、11歳11ヶ月 (1998年1月)
この年の関東地方は雪の当たり年だった。
正月明けに雪が降り、虎太郎を近くのかかりつけ医に連れて行った日も前々日に降った雪がたくさん残っていた。
入院した翌日も昼過ぎから雪が降り始め、子供の初めての入院、聞いたこともない病名、そして寝たきりの子供の姿に酷く落ち込んでいた私は病室の窓からざんざん降る雪を見てた。
その部屋は確か6人部屋で、その日、向かいのベッドに元気な小学1年生の男の子が入ってきた。
こんなに元気なのに入院?
でも、入院するには荷物も極端に少ないし・・・
元気な男の子のお母さんも子供が入院するというのにとっても元気で明るくて、その親子と私はすぐに話をするようになった。
話をすることになったきっかけは覚えてないけれど、落ち込んでいた私が先に相手に話しかけるわけもないし・・・多分、しょんぼりしていた私を気遣って向こうが声を掛けてくれたのでしょう。
その親子はずっと診てもらっていた医師がこの病院に転勤になったため、その医師を追いかけて他県から車で高速を使って2時間以上かけてこの病院に来ているとのこと。
この時も検査入院だった。
「本当は連れて帰ろうと思ってたのに、本人がどうしても泊まって行くっていうもんだから」
「え~っ!? 本人が泊まりたいって言うの」
私には子供が病院に泊まりたいって言うなんて信じられなかった。
「そ~ 家に帰ると弟も妹もいてうるさいし、私も怒ってばっかりだし。病院だと看護婦さん、遊んでくれるし、優しくしてくれるもんね~
」
「うんっ」
「そう・・・なんだ・・・。」
嬉しくてしょうがないというように答えた男の子の満面の笑みを見ながらもどうしても納得できない私にお母さんは笑顔で事も無げに言った。
「ウチの子は生まれた時から入退院を繰り返してるからね~」
「・・・・・・。」
「生まれてすぐ手術して、それから何度も手術してるのよ。 ネッ」
「うんっ そうだよっ、ほらっ
」
男の子はそう言うといきなりガバッと自分の着ているTシャツを捲り上げ、私の目に飛び込んできたのは
無数の傷痕
小さな男の子の痩せた胸に、お腹に、わき腹に傷痕、それも縫い目のある大小様々な大きさの手術痕があった・・・。
つづく